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 変化。<アインスside>

ブクマ&評価ありがとうございます。


アインスの気持ちも変化しています。




 アヤが好ましい性格をしていることにはアインスは結婚して程なく気づいた。

 だが、好意を持つわけにはいかない。

 キルヒアイズはそう遠くない未来、アヤを自分の所に取り戻すつもりでいる。一時的に預けるのだと、最初からアインスは釘を刺されていた。


 だからこそ、距離を取ることにした。好意を持たれると困るので、結婚式の直前にわざと冷たい言葉を投げかける。

 冷徹な対応をしようともした。だが、それはあまり上手くいかない。毎日顔を合わせる相手に冷たく接するのは無理があった。

 アヤの方も初めから白い結婚のつもりでいたことを知って、無理は止める。

 一緒に暮らす相手として、アヤのことを尊重することにした。


 アヤとの日常は思ったより心穏やかで、気が休まった。

 レティアの時とはまるで違う。レティアとの毎日には常に緊張感が漂っていた。互いに相手に気を遣って、疲れる。それは次第に殺伐とした空気に変わった。

 一緒に暮らす相手で毎日の生活はこうも変わるのかと、驚く。お茶を飲みながらかわすたわいもない話が妙に楽しかった。

 それだけでも、アインスにとっては得がたい相手だ。

 しかしアヤがもたらした変化はそれだけではない。カッシーニ家が抱えていた大きな問題をさらっと解決した。

 継子であるジェイスにアヤはとても優しくしてくれる。


 ジェイスの存在はアインスにとってなんとも頭の痛い問題だった。自分の子で無い事は誰より自分がよく知っている。だが、それを明らかにするわけにはいかなかった。レティアの名誉もキャピタル家の家名も傷つけてしまう。そんなことをアインスは望まなかった。妻としては愛せなくても、レティアを嫌っていたわけではない。妹のようには大切に思っていた。

 だが、ジェイスにカッシーニ家を継がせるわけにもいかない。だから、キャピタル家がジェイスを養子として引き取りたいと言った時、アインスは一も二もなく承諾したかった。レティアが亡くなり、キャピタル家は直系の子供がいなくなった。娘が産んだ孫を跡継ぎにと考えるのは自然なことだろう。

 ジェイスの父親は未だに誰なのかわからないが、レティアの血は間違いなく引いている。キャピタル家を継ぐのが妥当だと思った。

 しかしそれをカッシーニの一族が反対する。内情を知らない血族が、自分たちにとっても跡継ぎだと主張した。おかげで、ややこしいことになる。

 結果的には、アインスが再婚して女主人が屋敷をちゃんと取り仕切れるようになったらカッシーニ家にジェイスを戻すという、なんとも奇妙な約束に落ち着いた。何故そんな変な約束が出来上がったのかは、考えなくてもわかる。再婚して新しく子供が生れたら、邪魔になる前妻の子を引き取れるとキャピタル家は踏んだのだろう。そして一族もそういう状況を見越して約束に賛成した。彼らにとって、ジェイスはあくまで保険だ。今後跡継ぎが産まれてくるなら、カッシーニ家を継ぐのはその子でも構わない。

 ジェイスのカッシーニ家の立場はなんともあやふやだ。今は必要とされているが、本当に必要な訳ではない。他に跡継ぎが生まれたら、キャピタル家にたっぷり恩を売った後に引き渡すつもりだ。

 それがわかっているから、誰もがジェイスへの対応に困る。

 そんな屋敷の空気をアヤが変えた。たぶん、本人は無意識だろう。アヤはただ、ジェイスを可愛がっただけだ。だがそれを見て、使用人達もジェイスを受け入れる。みんなが可愛がるようになった。

 そしてその影響はアインス自身も受ける。

 どう対応していいのかわからなくて遠ざけていたジェイスと向き合った。無駄に恐れていた存在はちゃんと見てみればたたの可愛い赤ちゃんだった。普通に愛しむ気持ちが生れる。


 アヤが居ることで、何かが変わった。

 これが聖女の力かと思う。聖女は病気を治すだけでなく、人の心のありようも変えられる存在だと聞いた。

 そう遠くない未来にアヤは聖女としての力を発現させるだろうと覚悟する。




 だが、その目論見は外れた。半年経っても1年経っても、アヤは聖女として目覚めない。

 その間に、アインスの気持ちの方が変化してしまった。

 聖女として目覚めたら王家にアヤを返さなければいけないことを、アインスは了承しているつもりだった。王命にそれは明記されていなかったが、個人的にキルヒアイズから言われている。臣下の立場では、その命には逆らえなかった。

 だがアヤは王家に戻るつもりはないと言う。

 それに、アヤが聖女として目覚めない可能性もアインスは感じた。


 このままずっと、アヤを側に置いておけるかもしれない。--そう思ったら、我慢できなくなる。


 アヤを王家に返すという気持ちは1年が経つ頃にはすっかりなくなっていた。それはもちろん、アヤ自身が王家に戻るつもりはないというのも大きい。

 本人が望まないのなら、無理強いはしたくなかった。

 この家で家族として暮らすことを願ってくれるというなら、全力でそれを叶えようと決める。


 なにより、アヤの存在はアインスにとっても大きくなりすぎた。

 ジェイスと3人で家族ごっこを続けるうちに、本当の家族になれるのではないかと思ってしまう。

 自分がアヤのことをジェイスの母親としてではなく、妻として求めていることに気づいてしまった。

 そんな自分の気持ちに動揺し、困るほどアインスも初心ではない。

 年は若いが、この国では十分に大人だ。そして、したたかな貴族の1人でもある。

 望めば手に入るかもしれないものが目の前にあって、我慢するほど愚かではないつもりだ。


 アヤを落とすべく、アインスはミッションを開始した。





長くなったので分割しました。続きます。

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