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 予定外<キルヒアイズside>

評価&ブクマ、ありがとうございます。

王子、意外と打たれ強い。




 キルヒアイズの人生はわりとイージーモードだ。


 王子として生まれ、跡継ぎとして大切にされる。たいていのことは人より上手く出来た。頭も悪くないし、自分がするべきことを知っている。

 手の掛らないいい子だったと自分でも思う。だがその分、子供の時からどこか冷めていた。

 何もかもがつまらない。全てが予定通りで、何もない人生だった。


 そこに現われたのがアヤだ。

 召喚者だからなのか、アヤの存在はなにもかもが異端だった。見た目も中身もこの国の人間とは違う。

 そこに惹かれた。

 アヤといると、モノクロで面白みのない世界が色付くように感じる。

 自分が王子であることを、この時ほど幸いに思ったことはない。聖女と結婚する資格を持っているのだから。

 周りも、アヤのことはキルヒアイズの婚約者として扱った。

 そうでなければ、二人きりで話をすることが認められる訳がない。王子というのはいろいろと制約が多かった。


 だが、それまでは何でも予定通りのキルヒアイズの人生に予定外のことが起る。

 アヤが聖女であることを認めない一派が現われ、アヤに聖女ではないという烙印を押してしまった。

 聖女の力を発現出来ていないのは事実なので、なんとも反論しにくい。アヤ自身が、自分が聖女なわけはないと思っているので面倒な事になった。

 キルヒアイズは、アヤの身の振り方を考えなければならなくなる。


 聖女でないとしても、召喚者であるのは事実なので、アヤには爵位が与えられていた。だがその爵位がある故に、選べる選択肢は少なくなる。

 一番いいのは結婚することだ。

 この国で貴族の女性が生きていくなら妻として夫に養って貰うことが一番手っ取り早い。貴族の女性には仕事をするチャンスはなかった。

 そういう意味では、平民の方が女性は自活しやすい。


 アヤの結婚相手として、アインスを選んだのはキルヒアイズだ。

 アヤがアインスを見かけ、カッコイイと言っていたのは事実だ。だがそこに恋情がないのはアインスにもわかっている。アヤが気に入ったからという理由は建前だ。

 もっとも信頼できる相手にアヤを託したいと考えた。それはアヤのためではない、自分の為だ。アインスなら生真面目なので、アヤに手を出すことはないだろう。

 実際、その読みは正しかった。キルヒアイズが王家の意向を伝えると、アインスはそれを尊重することを約束する。

 聖女の力を発現した折には、アヤを王家に戻す密約が出来た。




 だが、ここでもことはキルヒアイズの思惑通りには進まない。次々と予定外のことが起った。




 最初の予定外はアヤが聖女の力をなかなか発現させないことだ。

 聖女の力というのは他の魔力とは根本的に異なる。その力は想いの強さに比例した。国や世界や人を想う気持ちがそのまま力となる。逆を言えば、この世界を愛する気持ちがなければ、力は発現しない。

 そのため聖女が力を発現出来るようになるには時間が必要だ。召喚され、全てを強制的に捨てさせられた聖女がこの世界を愛するのは簡単なことではない。それは半年の人もいれば、何年も無理な人もいた。


 アヤは優しい。本人はそれを否定するが、当たり前のように人を思いやれる人は優しいと形容して問題無いと思う。

 力を発現させるのはそう遠い未来の話ではないとキルヒアイズは考えた。半年とか1年とか、短いスパンで考える。

 だが実際には、アヤはなかなか力を発現しなかった。気づいたら召喚されて3年が経っている。

 それはキルヒアイズにとって想定外だ。

 心の奥底では、アヤはまだこの世界を憎んでいるのかもしれない。表層心理では許していても、深層心理は別の可能性があった。

 キルヒアイズはとても戸惑っている。




 二つ目の予定外は、アヤがアインスの子のジェイスを我が子のように可愛がっていることだ。

 いくら優しいとはいえ、相手は継子だ。貴族の結婚は普通、継子への扱いはなかなか厳しいものになる。アヤが赤子を苛めることはないとは思ったが、まさか我が子のように自分で面倒を見るとは思わなかった。通常、貴族の夫人は自分で子供を育てない。上級貴族になればなるほど、子供とは乳母に育てさせるのが一般的だ。

