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 不安。

パーティは無事に終わりました。


評価&ブクマ、ありがとうございます。





 がんがんメンタルは削られたものの、パーティは恙なく終わりを迎えた。昼から始まったので、お茶の時間前には終わる。主役であるジェイスに合わせて、パーティの時間も短く設定した。招待客達は屋敷の中を通って、玄関へと向かう。

 玄関前には迎えの車が待機していた。

 わたしたちは玄関先で招待客を見送る。ジェイスを間に挟み、その左右にわたしとアインスが立った。

 客達はわたし達に挨拶してから車に乗り込み、出発する。わたしが目の前にいるのに、アインスに色目を使うお嬢様達は少なくなかった。


(心臓が鋼で出来ているんだろうな)


 呆れるより感心してしまう。そんな鋼の心臓がわたしも欲しいと思った。


(こっちは年の差が気になって、踏み出せないのに)


 心の中で苦く笑う。平気そうに見えても、わたしは小心者だ。そもそも庶民なので、お貴族様の威圧的な態度や行動には慣れない。怖いとまでは言わないが、関わりたくないという気持ちは強かった。


(聖女の力が発現しない理由も、案外、こういうところにあるのかもしれない)


 わたしは心の中でぼやく。聖女になれば、今以上に貴族との付き合いは増えるだろう。今でもけっこう大変な思いをしているが、実は半分以上のお誘いを断わっていた。慣れていないので不作法があったら不味いのでと、招待を辞退している。しかし、聖女になったらそういうわけにはいかないだろう。


(すごく面倒くさい)


 聖女なんて大変なだけだと思った。そんなわたしだから、聖女の力を持っていたとしても発現出来る訳がない。

 そんなことを考えていたら、面倒くさい最たる人がやって来た。

 キャピタル夫人はわたしを見るとにこりと笑う。


(なんか怖い)


 わたしは怯えた。

 彼女はわたしが見た肖像画のレティアに似ている。年を取ったらこんな風になったのだろうなと思う姿だ。ちなみにあの肖像画はさすがにもう玄関ホールには飾られていない。今、その場所にはジェイスを膝に乗せてイスに座ったわたしとその隣に立つアインスの絵が飾ってあった。ジェイスの1歳の誕生日に合わせて描かれた絵だ。誕生日に絵は掛け替えられた。

 夫人はわたしの手を握る。


「良き知らせを心待ちにしていますわね」


 そう言った。妊娠の知らせを待っていますと圧をかけられる。


「仲睦まじくされているようなので、きっともうすぐでしょうね」


 前妻の両親に言われると微妙なことを予言っぽく囁かれた。

 だが、目の前の美人の彼女とわたしは実は年がほぼ同じだ。


(わたしに生めというなら、自分がもう1人頑張るというのはいかがでしょう?)


 心の中でお勧めする。 

 『ほぼ同じ年ですよ? わたしに生めるなら奥様にも生めますわ』--なんて言えないのが辛い。夫人は彼女とわたしがあまり年が違わないことを知らなかった。


「ありがとうございます」


 どうとでも取れる返事をわたしは口にする。

 色よい返事がもらえないことに彼女は不満そうな顔をした。だが、それ以上は言わない。わたしの手を離すと、ジェイスに声を掛けた。とても名残惜しそうに帰って行く。

 わたし個人としては、ジェイスはキャピタル家を継ぐのがいいと思っていた。カッシーニ家を継いだ場合、出生の秘密が明らかになった時にとても不味い立場に追い込まれるだろう。秘密というのはどこからか洩れるものだ。

 それなら、キャピタル家の方がいい。レティアの子であることは間違いないのだから、キャピタル家を継ぐことには何の問題もなかった。

 跡継ぎがいなくて困っているので、キャピタル家としても丁度良いだろう。

 だから彼女たちにとって、わたしはどちらかと言えば味方だ。しかし、その考えは口に出来ない。伝えられないので、味方とは思われていなかった。無駄な圧をかける必要なんてないのだと、いっそ話してしまいたい。

 しかし、ジェイスがアインスの子でないことが知れてしまったら、ジェイスを取り上げられるのは目に見えていた。娘の不貞を隠すより、跡取りを得る方をキャピタル家は優先するだろう。ジェイスがアインスの子ではないことは知られる訳にはいかなかった。

 車に乗り込んで出発するのを見て、わたしはほっと息を吐く。肩の力を抜いた。

 そこに最後の見送り客であるアインスの両親がやってくる。


「疲れた顔をしているわね。大丈夫?」


 義母に心配された。彼女は平均的な身長だけれど、目の前に立たれるとわたしは見上げることになる。


「大丈夫です」


 わたしは微笑んだ。優しい手がそっと頬を包み込むように触れてくる。


「大丈夫でない時は大丈夫と言ってはいけません」


 叱られた。


「……はい」


 わたしは小さく頷く。


「少し、疲れました」


 素直に認めた。

 義母はにこりと笑う。


「今夜はゆっくり休みなさい」


 その言葉に、わたしは黙って頷いた。

 年は同じくらいなのに、義母の方が中身はずっと大人だ。だからとても自然に、”母”だとわたしも思える。


「はい」


 わたしはもう一度、頷いた。

 義父母のことは車に乗るまで見送る。2人は手を振って帰って行った。


 わたしたちは屋敷に戻る。帰らない客がまだ一組、残っていた。居間で待っている。お茶を飲むことになっていた。


「わたしはジェイスに昼寝をさせてから行くので、アインス様は先に行ってください」


 わたしは頼んだ。客はアインスに押しつける。わたしはジェイスと部屋に向かった。昼から始まったパーティは大人的には早く終わった。しかし、3歳のジェイスにとっては十分に長い時間だ。当然、疲れている。お昼寝の時間もとっくに過ぎていた。眠そうな顔をしている。

 わたしはジェイスを抱っこした。ジェイスはぎゅっと抱きついてくる。とても可愛いが、熱っぽい気がした。しかし、子供はそもそも体温が高い。


(疲れているだけかもしれない……。でも……)


 気になってしまった。

 ベッドに寝かしつけながら、ジェイスに話を聞く。だが、3歳児から話を聞き出すのはなかなか難しい。要領を得なかった。途中でジェイスは寝てしまう。

 仕方ないのでアンナを呼んだ。様子を見ていてくれるように頼む。


「何か気になるんですか?」


 アンナは不安な顔をした。


「ちょっと熱っぽい気がするの。でも、子供が熱を出すのはよくあることだし……」


 わたしは言葉を濁した。


「それでも、気になるんですね」


 アンナは苦く笑う。

 そうだとわたしは頷いた。


「気のせいならそれでいいの。でも、様子を見ていてちょうだい」


 わたしは頼む。ジェイスを任せ、自分は1人で相手をしているアインスのところに向かった。





気になるけど確信はないのです。

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