歳月。
月日が流れ、関係も緩やかに変化してきました。
評価&ブクマ、ありがとうございます。
ジェイスが3歳になるということは、わたしがアインスと結婚してから2年半近く過ぎたことになる。
その間にわたしとアインスの関係にもいくつかの変化が生まれていた。
一つはたまに2人でお酒を飲むようになったことだ。
1歳の誕生日を過ぎてから、ジェイスはわたしが育てている。ママ大好きっ子に育ったジェイスはいつもわたしにべったりだ。朝も昼も、たまにベッドも一緒になる。ジェイスには子供部屋があり、そこにはベッドもあった。ふだんは1人で子供部屋のベッドに寝ている。だがたまにジェイスが駄々を捏ねて一緒に寝たがった。わたしのベッドに潜り込んでくる。
そんなわたしにべったりなジェイスに何故かアインスがキレた。2人の時間がないと不満を爆発させる。
なんでそんなことでと思いはしたが、確かにジェイスがいては出来ない話もある。2人の時間を作るのはわたしも吝かではなかった。そこで、ジェイスが寝た後で時間を作ることにした。2人で一緒に晩酌を楽しむ。
アインスはその時間を思いの外楽しみにしているようで、お誘いはけっこう頻繁だ。
わたしも断わる理由がないのでたいてい受ける。今、わたしとアインスの間にはジェイスという存在があるので、話題は尽きなかった。
楽しくお酒を楽しむ。わたしにとってもその時間は息抜きになった。
二つ目はスキンシップが増えた。
結婚して1年くらい経った頃からアインスの様子が変わる。
最初の変化は座る位置だった。今までは向かい合って座っていたのが、隣に移動してくる。わたしと並んで同じソファに座るようになった。
少し引っかかりを覚えたが、嫌ではない。夫婦であるかはともかくとして、家族として1年も暮らしていた。当然、情だって湧いている。
(並んで座るくらい、別に問題無い)
そう思ったので、許容した。だがスキンシップはそれだけではなかった。いつの間にか手が触れるようになる。
最初は気のせいかもと思った。すっと手を動かすと、そのまま手は離れる。だがそんなことが二度、三度繰り返された後、とうとう手を握られた。逃げようと引いても、離してくれない。
「嫌ですか?」
真顔で問われて、とても言葉に困った。嫌かどうか聞かれたら、嫌ではない。
アインスの顔はめちゃくちゃ好みだ。その自分好みのイケメンに手を握られて、嫌だなんて思う女性は少ないだろう。わたしも例外ではなかった。しかも出会った当初とは違い、わたしはもうアインスのことをよく知っている。真面目で少し融通がきかない性格も好ましく思っていた。
「嫌だったら、良かったのに」
困ってそう答えたら、わたしらしいと笑われてしまう。
嫌でないなら手を繋いでいましょうと言われて、受け入れてしまった。それ以来、わたしとアインスはよく手を繋ぐようになる。それは2人で晩酌をする時だけではなくなった。人前でも、アインスはわたしの手を握る。
使用人達は微笑ましい目でそれを見ていた。
わたしはなんとも居たたまれない。恥ずかしいので手を離したいが、アインスは離してくれなかった。結局、わたしの方が根負けする。
手を繋ぐことは当たり前になった。
三つ目はキスされるようになった。
さすがに口にされるわけではない。それは手の甲だったり、頬だったり、髪だったり、額だったりした。
出かけるのを見送ったり、帰ってくるのを出迎えるのはわたしが自分で望んだことだ。ジェイスと共に見送ったり出迎えたりした時に、アインスはいつからかわたしにキスするようになる。行って来ますとか、ただいまとか、挨拶と共に頬にキスされた。それはちょっとむずがゆいが、嫌な気分ではない。親愛の情と取れなくもなかった。
だが、わたしだってそこまで鈍くはない。さすがに好意を持たれていることは気づいていた。
嬉しくないわけではない。
わたしだってアインスに好意は持っていた。しかし、わたしは身の程という言葉を知っている。
年の差を考えると、とてもその好意を受け入れることは出来なかった。アラフォーだったわたしはこの時、ほぼ40だ。そう見えていないとしても、自分の年は自分が一番よく知っている。20歳そこそこの子と恋愛なんて、犯罪だと言われても反論できない。
でもだからと言って、きっぱりと拒むことも出来なかった。だって嫌いではないのだ。嫌われたくもない。
(ただの家族でいいのに)
心からそう思った。別に本当の意味で夫婦になりたいわけではない。家族でわたしは十分だ。
のらりくらりとアインスの好意を躱しながら、はぐらかすのもそろそろ限界だと感じている。
最近は、酔ったアインスにちょっと強引に迫られるようになってきた。
嫌ではないので、困ります。




