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 変化。

ちょっとした違和感があります。


評価&ブクマ、ありがとうございます。





 アインスと2人、互いに照れて何とも微妙な空気になってしまった。


(何、これ。恥ずかしい。中学生かよっ)


 自分で自分に突っ込みを入れたくなる。中高生くらいなら微笑ましいが、40過ぎてこれはただ痛いだけだろう。恥ずかしくて居たたまれない気持ちになった。

 それを救ってくれたのはジェイスだ。

 目が覚めたらしく、メイドに連れられて食堂にやってきた。


「パパ? ママ?」


 顔が赤いわたし達を不思議そうに見る。

 変な空気が霧散した。

 わたしもアインスもほっと息を吐く。互いに顔を見合わせて、小さく笑った。いつもの感じに戻る。

 わたしは席を立ち、食堂の入口付近に立つジェイスの目の前まで移動した。しゃがんで、視線の高さをジェイスに合わせる。


「目が覚めたのね。気分はどう?」


 そっと手を伸ばし、額に触れた。熱がないことを確認する。


「大丈夫」


 ジェイスは答えた。にこりと笑う。


(控え目に言っても天使だわ)


 ぎゅっと抱きしめたくなる衝動を堪えた。


「では、一緒に食事にしましょう」


 わたしは微笑む。立ち上がって、ジェイスに手を差し出した。

 ジェイスは小さな手でぎゅっとわたしの手を握ってくれる。

 愛しさが胸に満ちた。

 引き離されたくないと、決意を新たにする。

 ジェイスを席まで連れて行き、改めてみんなで食事をした。

 元気になったジェイスはいつも通りで、よくしゃべる。わたしが積極的に話しかけたせいか、ジェイスはおしゃべりな子に育った。ジェイスのおかげで食卓はいつも賑やかで明るい。

 使用人達も微笑んでいた。

 和やかに夕食は終わる。それはいつもと何も変わらない感じに見えた。






 わたしがアインスと話す時間が取れたのは、ジェイスが寝た後だ。いつもなら書斎で軽く飲みながら……となるところだが、今日は書斎ではなく寝室で話をしようと言われる。

 寝室を一つにするという約束通りに、私室に戻るとわたしの寝具は部屋から消えていた。ベッドが片されたわけではないが、枕とか布団はない。それが妙に生々しく感じて、なんともいえない気分になった。

 寝室は共有することになったが、わたしの部屋がなくなるわけではない。部屋の荷物はそのまま置いてあった。

 部屋は西棟で寝室は東棟なんてとても不便だが、それを望んだのはわたし自身だ。部屋を移るのが嫌で、そのままにして欲しいとお願いする。2年半も過ごした部屋だ。愛着が湧いている。引っ越すのが面倒だったというのもあるが、基本的にわたしは見ているだけなので実はそれほど手間でもなかった。着替えのためにこちらに来る方がずっと手間だろう。それでもこの部屋が良かった。

 そんなことを自分の部屋でぼんやり考えていたら、風呂の用意が出来たとメイドが呼びに来た。風呂くらい一人でゆっくり入りたいところだが、そうさせて貰えないことはわかっている。この世界に来て2年半。風呂で世話されるのももう慣れた。メイドたちに裸を見られることにももう抵抗はない。そんなものだと諦めた。いつものように服を脱がされ、バスタブに入る。湯につかっていると、メイドたちが身体を洗ってくれた。


「なんか、今日は……」


 メイドの一人が何かを言いかけて、止める。


「どうしたの?」


 わたしは問うた。


「いいえ。何も」


 メイドは首を横に振る。明らかに、何かを隠していた。


「言ってちょうだい」


 わたしはせがむ。こういうのは気になる性格だ。教えてもらえないと、いつまでも悶々としてしまう。


「あの……、変な話なのですが。今日はお肌にずいぶんと張りがあってプルプルしているなと……」


 彼女は気まずい顔をした。聞きようによっては、普段は張りが無いと言っているように聞こえる。


(実年齢は40オーバーなんだから、張りなんてなくて当然)


 私は心の中で呟いた。しかし、それを口に出せる訳がない。


「失礼なことを言って、すみません」


 メイドは謝った。


「いえ、いいのよ」


 わたしは謝罪を受け入れる。謝る必要なんて本当は無いのにと思いながら。

 そして、自分の肌に触れた。確かに、普段より張りがあってすべすべしている気がする。まるで二十歳そこそこのお嬢さんのような肌だ。


(ん?)


 引っかかるものをわたしは覚えた。聖女教育の一環で、いろいろ読んだ資料や書物の中にそういう話があった気がした。


(もしかして……)


 とある考えが頭を過ぎる。慌てて、自分の膝を見た。そこには小さな頃に転んで出来た傷跡が残っていた。だが今、その傷跡がどこにもない。綺麗に消えていた。


「ねえ、ちょっと見てくれない?」


 そう言うと、わたしは前髪をかき上げる。髪の生え際を見て貰った。そこにはぶつけて切れた傷がある。縫った跡が2センチほど残っていた。女の子なのに額に傷をつけてと泣く母を見ながら、額ではなく生え際なのになと子供心に思ったことを思い出した。


「何を見ればよろしいのでしょう?」


 困惑した顔でメイドは問う。


「2センチほどの傷跡がない?」


 わたしは問うた。


「いいえ。何も」


 メイドは首を横に振る。


「……そう」


 わたしはただ頷いた。聖女の離宮で読んだ、資料の記述を思い出す。

 その資料は聖女の側で侍女として世話をしていた研究者が書き残したモノだ。彼女は考察していた。聖女は力を発現した時に肉体が変化するのではないかと。

 力を発現した聖女の肉体は若返り、老化しにくくなったと彼女は感じていた。以前にあった傷跡などは消え、その後も怪我や傷がついても三日後には綺麗に治ったらしい。その三日という日数が資料を読んだ時に気になった。それは人の細胞が死滅し再生して新しく生まれ変わる周期だ。

 ちなみに若返りは身体機能のピークである18歳~20歳くらいの肉体に戻っていると推察したようだ。それは聖女自身の体感でもあるらしい。


 聖女自身に聖女の力は効かない。自分の病気を聖女は治せなかった。だが、そもそも直す必要なんてないのかもしれないと侍女をしていた研究者は感じたようだ。聖女は病にかからない。怪我をしても治りが早い。神に等しい力を宿す聖女は本人の肉体も神に準じるらしいと彼女は自分の考察を締めていた。


(確かに20歳くらいという感じかも)


 わたしは自分の身体をじっくり眺める。


「アヤ様?」


 黙り込んだわたしを心配そうにメイド達は見ていた。

高齢出産問題は解決です。

実質、20歳。 笑

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