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「絵本って…子供でもいるのか?」


「いえ、甥っ子の本ですね。ただだいぶ前の物で埃を被っているので。結構ボロボロなので売っても仕方ないですし、休みの日にでも掃除ついでに捨てようと思っていたのですが…」


「ですが?」


「休みがないので、埃を被ったままなのです。ですから差し上げますよ」


 ……めちゃくちゃブラックじゃねぇか。俺、冒険者引退してもギルドでは働かないと決めた。


「苦労してるな」


「同情は結構ですよ。文字を読めない貴方の方が問題でしょう。ご自分の心配をされては?」


 あー。これは優しさからじゃなく嫌味だな。それか同情された嫌悪感? クールに見えて意外と表情豊かだなこいつ。


「話が脱線しましたが、こちらが認可証です。お名前はラピスさんでお間違いないですか? 種族を聞き忘れたのですが、その姿は海豹族のホワイトシールですよね?」


「海豹族だが、ホワイトシールかは知らん」


「まあそこは問題ないです。これが認可証です」


 認可証には『ラピス』『海豹族』『契約主:ヒロミ』とだけ書いてあった。名前と種族、契約主の三つって随分簡素…いや、俺のギルド証もランクと名前、ギルド支部の名前の三つだけだったな。


「ありがとう。紐なんかはないか?」


「ありますよ。有料になりますが」


「…サメの代金から引けるか?」


「ええ。紐の前にグラースルカンの売却金についてお話しましょう。まず、首だけ落とされた十五匹ですが、状態が悪くないですので一匹につき金貨六枚。ぶつ切りになっていた物は皮がほとんど使えないので金貨三枚です」


 …半額か。というか皮が高いのか…。


「それと解体料金が銀貨五枚、ラピスさんの認可証で更に五枚ですので金貨一枚です。全てお売りされるなら金貨九十三枚から金貨一枚を引いて九十二枚です。魔石や皮、肉の引き取りはどうされますか?」


 解体料金!? あ、いや、そりゃ当たり前だよな。タダでやってくれるわけないか。逆にあれだけの数を銀貨五枚なら安いな。


「うーん。ラピス」


「きゅぅ?」


「サメの肉欲しいか?」


「きゅぃ!」


 欲しいらしい。


「じゃあ金貨三枚の方…俺がぶつ切りにした方の肉を全てくれ。皮と魔石はいらん」


「そちらの肉は全部で銀貨八枚ですので、それを引かせていただきます。そうしますと金貨九十三枚から金貨一枚と銀貨八枚を引いて金貨九十一枚と銀貨二枚ですね。今お持ちしますのでお待ちください」


「おう。あと紐は?」


「紐はお金と一緒にお持ちしますのでお待ち下さい」


 カウンターの後ろの扉に入ったと思ったら一分もせず戻ってきた。


「まずこちら…金貨九十一枚と銀貨二枚です」


 そう言って一枚ずつ袋から取り出していく。


 おいおい…。これ、それなりの大金だよな? こんな見せびらかすようなことして盗もうとする奴がいるだろ。なんでこんなことすんだ…? ここでやる必要があるのか? リアスを止めて別室に案内を頼もうかと悩んでいる間に十枚の山が九つ出来上がった。


「確認していただけましたか?」


「あ、ああ」


 ここでは金額に関わらずこうやって渡すのが普通なのだろうか…?


