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サメを倒した後はひたすら泳ぎ続けたがこの日は襲ってくる魔物に出会わなかった。小さな魚や遠目に大きな影は見えたが、それらが追いかけてくることはなかった。
日が暮れてから休むために移動を止め、その際海魔法で小魚を捕まえて捌いてみたのだが、ちゃんと頭部に魔石があった。まあ小さい見た目普通の魚なら抵抗なく捌けるのにサメはやはり抵抗があるのでわざわざ魔石を取り出さないが。
そしてこの世界に来て四日目。日の出と共に泳ぎ始めたのだが、少し流氷が減ってきて、魚は結構見られるようになった。
「お、魚の群れ………魔物の群れって言った方がいいかもしれないが…結構魚増えたな?」
「きゅい!」
「追いかけてくるか?」
「きゅぃ?」
「いいぞ」
「きゅいー!」
許可すると物凄い速度で魚を追うラピス。
とはいえ俺と一緒に神が用意してくれた食べ物を食べているので、たいして空腹ではないのだろう。遊ぶ気持ちが八割、食べたい気持ちが二割、と言ったところか?
なので群れに突っ込み魚を一匹二匹食べたら戻ってくるので南に進んでいく。
イワシに似ている三十センチほどの魚や俺と同じくらいの大きさの魚。岩には地球のそれよりも圧倒的に大きいウニや貝類、一メートル程の蟹などが見られるようになった。
こっちがかなりの速度で泳いでいるかなのか、そういう生態なのかどの生き物も襲っては来ない。魔物というくらいだからどいつもこいつも襲ってくるのかと思ったがそんなことはないらしい。
「きゅぅ…?」
「ラピス? …ああ。あざらしがいるな。お前とは少し違うが」
遠目にラピスに似たシルエットが見えた。近づいていくとゴマフアザラシのような見た目だ。
地球ならあっちは大人。ラピスは子供。と言う感じなのだが、ここでは進化しないと姿が変わらないって言うしな。ラピスが進化してこの先にいるゴマフアザラシのようになるかは不明。
「行ってくるか?」
「きゅい」
僅かに首を横に振るラピス。
「そうか」
こちらを意識してるのかもわからないが、何もしてこないのでそのまま通り過ぎる。
「にしても積極的に襲ってきたのはサメだけだな?」
いや、カニとかも近づけば襲ってくるかもしれないが。
四日目は平和に過ぎていった。ラピスを除くと初めて出会った生き物がサメだったので他の生き物…魔物もこっちを捕食する気満々の生き物ばかりかと思っていたので拍子抜けである。
まあ何もないことに越したことはないのだが。
五日目は雪がチラついていた。
と言っても寒くないし、水中にいれば気にならないが。ただ少し暗いのが残念だ。
どれだけ暗くても薄暗い程度だが、やはり天気が良く、太陽が流氷に阻まれていなければ明るく見えるし、明るい方が景色も見ていて楽しい。
「いつ着くんだろうか」
「きゅい?」
「街にな。海底の街とか想像がつかないけどな」
「きゅい〜?」
「ラピスもわからないか。そういえば神に連れてこられたんだろ? 前はどこにいたんだ?」
「きゅぃ? きゅ」
「わからないのか?」
「きゅいっ。きゅきゅっきゅいっ」
突然神に呼ばれて転移させられたからわからない…と。それは拉致って言うんじゃねーか?
今度はラピスに俺の話をしてやる。地球の話などだ。ちゃんと理解はしていると思うが、何せ返事が「きゅい」だ。
凄い! だの、楽しそう! って感情は伝わってくるがやっぱり言語として会話したいな。
そんなこんなで五日目は陽も落ち、六日目。
数時間ほど泳ぎ、とっくに流氷もなく、水温が暖かくなってきた頃。
「ラピス。あそこ凄く光ってないか?」
「きゅい!」
視線の先。海底が光っているのが見えた。
街…じゃないか。凄く光ってるとはいえそんな大きな光ではない。アンコウとか光る魔物かもしれないが…。
「見にいくか」
「きゅっ」
それから更に数時間。既に陽も落ち暗くなってきているにも関わらず、光には辿り着けていない。ただし光はどんどん大きくなっていき、今では視界一面光っているような感じだ。
よく見ると光っているのは珊瑚である。そして珊瑚の向こう側には巨大な岩がいくつも並んでいる。
「あれが街か…」
巨大な岩は自然物のような物もあれば、城のような形の岩まで見える。おそらく海人族が住んでいるんだと思うが…。
「今更だがラピスも俺も街に入れるのか?」
「きゅい?」
「いや、なんでもない」
検問とか入国審査とかあるのだろうか? 神に攫われました、なんて言って信じてもらえるのか知らないし、信じられて変な宗教に捕まるのも困るし…何か聞かれたら記憶喪失でいくか。
太陽はとっくに落ちているが、街に入れるのだろうか?城壁ならぬピカピカ光る珊瑚で囲まれているのだ。珊瑚を越えて勝手に入ってはまずいだろうし…陽が落ちているから皆寝てます。って可能性もあるよな。
「ラピス疲れたか?」
「きゅーい」
「疲れてないならこのまま向かうが…今日はここに結界張って休んでもいいぞ?」
「きゅい!!」
早く行きたいらしい…まあ俺も行きたい気持ちはあるんだが、だんだん不安になってきたから休みたかったんだが…ラピスが楽しみにしてるみたいだし、頑張るか。
「んじゃ行こうか」
「きゅいっ」
それから光る珊瑚の元に着いたのは更に数時間後。朝日が登り始めた頃だった。