宣言<国王side>
評価&ブクマありがとうございます。
遅くなりました。m__m
宣言したアヤは言いたいことを言って、すっきりした顔をしていた。
予想していたこととはいえ、国王はやれやれとため息を一つ、心の中でこぼす。
息子の言う通りだなと、隣に座るキルヒアイズを見た。
視線に気づいたキルヒアイズは小さく肩を竦める。
(言った通りでしょう?)
そんな顔をしていた。
アヤを小柄でおしとやかな女性だと思っていたら、痛い目を見ると言われたことを思い出す。
目の前の女性は、国王から見ればまるで少女だ。どこもかしこも小柄で、成長途中のように見える。
だがアヤは立派な大人だ。そのことは話すとよくわかる。自分の意見をしっかり持っていて、理路整然と自分の要求を口にした。しかも、国王の罪悪感まで利用する。ああいう言われ方をしたら、折れるしかなかった。
昨日、聖女が覚醒したことを国王は息子から聞いた。
待ち望んでいた朗報に、国王は単純に喜ぶ。聖女の不在は国の大問題だ。聖女がいることで、この国は安定する。
アヤが召喚され3年。その時が来ることを国王は心待ちにしていた。
しかし、報告する息子の顔は浮かない。
どうしたと問うと、問題は山積みだという返答が返ってきた。
アヤはきっと離宮に戻らないだろうと告げられる。
それは大問題だ。国王は息子と対応策を練る。だが、結局は上手くいかなかった。
召喚されて全てを失ったと言われると、返す言葉がない。
自分たちの罪深さを国王は自覚していた。
「離宮に通って聖女としての勤めを果たすとしても、貴族たちから不満の声は上がるでしょう。カッシーニ家が恩恵を受けるのは確かです」
国王は事実を告げる。
「そうでしょうね」
アヤは頷いた。
「具体的には、どこからそういう不満の声は上がるのですか?」
問いかける。
「主に、貴女様に聖女ではないという烙印を押した連中でしょうね」
国王は答えた。
「実は前々から聞きたいと思っていました。彼らはどういう人たちなのですか?」
アヤは質問する。
「それは……」
国王は苦笑した。
「先々代の聖女の血を引く貴族達です」
答える。
「先々代というと、確か王弟に嫁がれた聖女様ですね?」
アヤは確認した。
「よく覚えていらっしゃいましたね。その通りです」
国王は感心する。アヤが聖女教育を受けたのは2年半も前の話だ。しかも半年しか受けていない。とっくに忘れているだろうと思ったが、意外と覚えているようだ。
それなら今後の聖女教育が楽になるだろう。一から始めなくてすむ。
「その人たちは聖女は金髪で青い目でないと困るのですね」
アヤは納得したような顔をした。
「彼らにとって、聖女の血筋であることはさぞかし誇りなのでしょうね」
揶揄するような口調で笑う。
それはまるで彼らの問題行動を知っているかのようだ。
しかしそんな内情を、誰もアヤには説明していないはずだ。
国王は甥を見る。
アインスは違うと首を横に振った。何も話していないという顔をする。
実は聖女の血を引く貴族達は何かと問題を起こしていた。そこには聖女の血を引いているという驕りがある。
聖女に血筋は関係ない。聖女の力はその血に宿るわけではなかった。そのため、聖女の血を引いていても、聖女の力は使えない。
それは歴史が証明していた。
だから、聖女の血を引いていることは何のアドバンテージにもならない。
だがそれでも、自分に聖女の血が流れていることを誇りに思う連中はいた。その自尊心が、彼らを支えている。貴族とはプライドのために命を賭けられる面倒な連中だ。
ただ聖女の血を誇るだけならさして問題はない。だが、彼らは尊大な態度を取り、周囲から顰蹙を買った。
まともな貴族達は彼らの相手をしなくなる。貴族社会において、彼らはつまはじきにされていた。
しかし、だからこそ孤立する彼らを取り込もうとする連中もいる。彼らには王が弟に持たせた財産がそれなりに残っていた。そこに聖女をあがめ奉る一派が加勢して勢いづく。ややこしいことになっていた。
聖女の力なんて欠片も持たぬくせに、態度だけは偉そうで口うるさい。困った事に、王族の血も引いているので面倒だ。
(血が繋がっている方が繋がらない相手より厄介だな)
国王は苦々しく思った。
「なんとなく、わたしが聖女だと困る理由は理解しました。ジェイスを襲ったのも彼らですか?」
アヤは問う。
理解が早くて、国王は驚いた。自分が思っているよりずっと、アヤは賢いらしい。
「その件に関してはまだ調査中だ」
国王は答えた。
「そうですか。では……」
アヤは少し考える。
国王は何を言い出すのかと、言葉の続きを待った。
「彼らに会わせて頂けませんか?」
予想もしないことを言われる。
「何のために?」
思わず、国王は確認した。意味がわからない。自分を嫌う連中になんて、会っても嫌な思いをするだけだろう。
「陰でこそこそされるのも面倒なので、面と向かって話を聞いて差し上げようと思います」
アヤはにこりと笑った。その目は全く笑っていない。
国王はぞくっと背筋を冷たいものが走った。敵に回したくないと思った。
「何をするつもりだ?」
嫌な予感を覚える。
「何も。ただ、話をするだけです」
アヤはまた笑った。今度はちゃんと目も笑っている。嘘ではないようだ。
「聖女というものがどういうものなのか、聖女の血筋であることを誇る彼らに教えて差し上げたいと思います」
意味深なことを言う。
「それは面白そうだな」
国王は興味が湧いた。はははっと声を上げて笑う。
「父上?」
キルヒアイズは不安そうに父親を見た。国王はちらりと息子を見て、頷く。
「場を作ると約束しよう」
アヤに約束した。
「ありがとうございます」
アヤは礼を言う。
「たくさん我儘を聞いて頂いてありがとうございます。感謝します」
最後は下手に出て、国王を立てた。自分の要求を突きつけて譲らなかった相手とは思えない。
(面白い)
国王はアヤを気に入った。
国王にとって聖女は気に入るとか気に入らないとかいう対象ではなかったのですが、初めてアヤに興味を持ちました。




