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 ミッション<アインスside>

意外とがんがんいくタイプのようです。


ブクマ、評価、ありがとうございます。




 まずは距離を詰めるところからアインスは始めた。

 座る位置を向かいから隣に移す。それだけで親密度は増す気がした。


 ジェイスが1歳の誕生日を迎えて、乳母のケイトは役目を終えた。授乳のための乳母は平民でも構わないが、教育もする育ての乳母は貴族でなければならない。夫を亡くした未亡人がその役目に就くのが一般的だ。一族の方から何人か推薦が来ていた。次期当主の教育なので、乳母になればそれなりの将来は保障される。勧める方も勧めて貰う方もわりと必死だ。

 だが、アヤは乳母について説明を聞くと、ジェイスを乳母に任せるのを嫌がった。自分たちの意見より、乳母の意見が優先されることもあるのが不満らしい。あくまで、ジェイスの教育方針は自分たちで決めたいと主張した。

 結果、ジェイスはアヤが育てることになる。

 実は一族を納得させるのはけっこう大変だった。だがその頃にはすでに、アインスはそのくらいのわがままは叶えてあげたいくらいの好意をアヤに抱いていた。アヤの願いを叶えるべく、頑張る。

 無事にアヤがジェイスを教育することになった。

 アヤは張り切って、母親を頑張っていた。それがなんとも微笑ましい。何かあるとアヤはまず最初にアインスに相談するようになった。頼られて、アインスは嬉しく思う。

 家族として、いい感じが出来上がっていた。

 だが、いいことばかりではない。ジェイスがアヤにべったりになり、2人で過ごす時間がなくなった。甘えっ子に育ったジェイスはことあるごとに抱っこを強請り、アヤを独占する。

 大人げなく、アインスはキレた。子供に妬く。

 アヤは二人きりで過ごす時間を作ると約束し、2人で晩酌をするようになった。けっこうな頻度で誘うが、アヤは断わらない。

 受け入れられているように感じて、アインスは嬉しかった。


 酒に酔ったアヤは可愛い酔い方をする。

 気分が良くなるとふわふわ笑い、甘えるようにじゃれてきた。どうやら、酔うとみんな大好き~という好意が暴走するタイプらしい。

 そんなアヤをアインスは可愛く思った。

 ついつい酒を勧めすぎてしまう。飲み過ぎると、もたれ掛かってくるのも嬉しかった。信頼されていることを実感する。

 だが飲ませすぎだと、たまにアンナに小言を言われるようになった。

 それでも可愛いアヤの姿を見たくて止められない。




 そのうち、見ているだけでは我慢できなくて触れたくなった。そっと手を重ねてみる。

 最初の何回かはさりげなく手を引かれた。

 一緒に暮らすうちに気づいたが、アヤは案外、スキンシップに慣れていない。見つめると、恥ずかしそうに目を逸らされた。触れると、顔を赤くして逃げられる。

 嫌われているのかと心配したが、イケメンに慣れていないだけだと本人に説明された。イケメンと言うのがなんなのかいまいちわからなかったが、褒められたようなのは伝わる。

 アヤは勘がいいので、アインスが親密になりたがっていることには直ぐに気づいたようだ。

 そして、困った顔をする。

 アインスはその事に気づいたから、ゆっくりと距離を詰める事にした。半年くらいかけて、アヤに慣れて貰う。

 その甲斐あって、手を握ってもアヤの身体は強張らなくなった。

 アインスはアヤの柔らかな手を堪能する。

 この国の人間とは人種が違うらしいアヤは小柄だ。全体的に身体のパーツは小さめでアインス的には子供に見える。

 だが、実際には自分より年上の女性だ。

 それがわかっていても、アヤの手は柔らかで子供みたいだと思う。肌のきめの細かさがアインスの知る女性とは違った。

 握った手を指で撫でていると、嫌がられる。アヤは手を引こうとした。だが、アインスは離さない。

 手を繋ぐのは嫌なのかと聞くと、なんとも可愛らしい答えが返ってきた。

 愛おしさが増す。

 いろんな意味で意識して貰おうと、酒の席以外でもアインスはアヤと手を繋ぐことにした。

 誰の前でも、気にせずに手を握る。

 気づいた使用人達はニヤニヤ笑っていた。だが、アインスは気づかないふりをする。

 使用人達はみんなアインスの味方をしてくれた。

 アヤと仲良くすると喜ぶ。

 アヤは使用人の評判がすこぶる良かった。偉ぶらず、無理難題を言わないので好かれている。使用人のほとんどはアヤを歓迎していた。

 末永く、カッシーニ家にいて欲しいと願っている。




 手を繋ぐことにアヤが抵抗を感じなくなった頃を見計らって、アインスは挨拶のキスを始めた。アヤが露骨に戸惑った顔をする。

 そういう習慣はないと、断わられた。

 だが、そこで引く気はアインスにはない。

 慣れて欲しいと頼んだ。そう言われると、アヤが断れないことを知っている。頼まれるのに弱い人だ。

 挨拶のキスを当たり前にするべく、アインスは積極的にアヤにキスをした。額や頬にする軽いものだが、それでもアヤにとっては戸惑うらしい。頬に触れただけで、身体を強張らせるのがなんとも可愛かった。

 年上だとわかっているのに、そうは思えない。まるで少女のような反応だ。


 アヤを知れば知るほど、好きになるので困る。

 キルヒアイズがアヤに惹かれた気持ちが、アインスは理解できた。

 裏表がなく真っ直ぐなアヤといると、気が休まったのだろう。

 アヤはおおらかで優しくて、気遣いが出来る女性だ。一緒に居て楽しくないわけがない。

 アヤといると、アインスは自分が甘やかされているように感じた。

 全てを受け入れ、許される気になる。

 ジェイスがアヤにべったりになる気持ちが理解できた。アヤに甘えることが許される立場が羨ましい。

 だが、アインスが求めているのは母親ではない。愛し合うことが出来る妻だ。

 それを意識して欲しくて、最近は酔ったふりをしてアヤに迫っている。


 慣れていないアヤに合わせて、アインスはゆっくりゆっくり距離を詰めてきた。ただが結婚してもう2年半だ。そろそろ、そういう関係を受け入れてくれてもいいのではないかと思っている。

 アインスはアヤに嫌われているとは思っていなかった。

 好意を持たれているのはわかる。モテるアインスは好意を向けられるのは慣れていた。自分のことを好きな相手は接していればわかる。

 だが両思いだと思うのに、踏み込むと逃げられる。

 その理由がなんなのか、アインスにはわからなかった。





アインス、頑張っています。

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