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 やり直した朝。

評価&ブクマ、ありがとうございます。

全年齢ってどこまでOKなのかな?




 朝、目を覚ましたら目の前にアインスの顔があった。じっと見つめられている。


(おおっ)


 わたしは心の中で、声を上げた。素でびっくりする。いつから見られていたのか、気になった。


「おはよう」


 アインスはそう言うと、物凄くナチュラルにキスしてくる。


(何? このスマートさ)


 思わず、固まった。

 そんなわたしをアインスは笑っている。


「そんなに驚かなくても……」


 困った顔をされた。


「昨夜のこと、忘れていないですよね?」


 不安な顔をされてしまう。


「……大丈夫です」


 何が大丈夫なのか自分でもよくわからないが、気づいたらそう口から出ていた。


「昨夜はステキでした」


 安堵したような顔でそう言われるが、わたしの顔は羞恥で赤くなる。


(止めて。そんな感想なんて、いらないからっ!!)


 心の中で悲鳴を上げた。

 リップサービスなのかもしれないが、そんなことを言われ慣れていないわたしにはきつい。昨夜のあんなことやこんなことを思い出して、居たたまれなくなった。

 アインスは思った以上に青少年で、年相応に性欲もあるし、年相応にエッチだった。

 思わず背中を向けてアインスから逃げる。

 だが、逃がしてもらえるわけが無かった。後ろから抱きしめられる。


「照れているんですか? アヤは意外と初心なんですね」


 爽やかな口調で全く爽やかで無いことを言われてしまった。しかも、何やらお尻に当たるモノがある。


(あー、朝だから……)


 若いんだなと納得するが、それが故意に押しつけられているとなると話は別だ。


(嘘でしょ? 朝から?)


 嫌な予感が胸を過ぎる。


「アヤ……」


 甘い声に名前を呼ばれた。耳朶をしゃぶられる。

 ぶるっとわたしは身体を震わせた。






 結局、朝からもう一回、わたしはアインスに付き合うことになった。

 決して、嫌なわけではない。気持ち良くない訳でもない。

 だだそういう諸々の感情を含めた以上に、恥ずかしかった。

 居たたまれないわたしとは対照的に、アインスの方はとてもご機嫌だ。浮かれているのか、もともとそうなのか、スキンシップが今までの比ではなく激しい。隙あらばキスしようとするし、終わってからもわたしを抱きしめて離さなかった。

 お陰で、アインスの綺麗な顔がもの凄く近くにある。

 近すぎて、逆に見られなかった。


(犬やネコに懐かれたと思えば……)


 自分を誤魔化してみようとしたが、無理っぽい。だって、犬やネコはいやらしく首筋を舐めたり、しれっと胸を揉んだりはしないだろう。


「浮かれすぎです」


 困った顔で注意したら、哀しそうな顔をされてしまった。


「ダメですか?」


 問われる。


(イケメン、ずるい)


 わたしは心の中で毒づいた。哀しそうな顔のイケメンにダメだなんて言える人間はどのくらいいるだろう。わたしには無理だ。イケメンには弱い。


「ダメではないですけど……」


 曖昧に言葉を濁した。


「恥ずかしいので、みんなの前では止めてください」


 最低限のボーダーラインを決める。


「二人きりの時なら、いいのですか?」


 問い返された。


(まあ、そう来るよね)


 わたしは苦笑する。


「二人きりなら、まあ……」


 わたしは頷いた。


「じゃあ、ずっとキスしていたい」


 バカップルみたいなことを言われる。


「……いいですよ」


 チュッと触れるだけのキスを自分からした。


「あと、アヤの胸に顔を埋めて眠りたい」


 そんなことを言われる。


「ジェイスみたいなことを言うんですね」


 わたしは笑った。

 ジェイスは小さな頃から、わたしの胸に顔を埋めて、ぐりぐりするのが好きな子だ。Cカップのわたしの胸は小さくもないが、豊満でもない。そんな胸に顔を埋めて何が楽しいのかわからないが、ジェイスにはジェイスの拘りがあるようだ。侍女たちにはそんなことはしないので、母親以外にはしてはいけないことだという認識はあるらしい。

 幼子にナチュラルにセクハラさせる訳にはいかないので、わたし限定なのは助かっていた。

 だが、アインスは以前からその事にあまりいい顔をしない。貴族としては褒められた行動ではないので、アインスが嫌がるのも無理がないと思っていた。


「ずっとジェイスが羨ましかったんです。私が出来ない事をあの子は平気でするので」


 アインスは子供みたいに拗ねる。


(何、それ。ちょっと可愛い)


 きゅんとした。


「アヤはわたしの妻なのに」


 そんなことを言われ、にまにましてしまう。


「子供と張り合わなくても……」


 わたしは小さく笑った。


「でも、ジェイスは……」


 アインスはその先を口にしない。飲み込んだ言葉がなんなのかは、わたしにもわかった。


「血は繋がっていなくても、わたしの息子です」


 きっぱりと言い切る。


「そうじゃなかったら、聖女の力なんて発現しませんよ。たぶん聖女の力の発現条件は愛です」


 わたしは独り言のように呟いた。

 聖女が召還後、力を使えるまでにはタイムラグがある。それは人によってまちまちだ。早い人は数ヶ月で、遅い人は5年も6年もかかっている。何故そんなに違うのかと疑問に思っていたが、今ならわかる。たぶん、本気で誰かを救いたいと思わなければ、力は発現しない。それは義務感とか仕事ではきっとダメなのだろう。そういう相手が出来るタイミングは人によって様々だ。だから、必要な時間は人によって違うのだろう。

 わたしが自分の持論を口にすると、アインスは少し不思議な顔をした。


「そういう大切な記述が、どうして文献にはないのですか?」


 問われる。


「え?」


 わたしは戸惑った。


「聖女の力の発現は、国にとってとても大切なことです。そういう指南書みたいなものはあって然るべきなのでは?」


 一番大事なことが代々の聖女に伝承されていないことに、アインスは疑問を持つ。


「確かにそうですね」


 わたしは頷いた。


「でも……」


 小さく笑う。


「そういう記述があったとして、それは役に立つかしら?」


 首を傾げた。


「聖女の力を発現させるために誰かを愛せと言われたら、逆効果な気がする」


 召喚されて直ぐのわたしだったら、絶対に誰も愛さないと心に誓うだろう。望まれる通りに、聖女になんてなって堪るかと。そういう意味では、発現条件に関して秘匿するのは間違いでもない気がする。


「なるほど」


 わたしの説明に、アインスは納得した。


「全てを書き残すのが最善では無いのですね」


 そう言って、アインスの手はわたしの頬を撫でる。


「力が発現したのが、私のためではなくジェイスのためというはなかなか複雑ですが」


 口を尖らせた。


「アインス様でも力はきっと発現しましたよ」


 宥めるように、わたしは言う。アインスの頬に手を伸ばした。優しく撫でる。

 それをどう受け取ったのかはわからないが、アインスは小さく笑った。





召喚されて自暴自棄になったりもするのです。

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