交渉成立。
評価&ブクマ、ありがとうございます。
いい人になった覚えはありません。
わたしは出来るなら、聖女になんてなりたくなかった。
誰かを救えるほど、自分はたいそうな人間ではない。自分のことで手一杯で、人のことを考える余裕はなかった。
だから、聖女ではないという烙印を押されても気にしない。
そんな器ではないと思い、重責から逃れられたことにむしろ安堵した。
しかし、今になって思う。自分を快く思わない相手の正体くらい、ちゃんと確認しておくべきだった。相手を知らなければ、対策も取れないし報復も出来ない。
そんなおよそ聖女らしくないことをわたしは考えていた。
「実は前々から聞きたいと思っていました。彼らはどういう人たちなのですか?」
わたしに聖女ではないという烙印を押した人たちの話が出て、これ幸いとわたしは質問した。自分に敵対する人の情報は掴んでおくべきだろう。
「それは……」
国王は苦笑した。
「先々代の聖女の血を引く貴族達です」
答える。
(先々代というと、王弟と結婚した聖女様ね)
記憶が合っているか、確認した。
「よく覚えていらっしゃいましたね。その通りです」
国王に感心される。
(そういえば、その結婚で生まれた子孫がいろいろと問題を起こすから、先代の聖女様は結婚して子供を作ることを諦めたのだという話を聞いたな)
離宮に勤めて長い侍女が困り顔で嘆いていたことをふと、思い出した。そういうことがなかったら、先代の聖女様も家庭を持っただろうと彼女は言っていた。寂しい人生を送らずにすんだかもしれないのにと。
召喚者である聖女は、ある意味、孤独だ。この世界には親も兄弟も友人もいない。
だから、代々の聖女様は結婚し、子供を産んだらしい。家族をこの世界に作った。
しかし問題行動が多い聖女の子孫達を見て、先代の聖女は家族を作ることを諦めたという。
(そんなの、ガツンと一度シメればいいんじゃない?)
目には目を--をモットーにしているわたしはそう思う。聖女の子孫だからと周りが甘やかしたのが悪いのだ。世の中には、痛い目を見ないとわからないという人種は確かにいる。
だがさすがにそんな物騒なことは口に出来なかった。聖女っぽくないことくらいはさすがにわかる。
「その人たちは、聖女は金髪で青い目でないと困るのですね」
小さく笑った。
「彼らにとって、聖女の血筋であることはさぞかし誇りなのでしょうね」
バカらしいと心から思う。
選民意識ほど愚かなものはない。何故人は人と比べないと自分の価値を認められないのだろう。所詮人は人で、それ以上のものになどなれないのに。
ちょっとムカムカしてきた。
そんなわたしを国王は訝しむ。
隣に座るアインスを何故か見た。
アインスは違うと首を横に振っている。
(何が違うのだろう?)
気にはなったが、突っ込まなかった。もっと大事な質問がある。
「なんとなく、わたしが聖女だと困る理由は理解しました。ジェイスを襲ったのも彼らですか?」
穏やかに問いかけた。できるだけ平静であろうと務める。そうしなければ、怒りで力が暴走しそうだ。
「その件に関してはまだ調査中だ」
国王は答える。簡単にわかるとは思わなかったので、想定内だ。
「そうですか。では……」
少し考える。とりあえず、はっきりしているところを叩いておくべきだと思った。
「彼らに会わせて頂けませんか?」
聖女の子孫だという貴族達との面会を望む。
「……何のために?」
国王に問われた。警戒されている。
(まあ、普通はそうだよね)
わたしは納得した。心配はもっともだ。そしてその心配は当たっている。自分を狙った人間をただですますつもりは毛頭なかった。
「陰でこそこそされるのも面倒なので、面と向かって話を聞いて差し上げようと思います」
にこりと笑った。自分でも目が全く笑っていないのがわかる。
国王にわかりやすく引かれた。
「何をするつもりだ?」
問われる。
「何も。ただ、話をするだけです」
ふふっと笑みが洩れた。
話した結果、どうなるのかはわたしにもわからない。だが、聖女の力を身を持って感じて貰おうとは思っていた。
「聖女というものがどういうものなのか、聖女の血筋であることを誇る彼らに教えて差し上げたいと思います」
宣言する。
「……それは面白そうだな」
意外な事に、国王は賛成してくれるようだ。ははっと声を上げて、笑う。どうやら、いろいろと腹に据えかねていることがあるらしい。とても楽しそうな様子に堪っている鬱憤の程度が知れる。
「父上?」
キルヒアイズが不安そうに父親を見た。突然笑い出した父親に戸惑っている。国王はちらりと息子を見て、大丈夫だというように頷いた。
「場を作ると約束しよう」
約束してくれる。
(意外と気が合いそう)
わたしは初めて、国王に親近感を覚えた。
「ありがとうございます」
礼を言う。
「たくさん我儘を聞いて頂いたことに感謝します」
にっこり笑って、全ての交渉が成立したという念を押した。
実はアインスとの結婚継続については何も言われていない。だが、わたしに引くつもりはない。どさくさに紛れて、全て条件を飲んでくれたということにした。言質を取ろうとする。今までの条件を全て飲んでくれるなら聖女として働いてみせますよという気持ちだ。
ギブアンドテイクでお願いしたい。申し訳ないが、一方的に尽くすつもりはさらさらない。わたしは自分の幸せを諦めるつもりはない。
「条件は一つも譲らないつもりですね?」
国王に確認された。
「はい」
わたしはいい笑顔で頷く。
国王は深いため息を吐いた。
わたしはじっと国王の返事を待つ。
「わかりました。全て、聖女様の希望の通りに」
国王は了承した。
売られた喧嘩は買っていくスタイルです。




