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 対話。

評価&ブクマ、ありがとうございます。

国王と対面です。





 翌日、まだ早い時間にキルヒアイズはやってきた。ずらずらと護衛の騎士を引き連れている。


(討ち入りみたい)


 そんなことを思って、ふっと笑った。無理矢理にでも連れて行くつもりなのがわかる。


「わかっていると思いますが、迎えに来ました」


 そう言われた。その顔はとても渋い。疲れているようにも見えた。昨夜、戻ってから何があったのかは知らないが、話し合いは難航したのだろう。


「大丈夫ですか? よく眠れなかったんですか?」


 思わず心配した。嫌味では無かったのだが、睨まれてしまう。誰のせいだと言いたげに、恨みがましい目を向けられた。


(いや。わたしは悪くないからっ!!)


 心の中で、わたしは叫ぶ。勝手に召喚されて、被害者はこちらの方だろう。裁判なら、100:0で勝てそうだ。


「とにかく行きましょう」


 キルヒアイズはわたしを促す。少しでも時間が惜しいというように見えた。先に歩き出す。

 わたしはちらりとアインスを振り返った。小さく一つ頷いて、キルヒアイズの後を追い掛けて歩き出す。そんなわたしの手をアインスが掴んだ。


「え?」


 一瞬、引き留められたのかと思う。側にいた護衛の騎士から殺気が放たれた。邪魔する者は容赦するなとか言われているのかもしれない。


「私も行きます」


 アインスはそう言った。同行すると言う。


「アインス」


 キルヒアイズは咎めるように従兄弟の名前を呼んだ。その声にアインスは自分の声を被せる。


「アヤはわたしの妻です」


 宣言した。

 一瞬、その場はしんとする。誰もが息を飲んだ。

 わたしはにこりと微笑む。


「二人で伺います」


 キルヒアイズにそう告げた。

 行かないとごねるよりましでしょう?--と、目で問う。


「……」


 キルヒアイズは苦虫を噛み潰したような顔をした。


(せっかくイケメンなのに、そんな表情をしたら台無しですよ)


 心の中で、わたしは囁く。


「2人を案内しろ」


 キルヒアイズは騎士に言った。何かを諦めたような顔をする。その後ろで、サイモンが苦く笑っていた。

 わたしはアインスと一緒に馬車に乗る。わたしたちの向かいにキルヒアイズとサイモンが座った。

 アインスは握ったわたしの手を離さない。ずっと繋いでいた。

 キルヒアイズが繋がれたわたしとアインスの手を見て、また渋い顔をする。


「こんなはずではなかった」


 ぼそりと呟いた。

 心当たりがありすぎて、どの話のことだかわたしにはわからない。

 だが、アインスには伝わったようだ。


「本当に欲しかったのなら、ほんの一時でも手を離してはダメだったんだ」


 諭すように呟く。


「……」


 それきり、キルヒアイズは不機嫌そうに黙ってしまった。






 国王との謁見は執務室で行われた。わたしたちは城の奥まで案内される。


「こちらへどうぞ、聖女様」


 国王は恭しくわたしに対応した。ソファを勧めてくる。隣にアインスが居ることは見事にスルーした。追い出しもしないが、相手もしない。

 わたしはアインスと並んで、ソファに座った。手は相変わらず繋いだまま、離さない。

 向かい側には国王とキルヒアイズが座った。キルヒアイズの後ろにはサイモンが立つ。国王の後ろにも側近らしき人が立った。名前は知らないがすらりとしてなかなかのイケメンだ。


「まずは力の発現、おめでとうございます」


 国王は祝いを述べる。

 王子のキルヒアイズとは離宮で毎日のように顔を合わせていたが、国王が離宮に来たことは一度もなかった。初めて会ったのは聖女ではないと烙印を押された時だ。すまなそうな顔をされたことを覚えている。

 別に悪い印象は持っていないが、親しみは全く無かった。祝いの言葉もどこか空々しく感じる。


「ありがとうございます」


 返事に困って、とりあえず礼を言った。ここで偉そうにふんぞり返れないのは庶民故だろう。つい、下手に出てしまった。


(どこまでいってもわたしは日本人だな)


 そう思うと、苦笑が漏れる。


「さて、息子からざっくりとした話は聞きました。私と対話をご希望なんですね?」


 国王は穏やかに尋ねた。だが、その目は笑っていない。偉そうな態度は取っていないのに、圧を感じた。

 しかしここで屈するわけにはいかない。わたしは繋いだアインスの手を握り返した。自分に気合いを入れる。


「ええ。言いなりになって、流されるつもりはありません」


 静かに首を横に振った。


「言いなりというのは少し、聞こえが悪いです」


 国王は困った顔をする。聖女をぞんざいに扱うのが不味いのはわたしにもわかる。


「勝手に召喚し、勝手に聖女ではないと烙印を押し、王命で結婚を強要する。……かなりそちらの都合で振り回されていると感じていますが、違いますか?」


 口調だけは穏やかにわたしは尋ねた。マウントを取る。


「手厳しいですね」


 国王は困った顔をした。


「これだけ勝手なことされたら、怒るのは当然だと思います」


 わたしはぴしゃりと言い切る。容赦するつもりはないので、言いたいことは言うと決めた。腹を割って話せるのは、もしかしたらこれが最初で最後かもしれない。言い残すことも言えずに終わることも無いようにしようと決意した。


「では……」


 国王が口を開く。

 そこにわたしは自分の言葉を被せた。


「烙印を押したことも結婚を命じたこともなかったことにしますなんて言ったら、今、この場で大暴れします」


 にっこりと微笑む。


「……」


 国王は戸惑う顔をした。

 ちらりと、隣にいる息子を見る。

 キルヒアイズは黙って、首を横に振った。それは何を言っても無駄だと言っているように見える。


「この世に、なかったことに出来ることなんて一つもないんです。起こってしまった出来事は、前には戻せない。だから、なかったことにする必要なんてありません。烙印を押されたことは別に怒っていませんし、王命で命じられた結婚も、結果として幸せなのでもういいです。その代わり、今さら、離婚して王宮に戻れなんていう戯れ言、聞くつもりは一切、ありません」


 わたしはさくさくと話を進めた。こういう自分の要求を押し通したい時は先手必勝だ。相手か怯んでいる内に言いたいことを言ってしまうに限る。


「しかし、それでは……」


 国王は困った。

 わたしは真っ直ぐ国王を見つめる。


「とりあえず、こちらの話も聞いてもらえませんか?」


 国王はため息交じりに頼んできた。





譲る気はまったくありません。

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