「それとこちらです」


 リアスは金貨の山を脇に寄せると五種類の紐を取り出した。


「まずこちら、とある貝の魔物の粘液を固めて紐状にした物です。この中では一番安く、耐久性も低いです」


 そう言われたのは赤っぽい紐だ。これは銀貨一枚らしい。


 その他の紐…というかチェーンもある。


 地上の蜘蛛の魔物の糸から作った白い紐。こちらは銀貨三枚。


 鉄に金メッキをしたチェーン。これは金貨一枚。


 純金のチェーン。これは金貨十枚。


 そして最後にミスリルのチェーン。お値段は驚きの金貨五十枚。


 めちゃくちゃほっそいチェーン。しかもラピスの首には長さが足りないので手になんとかつけられるくらいの長さでだ。


「高すぎるだろう…」


「ミスリルは貴重な上加工が難しいですので。ラピスさんの首に…となると金貨百五十枚はすると思いますよ」


 アホだろう。そんなものを誰が使うんだ。


「それでどうされます? 一番強度が高いのはミスリルですが、別に貝の粘液から作った紐でもそうそうきれませんよ? 私では引っ張っても切れませんし」


「それなりの強度があるんだな…じゃあーー」



 ♦︎



 その後金貨を袋に入れギルドを出た。既に外の珊瑚の光は落ち、淡く青白い光に変わっていた。


 薄暗いし、金を盗もうと跡をつけて来る奴がいないかと警戒しながら歩いていたが、杞憂だったようで何も起こらず、次の目的地である教会に辿り着いた。

 かなり大きな建物の上、建物の上には十字架があったのですぐにそれが教会であることがわかった。


「きゅっきゅっきゅいっ」


 …さっきからご機嫌できゅっきゅっと鳴いているラピスに静かにするように言う。


「教会なんて言ったことないからわからないが、こういうとこでは騒がしくするのはマナー違反…だと思うから静かにしてるんだぞ」


「きゅいー!」


 わかったー! と認可証の付いた方の手を挙げるラピス。

 物凄くご機嫌である。


 ラピスの機嫌が良い理由は左手にある認可証のついたチェーンが原因である。


 結局俺はミスリルのチェーンを選んだのだ。

 目の前に積まれた金貨の山五つをリアスの方に押しやってミスリルのチェーンを貰った。


 その瞬間、こちらを見ていたらしい人たちがざわざわと驚きの声をあげていた。


 そりゃそうだろう。

 認可証を付けるためだけのチェーンに金貨五十枚…五十万くらいか? それを今日登録したばかりのやつが買ったのだ。正直アホだと思う。俺もその光景を第三者として見ていたら、あいつアホだろ。って言ってしまう自信がある。


 だが…致し方なかったのだ!


 なんとミスリルはメタリックブルーのような綺麗な青色だったのだ。ラピスラズリやラピスの瞳とは微妙に違うが、青。そしてラピスの目はミスリルに釘付け。


 キラキラとした目でミスリルを見ているラピスに赤い紐で我慢しろなんて言えるわけがない!


 それに微妙に違うとはいえ、瞳と同じ青なのだ。ミスリルを選ぶのは仕方ないだろう…。


 そして認可証のついたメタリックブルーのチェーンを手に嵌めたラピスはご機嫌になったとさ。めでたしめでたし。


 …まあ金貨四十枚以上も手元にあるのだ。しばらくは大丈夫…だと思いたい。


 ラピスは声を出さなくなったが、俺の膝の腕で軽く手をパッタパッタと振ってご機嫌アピールだ。…アピールではなく本当にご機嫌だったな。


 そして教会に入ると…誰もいなかった。


「創造神人気ないのか…?」


「いえ、そんなことはありませんよ」


 後ろから声がしてビクッとしてしまった。ご機嫌だったラピスも驚いたらしく手の動きが止まった。


「驚かせてしまいましたか。申し訳ありません」


 振り向くと顔の横に大きめのヒレが生えた白髪の女性がいた。


「あ、はい。こちらの方で?」


「ええ。シスターです」


 シスターと言っても普通の服なんだな…なんて感想を抱いていると。


「なんでしょう…? お祈りに来たのでは…?」


 見過ぎたか。


「ええ。それで人がいないは何故でしょう?」


「光ぎ落ちましたから。夜間に教会に来る方はあまりいませんので」


「ああ…それで…」


「ですが扉はいつでも空いていますので、いつ来ても大丈夫ですよ。是非祈って行ってください。それでは失礼します」


 綺麗にお辞儀をしてシスターさんは去って行った。


「びっくりしたな?」


「きゅ…」


「じゃあ祈ったら今日の宿ん探しに行こうか」


「きゅい!」


 リアスに聞いたら、いくつかの宿を紹介してもらった。光が落ちるから急いで宿の確保をーーと思ったのだが、光が落ち始めた時点でその日泊まる客は大抵決まっているから急ぐことはないと言われたので先に教会に来たのだ。

 この後、契約魔物を連れて入れる宿を回って泊まれるところを探すつもりだ。


 どこにも泊まれなかったら?

 俺が入ってきたアーチのところまで行って野宿予定だ。あそこなら人通りはほとんどないし、誰の邪魔にもならないからな。


 神様は手紙で教会に来いと言っていたが…祈れば何か起こるのだろうか?

 そう思い、神像の前に行く。ちなみに神像は女性の姿だった。


 膝をつくのは難しいので、魔導椅子に座り、ラピスを抱えたまま祈るように手を組む。


『目を開けてください』


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