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 要望。

小さなことが意外と大きな問題になるわけです。

評価&ブクマ、ありがとうございます。




 夕食の時間だと侍女に呼ばれ、わたしは食堂に向かった。1人だと思っていたので、食堂にアインスがいて驚く。


(いつ帰ってきたの?)


 知らなかったので、戸惑った。

 なんとも微妙な顔をしたらしく、アインスが不思議そうにこちらを見る。

 わたしは黙って、引かれた椅子にそのまま腰を下ろした。

 さっと食事が出て来て、アインスとわたしは食べ始める。

 だが、アインスはちらちらとわたしを気にしていた。


「どうかしました?」


 問われる。宝石みたいに綺麗な瞳が真っ直ぐこちらを見ていた。


「いえ、たいしたことでは……」


 わたしは誤魔化す。口に出して言うほどのことではないと思った。だがアインスは納得しない。


「言って下さい」


 請われた。

 そこまで言われたら、黙っている方がむしろ気まずい。


「帰ってきたのを知らなくて、出迎えに出られなかったのがなんとなくもやもやしただけです」


 正直に話した。

 わたしの家は普通の一軒家だった。ただいまと家に帰れば、誰かがお帰りと出迎えはなくても声くらいはかかる。それが普通だと育ったので、家族が帰ってくるなら出迎えたいという気持ちがある。それが例え、半年とか1年だけの家族だとしても。まして、今のわたしは家事もしていない。基本的には暇だ。出迎えに出られない理由は何もない。


「別に毎回出迎える必要はありませんよ」


 アインスは当たり前のように言った。貴族ではそれが普通なのかもしれない。考えてみれば、そのために執事や侍女がいるのだろう。


「……」


 だがわたしはそれに納得出来なかった。


「迷惑でなければ、出迎えたいです」


 主張する。ここで引けば、たぶん、アインスが帰宅するのを教えてもらえなくなるだろう。一緒に住んでいるのに、それは寂しい。


「……」


 アインスは戸惑う顔をする。わたしがそんな主張をするなんて思わなかったようだ。


(イケメンは驚いた顔もイケメン)


 そんなことを考えていると、ふっと笑うように息を吐いたのが聞こえる。


「わかりました。では、使用人達にそのように伝えましょう」


 アインスは折れた。小さく笑みを浮かべる。


(意外と融通が利く人だな)


 外見の鋭利なイメージそのままに真面目で頑固な印象があったので、あっさり折れて意外に思った。


「それなら、ついでにお出掛けのお見送りもさせてください」


 わたしは頼む。おかえりを言うなら、いってらっしゃいも言いたい。こういうものは普通セットだろう。


「わかりました」


 アインスはもう一度、頷いた。


「ところで……」


 次の話を切り出す。


(今日はずいぶん饒舌だな)


 わたしは心の中で呟いた。

 アインスは寡黙ではないが、饒舌でもない。会話がないことを特に気まずくは思わないようで、話題がなければ普通に黙っていた。だがそれは不機嫌とかそういうことではないらしい。話し掛ければ普通に返事をするし、話題をふれば応えてくれた。

 沈黙に耐えられずについつい話の間を埋めてしまうわたしの方が間違っているのはわかっている。だが、わたしは空気を読んでしまう日本人だ。静まり返った空気は得意ではない。無理にでも話題を探して会話を続けてしまうので、アインスにはかなりおしゃべりだと思われているだろう。

 そんなアインスが、今日は話したいことがいろいろあるようだ。


「キャピタル家の侍女たちを帰したそうですね」


 その言葉に、ドキッとする。

 アインスに言われるまで、そのことは終わったこととして自分の記憶の隅の方へ追いやっていた。


「勝手なことをして、すみません」


 まず、謝る。

 そのことに、アインスは逆に驚いた顔をした。


「責めている訳ではありません。女主人として、当然の対応です」


 褒められているのかなんなのか微妙な感じだが、たぶん褒められているのだろう。


「それでも、アインス様に相談もなくやったのは軽率だったと思います」


 反省を口にした。


「そうですね。次回からは出来れば事前に相談して下さい」


 アインスは頷く。


(出来ればいいの?)


 そう思ったが、突っ込まなかった。

 それより、言うか言わないか迷っていることがある。

 わたしは食事をしながら、ちらちらとアインスに視線を送った。


「まだ何か?」


 わざとらしい視線に、アインスは口元を歪める。気付いて欲しいのは伝わったようだ。笑いを押し殺している。どうやら、視線はあまりに露骨だったらしい。


「実は、キャピタル家の侍女たちが帰ったと聞いて、ジェイスの顔を見に行ったのです」


 少し迷って、子供のことは呼び捨てにした。継母が子供に様をつけたら、距離が出来るだろう。あえて、呼び捨てる。

 ジェイスの名前に、少しだけアインスの頬がぴくっと動いた気がした。だが、それはいろいろ知っているわたしの気のせいかもしれないので確かではない。でもなんとなく、アインスがこの話題を避けたいのは伝わってきた。

 わたしはそれに気付かないふりをする。


「二回ほど足を運んだのですが、ジェイスはよく寝る子みたいで。二回とも寝ていてちゃんと顔を見られていないのです」


 状況を説明した。

 キャピタル家の侍女か帰ったことを聞き、わたしは赤ちゃんの顔を見に行っても問題無いかアンナに確認した。乳母に許可がいるのか問う。アンナは自分の子供(継子)なのだから問題無いと言った。アンナに案内されて、子供部屋を訪ねる。

 しかし、残念ながらジェイスはお昼寝していた。

 仕方が無いので、時間を置いて再度訪ねる。だがそれでもダメだった。乳母によると、ジェイスはよく寝る子らしい。結局、わたしは諦めた。


「良ければ、食事の後に一緒にジェイスの顔を見に行きませんか? もちろん、無理にとは言いませんが……」


 アインスを誘う。どうするかだいぶ迷った。アインスが表面上はともかく、内心では快く思わないことはわかっていた。だがこの機会を逃したら、アインスはジェイスを避け続けるかもしれない。

 それはどちらにとっても不幸だ。


「私は……」


 言いかけて、アインスは口を噤んだ。真っ直ぐにわたしを見る。

 わたしはにっこりと笑いかけた。


「……そうですね」


 アインスは頷く。


「一緒に、見に行くことにします」


 やたらと『一緒に』というところを強調された。1人でジェイスの顔を見る度胸はまだないのかもしれない。


「では一緒に会いに行きましょう」


 わたしは大きく頷いた。




お節介は百も承知です。

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