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 本音<アインスside>

アインスのアヤふたりの本音です。


ブクマ、評価、ありがとうございます。




 アヤの目からぽろりと涙が溢れて落ちるのを見て、アインスは酷く動揺した。


 アヤはいつでも優しくポジティブだ。ごく自然に人を思いやり、気遣うことが出来る。ジェイスのことも可愛がり、よく世話をしていた。赤ん坊をあやすアヤはまさに聖母で、見ているこっちも温かな気持ちになる。


 アインスはジェイスのことを自分の罪の証だと思っていた。

 産まれた子に罪はないし、レティアに裏切られたとも思ってはいない。だがそれでも、レティアを愛せなかった罪の証がジェイスなのは確かだ。

 ジェイスの顔を見る度、自分の罪を責められているような気分になる。

 だが、アヤがいたからジェイスの顔をまともに見られるようになった。血の繋がらない子供を可愛がる姿を見て、自分もそうすればいいのだと気付く。アヤがいなかったら、我が子ではないとわかっているジェイスに普通に接することは出来なかっただろう。


 キルヒアイズがアヤを聖女だと信じる理由が、アヤを見ているとなんとなくわかる気がした。アヤはそこにいるだけで、人の心の中の何かを動かす。

 だから、アヤは優しくて強い人だと勝手に思い込んでいた。


 こぼれ落ちた涙に驚く。

 アヤが泣くなんて、考えたこともなかった。

 そしてアヤ自身、泣いている自分に誰よりも戸惑っている。

 こういう場合、なんて言葉をかけるのが正解なのかアインスにはわからなかった。

 小さい頃から婚約者が決まっていたアインスは、モテるのに女性との付き合いは乏しい。婚約者がいる貴族は、他の女性とは親しくしないのが貴族としてのマナーだ。泣いている女性を慰めたことなんて一度もない。

 自分でも情けないくらいにオロオロし、誰かに助けを求めるべきなのか逡巡した。

 しかし、それをアヤ本人に止められる。

 アヤは涙を拭い、大丈夫だと自分に言い聞かせるように呟いた。ジェイスに笑顔を見せて安心させ、真っ直ぐにアインスを見る。

 話があると、切り出した。


 語られたのは、今まで、アインスが気付かなかったアヤの心の闇だった。アヤの本音に初めて触れる。

 笑顔で周りを気遣っていたアヤが本当は恨みや憎しみを抱えていたなんて、知らなかった。

 だが、話を聞けば当然のように思える。

 勝手に召喚したのはこちらだ。恨まれても憎まれても当然だろう。逆の立場だったら、恨まないわけがない。

 聖女が力を発現するのには時間が必要だと、キルヒアイズが言っていた意味をアインスは理解していたつもりでまったく理解していなかった。そのことに、アヤの悲しみに触れて気付く。

 胸の奥がツキンと痛み、アインスも泣きたくなった。




 アヤは自分が聖女の力を発現できる訳がないと苦笑する。憎しみや恨みを持った自分が聖女であるはずがないと。

 だがアインスに言わせれば、恨みも憎しみも心の奥に押し殺して、人に優しく接することが出来るアヤはやはり聖女だと思えた。その資格は十分にあると思う。

 いずれ、アヤは聖女の力を発現させるだろう。

 だがそれは同時に、今のこの生活が終わることを意味した。聖女の力を発現させたアヤをキルヒアイズが放っておく訳がない。

 そのことを思うと、アインスは暗く沈んだ気持ちになった。

 アヤにはずっとこの家にいて欲しい。

 無理だとわかっていても、願わずにいられなかった。




 さらに、アヤの打ち明け話は続いた。

 離婚して家を出るつもりでいたことを告げられた時には、びっくりして心臓が止まりそうになる。そんな様子は微塵も見せなかったのに、水面下ではいろいろとアヤは模索していたらしい。

