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 到着。

評価&ブクマ、ありがとうございます。


知らない方が幸せな事ってある。




 好奇心は猫をも殺すらしい。


 そんな言葉があったなと、1人になってからわたしは思った。なんで猫?という気がしないわけではないが、知りたがるのはよくないというのは身に染みる。


(知った事実が重すぎる)


 わたしは心の中でぼやいた。

 アインスとレティアが白い結婚だったなんて、キルヒアイズは一言も言わなかった。恐らく、知らないのだろう。2人はとても上手に、自分たちの間に肉体関係がないことを隠していたようだ。

 人知れず、苦々しい思いはたくさんしただろう。


 そしてアンナがわたしになんとなく好意的な理由が理解できた気がした。

 おそらく、アンナは今度こそアインスが幸せになることを願っている。


(ああ、でもごめんなさい。わたしにはアインス様を幸せにするとか、無理です)


 心の中で謝った。

 離婚を決意しているなんて、決して悟られてはいけないと肝に銘じた。アンナの怒りは買いたくない。


 いろいろと複雑な気持ちになり、とても眠れそうにないと思った。だが、わたしの神経は相当図太いらしい。ベッドに横になったら秒で寝落ちしてしまった。

 所詮は他人事だという気持ちが心のどこかにあるのかもしれない。






 そんな自分に少なからず後ろめたい気持ちを覚えつつ翌日の朝食の席についた。アインスからその日の予定を説明される。

 ジェイスが昼過ぎに到着することを伝えられた。

 前日にアンナに確認していたので問題無いのだが、どうせならもっと早く教えてくれたらいいのにと思う。その日のことを朝に伝えるのは遅すぎるのではないだろうか? それとも、貴族の時間感覚なんてそんなものなのだろうか。悶々とするが口には出さない。


(到着時間を知らされたということは、一緒に出迎えろということでいいんだよね?)


 確認したかったが、なんとなく聞きにくかった。その質問が聞きようによっては、前妻の子供なんて出迎えたくありませんわ--と取れなくもないから気を遣ってしまう。


(継母の立場ってなかなか難しいな)


 赤ちゃんが来る前からそう感じた。

 そしてそれは到着した赤ちゃん一行を見て、なおさら思う。

 わたしはやってくるのは赤ちゃんとその乳母だけだと思っていた。だが、それにずらずらと侍女が5人もついてくる。それは明らかに継母であるわたしを警戒しての布陣だった。






 昼食を終えた後、わたしはアインスと共に居間で待機していた。

 ジェイスの到着を待つ。

 執事長がそろそろだと呼びに来て、わたしとアインスは玄関ホールに向かった。手の空いている使用人達もわたしたちと一緒に出迎える。

 玄関の扉が両側に大きく開かれた。敷地の中を入ってくる車が見える。それは1台ではない。2台連なっていた。


(なんで2台?)


 不思議に思っていると、玄関前に停車した車から乳母が赤ちゃんを抱っこして降りてくる。その後に侍女が続いた。2台目の車から降りてきたのも侍女だ。


「アインス様、ただいま戻りました」


 乳母はアインスに挨拶する。乳母を手配したのも乳母に給料を払っているのもアインスだと聞いている。彼女にとっての主はキャピタル家ではなくカッシーニ家だ。

 それは挨拶からも理解できる。しかし問題はそんな乳母を5人の侍女がぐるっと取り囲んでいることだ。

 おかげで、ジェイスの顔さえわたしからは見えない。


(何、あれ?)


 心の中で突っ込んだ。

 アインスの斜め後ろに立ちながら、わたしはちらりとアンナを見る。


(どういうこと?)


 声に出さず、口をぱくぱく動かして尋ねた。

 アンナはすっと私の隣に寄ってくる。耳元に口を寄せた。


「キャピタル家の侍女です。ジェイス様がカッシーニ家での生活に慣れるまで、お世話をするために付いてきたそうです」


 説明してくれる。


(生後6ヶ月の赤ちゃんに慣れるもなにも……)


 呆れていたら、侍女の1人がこちらを見た。その目はとても険しい。明らかに敵意があった。


(そうか。警戒されているのはわたしなのか)


 継母が苛めるのではないかとキャピタル家では危惧しているようだ。


(赤ちゃん相手に意地悪なんてしませんよ)


 心の中で反論する。だが、そんなこと一言も言われていないので何も言い返せない。

 結局そのまま、わたしはおくるみに包まれた赤ちゃんの顔さえ見れずに終わった。おそらくアインスも似たようなものだろう。

 だが事情を知っているわたしにはアインスはあえて赤ちゃんの顔を見なかった気もしている。

 見るのが辛いのは容易に察することが出来た。

 

 アンナは侍女ごと乳母を用意した部屋に連れて行く。

 彼女たちの姿が完全に見えなくなってから、わたしは口を開いた。


「あの方たちはいつまで滞在するんですか?」


 アインスに質問する。

 露骨な質問にはさっさと追い出せという無言の圧力を込めた。

 それはわたしだけの意見ではない。

 この場にいるカッシーニ家の侍女たちはどうもキャピタル家の侍女たちとは折り合いが悪いようだ。

 侍女たちが現われてから、ずっと殺伐とした空気が漂っている。

 彼女たちはわたしにも敵意むき出しだが、カッシーニ家の侍女たちにも決していい感じではなかった。

 つんつんしている。

 こういう空気の方が赤ちゃんには悪いのではないかと思った。

 乳母がいれば、養育の手は足りる。

 さっさとキャピタル家の侍女たちにはお戻り願った方が良さそうだ。


「揉める前にお帰り頂くのが一番だと思います」


 余計なことだと思いつつ、口を出した。

 カッシーニ家の侍女たちからはよくぞ言ってくれたという空気が漂ってくる。

 アインスは少し驚いた顔でわたしを見た。そんなことを言うとは思わなかったらしい。


「そうだな」


 アインスは頷いた。だが、それは簡単なことではないのだろう。難しい顔をしていた。


 





侍女たちにもいろいろあるのです。

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