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 パーティ

評価&ブクマ、感想ありがとうございます。


意外と異世界に馴染んでいます。




 3歳になったジェイスは可愛い盛りだ。

 その可愛い子がまだ3歳なのに、今日のパーティの主役が自分だということを自覚している。まるでホストを務めるように、執事長をお供にお客様の間を巡っていた。みんなに愛嬌を振りまいている。


(天使がいる)


 ガチでそんなことを思う自分が親バカであることはもう自覚していた。だが、顔立ちも天使のように愛らしいのだから、仕方ない。

 あまりにその姿が可愛いので、暫くその姿を少し離れた場所から見守ることにした。可愛くてきゅんきゅんする。

 息子の社交を邪魔したくなかった。


「あの子のためなら何でも出来るわ」


 独り言を呟いたら、後ろから同意が返ってきた。


「私もです」


 急に声をかけられてびっくりする。

 振り返るとアインスがいた。

(いつの間に)


 心臓がドキドキした。どこから来たののだろうと首を傾げる。

 アインスはしれっとわたしの横に立った。腰を抱いてくる。ぴったりとくっつかれた。


(近い、近いっ)


 心の中で文句を言った。さりげなく距離を取る。


「何故、逃げるんですか?」


 不満な顔をされた。


「逃げるでしょう。普通」


 アインスが一歩踏み出すと、わたしが一歩引く。


 アインスに好きだと告白されたのは最初の結婚記念日だった。結婚して一年を祝おうと、パーティを提案される。

 披露宴もしなかったのに?--と、思わず突っ込んでしまった。

 披露宴?--と不思議そうに聞き返されて、そもそもそういうイベントはないのだと知る。

 ただし、結婚した後にお披露目のパーティはするようだ。そのパーティをわたしたちはしていない。それはジェイスと暮らすようになって赤ちゃん中心の生活になってしまったせいもある。

 1周年がいい区切りだと言われると、パーティに反対する理由がなかった。

 だが、本音を言えば気乗りはしない。白い結婚でありながら、みんなに祝って貰うことに心苦しさを覚えた。

 そのパーティが終わった後、2人で飲もうとアインスに誘われる。

 書斎でいつものように晩酌を楽しんでいると、いつもは向かい側に座るアインスが隣に移ってきた。

 キルヒアイズと話をしたことを告げられる。

 王家に返すつもりはないと言われ、好きだと告白された。

 いろんな意味で戸惑う。

 好意は感じていた。だが、アインスの方から踏み込んでくることはないと思っていた。わたし以上に、アインスは王命に捕らわれている。

 王家の意思に反して、わたしに近づいてくるとは思わなかった。

 わたしも家族として好きですよ--なんて、茶化して流せるような雰囲気ではない。真摯に気持ちをぶつけてきたアインスから逃げるのはさすがに出来なかった。わたしもそこまで無神経ではない。だから時間が欲しいと頼んだ。

 アインスのことをちゃんと考える時間は今までなかった。結婚式の当日に、わたしたちは初めて顔を合わせたのだから。

 アインスはジェイスの2歳の誕生日まで待つと言ってくれた。わたしが思っていたよりずっと長い時間をアインスはくれる。

 追い詰めたら、考える前に逃げ出すと思ったようだ。

 その予想はあながち外れてはいない。答えを急かされたら、わたしはきっと逃げていただろう。

 家族になろうと務めてきた相手と、急に夫婦になれるかと言われたら答えられない。

 長く生きてきたが、わたしもそんなに恋愛経験はない。むしろ恋なんて面倒くさいと避けてきたタイプだ。ゆっくり考える時間は必要だ。

 半年かけて、じっくりとわたしは自分の気持ちと向き合った。そして受け入れることに決める。

 問題はいろいろあるし、年齢差にはかなり引っかかりを覚えている。だが困った事にアインスの顔は最初から好みだ。

 その好みの顔に好きだと口説かれ続けて、断れるほどわたしの意思は強くない。どっちかといえばブレブレでゆるゆるだ。

 ゆっくり距離を詰めるという約束でOKする。半年返事を待ってくれたアインスとなら、段階を踏んで家族から夫婦に変わっていけるのではないかと思った。

 実際、わたしたちの関係はゆっくりと変わっている。手を繋ぐことに慣れるのに半年、頬にキスされることに慣れるまで半年という奥手な中学生みたいな恋愛だ。

 人前で頬にキスされることなんて一生慣れることなんてないと思ったが、半年も経つと平気になってきた。意外にわたしは順応力が高かったらしい。だがだからってスキンシップが何でも平気になった訳ではない。腰を抱かれたりするとそわそわしてしまった。気恥ずかしい。


「そろそろ慣れませんか?」


 アインスに切ない顔をされた。


「約束、覚えていますか?」


 問われる。


「……昼間からする話ではないですよね?」


 わたしは冷たい目を向ける。

 アインスは小さく笑った。どうやらわたしをからかっただけらしい。


「最近、意地悪ですね」


 わたしは口を尖らせた。文句を言う。


「そんなことより、うちの可愛い天使を見てください。あの人たらしっぷり、控え目に言って天才じゃないですか? 将来が楽しみというか怖いというか……」


 キャピタル家の祖父母に挨拶しているジェイスを見る。可愛い孫に夫妻はメロメロだ。今なら何でも買ってくれるだろう。


「そろそろ止めに行こうか?」


 アインスは私に聞いた。


「そうですね。親子仲の良さをアピールに行きましょう」


 わたしは頷く。

 アインスはわたしに腕を差し出した。組めとアピールする。わたしは素直に腕を組んだ。2人でジェイスの元に向かう。


「ジェイス」


 息子に声を掛けた。


「パパ、ママ」


 嬉しそうに振り返った息子はやっぱり天使だ。


(はうっ)


 心の中で変な声が出る。

 召喚されて2年半。なんだかんだいってわたしは幸せだった。




幸せを掴んだつもりでいます。

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