 レティアといいアヤといい、女という生き物は怖いとアインスは思った。

 目に見えるものしか見ていなかった自分を、深く反省する。

 どうにか引き留めなければと考えていると、アヤはさらに言葉を続けた。

 ジェイスに出会って、気が変わったという。母として側にいたいと思ってしまったと、ジェイスが大きくなるまで家において欲しいと頭を下げられた。

 それはアインスにとってもは願ってもない話だ。アヤと一緒だと、毎日が楽しい。たわいもないことでも、アヤと話していると心が落ち着いた。

 本当は一も二もなく、OKしたい。

 ずっと一緒にいて欲しいと、プロポーズしたいくらいだ。

 だがその時、脳裏にキルヒアイズが浮かぶ。なんとしてもキルヒアイズはアヤを取り戻そうとするだろう。

 アインスはもうアヤが聖女であることを疑っていない。いつか、その力は発現するだろう。従兄弟とはいえ、相手は王子だ。権力で押し切られたら、アインスに抗う術はない。


「それは……」


 言葉に詰まってしまった。返事が出来ない。

 その事にアヤはショックを受けたように見えた。泣き笑いの表情を浮かべる。

 困った顔が次の瞬間、諦めに変わった気がした。

 無理を言って悪かった--と、アヤなら自分の言葉を引っ込めるだろう。

 そういう性格であることはもう知っていた。自分の我を無理に押し通すのを嫌う。


「ちょっと待ってくれ」


 アインスは言いかけたアヤの言葉を遮った。


「私にも、話しておかなければいけないことがある」


 アヤが誤解する前に、打ち明けてしまおうと決める。

 それは予想外の言葉だったのか、アヤは戸惑う顔をした。


「今度は、私の話を聞いてもらえないだろうか?」


 アインスは頼む。


「ええ、もちろん」


 アヤは静かに頷いた。


「実は……」


 アインスはアヤが王子の婚約者であったことを話した。聖女は代々、王族と婚姻するのだと説明する。


「そんなの、初耳です」


 アヤは戸惑った。眉をしかめて、むっとしたように口をへの字に曲げる。


「王子が、余計なことは耳に入れぬよう周りに厳命したそうです」


 アインスは理由を教えた。


「何のためにそんなことを?」


 アヤは不思議がる。


「そういうのに関係なく、自分を選んで欲しかったんじゃないですか?」


 今なら、その気持ちが少し理解できる気がした。


「……」


 アヤは黙って考え込む。


「もしかして、聖女でないと烙印を押されることになった時、愛人にならないかと王子が言ったのは本気だったのですか?」


 なんとも気まずい顔をした。


「おそらく」


 アインスは頷く。


「まあ、実際問題としては愛人として離宮に囲ったりするのは召喚者であるアヤだといろいろ難しいので、実現はしなかったと思いますが。たぶん、本気だったと思います」


 そう告げると、アヤは困ったように息を吐いた。


「キルヒアイズ様のことは好きだけど、そんな風には思えないのに」


 ぼそっと呟く。


「どんな風に思っているのですか?」


 アインスは聞いた。


「そうですね。弟のようにというか、息子みたいにというか……」


 アヤは考えながら答えた。つまりは、身内だと思っているのだろう。


「息子はさすがに言い過ぎなのでは?」


 アインスは苦笑した。


「そうですね。あははっ」


 アヤは乾いた笑いを漏らす。


「でも、そういうつもりがあったのに、わたしにアインス様との結婚を勧めたんですね」


 なんとなく違和感を覚えるようで、アヤは微妙な顔をした。


「だから、白い結婚なんですよ」


 アインスは苦く笑う。

 力を発現してアヤが今度こそ聖女として認められたら、キルヒアイズは自分のところにアヤを取り戻すつもりでいることを話した。


「はあっ?」


 アヤは眉をしかめて、盛大に嫌な顔をする。


「わたしの人生を、何で勝手に決めているの?」


 怒った。


「これ以上、わたしの人生から何一つだって、奪わせない。わたしはわたしの好きに生きる。王子のいいなりに何て、ならないわ」


 憤慨する。だがその声は心持ち、抑え目だ。眠ってしまったジェイスを起こさないように気を遣っている。


「例え、力が発現して聖女として国に認められる日が来ても、わたしはキルヒアイズ様とは結婚しない」


 宣言した。


「しかし、相手は王子だ。簡単に拒むことは……」


 アインスは首を横に振る。難しい顔をした。


「できるわよ。だって、その時のわたしは聖女なんでしょう?」


 アヤはにっと笑う。

 聖女は王族と同等、もしくはそれ以上の力を持っていた。王命であろうと、従わせることは出来ない。


「確かに」


 アインスは頷いた。アヤの言うとおりだ。


「それでも心配なら、既成事実の一つも作っておきます?」


 アヤは真顔で呟く。


「えっ? 既成事実って……」


 アインスは焦った。


「冗談です」


 アヤは笑う。


「白い結婚は継続で構いません」


 爽やかにそう言った。




年の分、アヤの方が肝は据わっています。

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