 だが、アインスとアヤは乳母をつけないことを選択する。子供はアヤにとても懐いていた。実の親以上に、慕っている。

 親子3人、とても仲睦まじかった。社交界でも、まるで実の親子のようだと評判になっている。

 休日には3人で出かけることが多いようで、街中でその姿はけっこう目撃されていた。キルヒアイズも何度か、楽しげに過ごす3人の姿を見かけている。

 声を掛けるのは悔しくて、そのままスルーした。


 アヤには、ジェイスの母親という地位を捨てるつもりはないから何があってもアインスと離婚しませんと釘を刺すように言われている。聖女の力を発現したら、王家に迎え入れる予定であることはもうばれているようだ。それを知った上で、戻らないことを宣言される。




 三つ目の予定外は、実は一番の問題だ。

 アインスがアヤのことを愛してしまう。

 あれは2人が結婚記念日を祝うパーティを開いた時のことだ。アインスに話があると呼び出される。

 パーティ会場を出て中庭で落ち合った。

 いつになく真剣な顔のアインスから語られたのは、アヤへの愛だ。

 この1年で、アヤの存在はカッシーニ家からは切り離せなくなったと言われる。例え、聖女の力を発現することがあっても王家に渡すことは出来ないとはっきり断わられた。

 アヤを愛しているから、本当の意味で夫婦になりたいと思っていると告げられる。


 キルヒアイズは普通にショックを受けた。

 カッシーニ家は上級貴族の中でも忠誠心が厚い一族だ。だからこそ、先代には王族の姫が降嫁している。王家との結びつきは強く、逆らうことはあり得ないと思った。

 そのアインスにきっぱりと断わられる。

 王命には従うが、王命の中にアヤを返すという一文はどこにもないから返さないと拒否された。

 正直、アインスがそんな揚げ足を取るようなことを言うとは思わなかったので驚いた。

 それだけ本気なのだと悟る。


 自分が好きになるくらいだから、アインスが好きになる可能性も考慮するべきだった。キルヒアイズは自分の甘さを悔やむ。

 アヤと毎日一緒にいて、好きにならないわけがない。






 アヤが召喚されてから、キルヒアイズの人生は予定外の連続だ。

「はあ……」

 キルヒアイズは大きなため息をつく。

「どうしてこう、何もかもが上手くいかないのだろう」

 ぼやいた。

 その手には、明日の招待状が握られている。

 明日はジェイスの3歳の誕生日パーティが開かれることになっていた。キルヒアイズにも招待状が届いている。

 それは幸せな自分たちを見てくださいというアインスからの挑戦状にも思えた。軽く苛つく。だがそういう他意が無い事はわかっていた。従兄弟として、キルヒアイズを呼んでくれただけだろう。

 だがそもそも、3歳の子の誕生日をパーティで祝うのは普通ではない。

 通常、貴族の子供はある程度大きくなるまではあまり大っぴらに誕生日を祝わない。幼児は命を落とす可能性が高いからだ。ある程度大きくなり、お披露目する時に初めて、パーティを開く。

 だが、アインスとアヤはジェイスのために張り切ってパーティを開くようだ。一応、一族中心に招いているので内々と言えば内々だが、キルヒアイズも招くくらいだから大がかりには違いない。

「行きたくないなら、欠席してもいいと思いますよ」

 サイモンは善意でそう言った。仲睦まじい親子の姿を見せつけられるのは、辛いだろうと気遣う。

 だが、キルヒアイズは首を横に振った。

「堂々とアヤに会いに行けるチャンスを潰して堪るか」

 アヤのことは諦めていない。

 アヤが結婚してから、キルヒアイズがアヤに会える機会はかなり減った。基本的に、貴族の夫人は社交のシーズン以外には家にいる。アヤも例外ではなかった。会いたければ、カッシーニ家に行くしかない。だが、王子の立場では気軽に遊びには行けなかった。

 王家には返さない宣言をしてからは、アインスも家に招いてくれない。

 だが、アヤがなんて言おうとキルヒアイズに諦めるつもりはない。アヤが聖女の力を発現したら、有無を言わさず王族に入れるつもりでいた。そもそも、聖女は通常、王族と結婚して王宮に住むものだ。上級貴族の独占が許される存在ではない。

 アヤが聖女の力を発現させれば、何もかもが変わるのは確かだった。





事態が一変するの待ちです。

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