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『さて、ひろみさんには好きに生きていただくことと、停滞しつつある文化に刺激を与えてほしい。この二点をして欲しいことと話ましたが、また別にお願いしたいことができまして…』
「お願い?」
『ええ…。その前に謝罪を。人間の感覚と私たち神感覚が違うことを失念しており…通貨のことなど誤ったことを教えていました』
「そういえばそうだな」
『十年ほど前の情報だったらしくて…ひろみさんをこちらに送ったあと、変化はないか調べてみたら意外と変わっていまして。十年前はあった国がなくなっていたりもしていました』
「まあ十年ありゃそれなりに変わるだろうな」
『ええ。それでお願いなのですが、ある人物を殺害、もしくは封印して欲しいのです』
…穏やかじゃないな。
「人を殺せってか?」
『はい。地球生まれのひろみさんからしたら忌避する行為でしょうが…。ヘミスフィアでは盗賊や海賊が普通に居ますし、虐殺などもたまに起きます。それに一部では犯罪者の公開処刑や晒し刑などを民の娯楽としている場所も未だにあるようです』
「だから人殺しに忌避感を持つなと? そんなことを言うとは思わなかった。気分が悪いから早く帰らせろ」
『違います! そういう意味で言ったわけではありません!』
淡々とした口調が物凄く焦った物に変わった。本当にそんなつもりではなかったのだろう。上げかけた腰を再び下ろした。
「で?」
『いえ…ひろみさんに人殺しを推奨したり忌避感を捨てろと言うつもりはありません…。ただ殺す覚悟をしておかないと自分の身や周りを守れないことがあるかもしれないからあまり忌避感を持っていざという時に躊躇したら危ないと言いたくて…』
眉間に寄った皺を揉みながら思う。こいつ不器用…というか、コミュニケーション下手だろ、と。
まあ神様だから人間とは精神構造が違うのだろうが…。
「だが、お前は俺に殺害してほしいって言わなかったか?」
『え、ええ…。でも封印でも良いのです。それと殺害してほしい人物…とは言っても、ちゃんとした人ではないのです。殺せば霧散してしまうと思うので、言うならば幽体の魔物、でしょうか?』
「どういうことだ?」
『私がヘミスフィアを放置…もとい地球の文化に興味を持っていた間、悪戯好きの神がここ最近の安寧と停滞した世界に刺激を与えようとしたらしいのです。それである魔物に力を分け与え、いわゆる魔王という存在を作っていたらしく…』
うん? やってることはこいつも一緒だよな? 現地の魔物に力を与えるか、地球から引っ張ってきた人間に与えるかの違いだ。
『まあそうなのですが…。それで魔王のサポートをするために各国に魔王を補佐するための人間を作ったようなのです』
「…それで?」
『魔王だけなら…まあ放っておくか、対魔王特化のスキルを誰かに与えるとかで良かったのですが、生物の創造は私の領分です。更に、私ですら無闇に創造してはならないと戒め、その能力は半封印しております』
「俺の肉体を作ったよな?」
『魂はひろみさんのものでしたし、器だけなら問題ないです。それに魂から作っても、それをやったのが私なら問題はないのです。ですが、他の神がそれをやってしまって…』
「それで、神が作った人間を殺してほしいと? もしくは封印か」
『ええ。創造の神である私が作ったわけではないので完全な生物とは言い難く、半分は魔力で出来たような者なので幽体と言ったのです。そんなわけで魔王はまだしも、その人間は殺す…消滅させるか封印したいのです。ですが私が直接手を下すわけにもいかず、面識のあるひろみさんにお願いした次第です』
「…幽体だとしても、人間の姿をしている奴を俺が殺せるかはわからないぞ? サメを殺した時ですら気分が悪くなったしな」
『ええ。無理なら封印でいいのです。封印も厳しいようなら放っておいて構いません。それほど緊急性があるわけでは無さそうなので、旅をしながら上手いこと近寄れそうならいつか倒してほしい。といった感じです』
「…まあそれなら善処するよ。それで、その人物はどこで何やってるんだ?」
『私が今把握しているのは各国に一人ずついます。それぞれ、国の戦力の報告や、作物などの密輸による魔王の戦力拡大の手助けをしているようです』
「ふーん? 魔王を倒せば終わりじゃないのか?」
『いえ、私が不在の間にやらかした神が何処かに逃げてしまったので、魔王を倒しても新たな魔物に力を与えるだけでしょう。ですが、生物の創造はそれなりの力を使うのでそうぽんぽんと作れません。なので魔王は後回しで、各国にいる半幽体を倒していただきたいのです」
魔王って量産可能なのか…。
「まあわかったよ。出来るかはわからないが、努力はする。それにせっかく色々なしがらみが無くなったんだ。旅行で世界一周ってのもいい…って…この足じゃめちゃくちゃ大変なんだけど!? 地上じゃ這うことしかできないラピスもいるし、普通の何倍も時間がかかるぞ!?」
「まあ不老ですから、気長に…「それは…本気か?」」
車椅子…もとい魔導椅子に乗って、ラピスを抱えて各国を回れと? どれだけの時間がかあると?
「………んんっ。もちろん冗談ですよ」
なんだその間は。絶対冗談じゃなかっただろう。
「えっと…そうです。生活魔法と洗浄魔法、浮遊魔法、後は変身魔法もプレゼントしちゃいます」
「解体魔法とかは?」
「…面倒…もとい結構力を使うのですが」
「結構簡単に貰えるスキルって聞いたが?」
「それくらいの魔法でしたら一つあげるくらい問題ないですよ。簡単にポンっと差し上げます。ですが、いくつも…となると…面倒くさいです」
…力を使うのが理由じゃなく、面倒なだけかよ。
「別に俺は幽体を倒すなんて面倒しなくてもいいんだけど?」
「私たちの仲じゃないですか。お願いします」
「他に頼め」
「…はあ。わかりましたよ。他の人に頼む方が面倒です。生活魔法と洗浄魔法、浮遊魔法、変身魔法。更に解体魔法、探知魔法、鑑定魔法をおつけしましょう」
お。なんか増えた。
言ってみるもんだな。
「…じゃあお願いしますね? 明日には魔法が使えるようにしておきますので」
「今じゃないのか」
「今読んでる漫画を…んん。後ほどちゃんとやりますのでご安心を」
……漫画を? 読み終わったらってか? 漫画の方が優先って、幽体倒さなくても問題ないんじゃないか?
「ではご健闘を」
そう言われた途端、視界がぐにゃりと歪んだと思ったら先程祈った場所に戻ってきた。
「はあ…」




