18
神様の声が聞こえ目を開くと、この世界に来る前にいた場所…ではなく、乙女チックな部屋だった。白地に花柄の壁紙、天蓋付きのベット、所々に配置された大小さまざまなぬいぐるみ。
そして桃色のラグマットに座りつつ、桃色の机に置いたお茶を手に取る…。
「誰?」
『創造神です』
…。
以前は俺と同じ顔をしていたが、今目の前に居るのは腰まで届くだろう黒髪で口元だけ出た狐のお面を被ったやつだった。
というか…腰まで伸びた艶のある黒髪、単調な口調、人を小馬鹿にした感じ、お笑い好き、桃色やぬいぐるみなど、可愛らしい物好き、そして俺の友人。
こんな特徴的なやつが身近にいれば思い出せるだろう!? ここまで出掛かっているのに思い出せん! くそ!
『ですから、記憶を封印していると言っているではありませんか。そんな強力な封印ではないので、私の顔を見て封印が解ける可能性もありますので仮面をつけさせていただいております』
「それは構わないが…ずっと記憶は戻らないのか?」
『別に記憶が無くなったわけでも奪ったわけでもないので、普通に過ごしていてもそのうち戻る可能性はありますよ? なにかきっかけがあれば戻る可能性は高いですね』
「そうか…。気になるが…封印を解く気は無さそうだな」
『ええ。恥ずかしいので。心の準備が必要です』
「それ、必要か?」
『…0点ですね。ボケたのに突っ込んでいただけないとは…これがスベるということですか』
「どこがボケだったの!? 滑る以前にボケたのかすらわからなかったわ!」
『難しいですね?』
創造神だろうが、こいつはアホ娘だな。もはや敬う気持ちは何処かにすっ飛んで、残念な娘って印象が強くなった。少しでも神聖な感じが醸し出されていればなら素直に敬えたんだが…。
「というか、口開けよ! なんで口開かないで会話すんだよ!」
『疲れるからですね…っと。あまり時間もないことですから本題に入りましょう』
本題に入れなかったのはお前のせいだと言ってやりたい。
『私のせいではないと思うのですが?』
…そういや心を読めるのか。
「まあなんでも良いが、本題ってなんだ?」
『こちらの情報をインプットすると言っていたのに忘れていたので、改めて情報を提供しようと思いまして。とりあえず羊羹でも食べてください』
創造神がそういうとポンッとテーブルの上に羊羹が現れた。
すっかり創造神のペースになっているのは少しばかり気に入らないが、座って羊羹を食べる。
「ラピスは?」
『あの子はここには来ていませんよ。貴方の意識だけを呼びました』
「へえ。それで…情報とやらは?」
『とりあえず羊羹を食べきってください』
…なんで羊羹食うことを強制されてんの俺。本当にこいつと俺、友人だったのか…?
言われるがまま羊羹を食べると色々な情報が流れ込んできた。本来、俺が知らない情報が浮かんできて、一瞬で別の情報が浮かんでくる。
しばらく情報が浮かんでは消え浮かんでは消えとちょっとした眩暈を感じながら耐えた。
『そろそろ終わりましたか?』
「ああ…。なんだったんだ…?」
情報は浮かんできたが、一瞬だったからかどんな情報があったのかはよくわからない。
『その羊羹に情報を込めました。羊羹を食べると情報を得られるようにと』
「はぁ? …なんで羊羹なんだ?」
『私の好物なので』
「お前の好物かよ! というかわざわざ羊羹に情報を込める必要はないだろう!?』
『必要はあったのです。貴方がいつ教会に来るかわからない。そして貴方が来た時に私が情報を与えるという労力を割く余裕がないかもしれない』
「面倒なだけだろうが」
『それをお土産として買ってきた羊羹を食べている時に思ったのです。そして暇な時に情報を込めておけばこれを食べさせるだけで良いんだと思った次第です』
面倒くさがりすぎだろう!?
『あっ。感謝してくださいね? 気軽に地球に買い物が行けない身ですから、その羊羹は貴重なんですよ? ひろみさんは羊羹の作り方知ってます?』
「いや、知らん。というかどんなものを使うかくらいは知っているが、寒天の作り方知らないし無理だな」
『…これだから器用貧乏は…「はぁ」』
うわっ。
今までため息とかやれやれとか言うのも念話だったくせに、今、初めて口を開いたと思ったらため息つきやがった!
「お前が中途半端な知識しかない俺を連れてきたんだろう!? 地球の神に言ってレシピ本でも取り寄せろよ! というかお土産に羊羹買うんじゃなくて製法を学んでこいよ!?」
『は!? 確かに…盲点でした…』
「どこが盲点!?」
もうこいつイヤ! 残念すぎるだろう!?
『羊羹の製法は私が調べておくので、そのうち作ってお供えしてください。百年くらいは待ちます』
「そんなに俺が生きられねーよ」
『不老長寿なので外的要因がない限り死にませんよ?』
あー…そういえばそうだったな。
「まあそのうちな。というか脱線しすぎだっての! 情報が浮かんできたけど、どんな情報があったかわからないんだが」
『他の記憶と同じですよ。ふとした瞬間に思い出すことはあっても、思い出そうとしなければ思い出せません。ウェブの検索も調べる内容を打ち込まなきゃでてこないでしょう?』
それもそうか…。
じゃあ魔法についてだな。なんであんな多種多様な魔法があるか…。
そう思い浮かべると思い出したかのように情報が浮かんできた。
神々がこんな魔法もあれば良いんじゃない? なんていう適当な理由で魔法を作り、それっぽい名前をつけていったから、効果がとても限定された魔法や、あまり意味のなさそうな魔法、使い方次第では似た結果を生み出す魔法が生まれた。…らしい。
へえ。そうなのかぁ…。
じゃあヘミスフィアについては?
この惑星を作ったのは目の前にいる狐仮面の黒髪であること。創生されて五千年ほどという情報が浮かぶ。
じゃあこいつは地球で俺とどんな関係だった? 顔は?
そう思い浮かべてみるが、何も思い出せない。というか情報がなかった。
ならあのサメは…。
『与えた情報を調べて遊ぶのは良いですが、それは後にしてください。あまり時間がないので』
「あっ。すまん。知らない情報が、まるで知っていたかのように思い出せるのが楽しくて」
『まあここ数日、暇な時に適当に詰め込みましたから、色んな情報がありますよ。後で楽しんでください』
適当に詰め込んだって…。




