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【⑦ トレイン・トレイン】

 どれだけ数を減らせたかな。包囲が薄くなってきた。

 頃合いか。僕は、ポルク女の背後に迫る暴走個体を撃ち抜くと、素早く再装填を済ませる。

 ドワーフ女が、驚き尻餅を着いたポルク女を強引に立たせるや、尻を蹴った。



「あいたー!?」


「やかましい。とっとと走らんかい!」



 ドワーフ女のタックルで、ついに、下層エリアへ続くルートの包囲が、とうとう破れた。こいつを待ってたんですよ。

 こちとら。なんかもうタワーディフェンスでしたよ。

 30体程いたあの暴走個体の群れも、今や5体。これなら後はもう無視してさっさとダンジョンから脱出しちまえばいいのです。

 下層への道へと駆け出す2人は、チラリと僕へと視線を向ける。撃ちやしないよ。

 そんなに心配しなくても。



「ばいばーい」



 僕は手をひらひらと揺らす。



「あの声……あいつ、やっぱり男じゃな。それも、かなり若い」



 なんか性別と年齢層を搾られた。牛乳みたいに。

 ちょっと声かけただけじゃん。なにその洞察力。

 2人の背中が小さくなっていく。変に興味を持たれたら嫌だな。

 ………………なんて、そんな事を考えていると、地響きが。今度はなんだよ!?

 こっちは、この後、お花を摘まなきゃなんねぇんだぞ。

 分かってんのか。



「…………!!」



 お、お! ……揺れる!!

 何? 何なの?

 地震?


 ────来た。

 最悪だ。上層の暴走個体じゃんすか。

 二足歩行型という、共通点はあるものの、5メートル程の体長を誇る暴走個体。おそらくは、このスクラップ山脈の廃材を使って自身に改造を施したのだろう。

 その、大型暴走個体が、2人の後を追っていた。武装は、右腕にミサイルポッドに、右肩に火炎放射器。

 左手には鉄球。左肩には、ガトリングガン。

 頭部には、幾つものスピーカーを寄り合わせたオブジェ。そいつが、けたたましいサイレンを鳴らしてやがります。

 ダンジョンで稀に見る強キャラ。


 『賞金首』だ。


 あまりに強く、被害者も多く出た為、賞金を懸けられたモンスター。こいつは、スクラップ山脈の賞金首。


 『賞金首サイレン』


 こいつは、まあ強いことは強いが、賞金首の中じゃ、下位も下位。だけど、こいつに賞金が懸けられたのには、理由があります。

 このやかましいサイレン。この大音量の爆音の中じゃ、魔法使いはろくに魔法を操れないって話。

 集中できねえのです。シンプルに。

 密室だったら鼓膜破れるレベル。戦士や弓使いも、弱体化しちまうでしょうね。

 うっせぇから。


 次に、辺りの暴走個体を引き寄せ、支配しちまうのです。

 まともなアイ族でも、暴走させちまいかねないっつーヤバさ。だから、このダンジョンは、まともなアイ族があんまり寄り付かねえの。

 ……でも、これはさすがにヤバい。笑えねえですよ。


 サイレンは、下山してやがります。ダンジョンの出入口まで降りてこられたら、アキハバラの町の連中に、どんな影響が出るか。

 ここでなんとか食い止めなきゃ。あの女共を追ってんのも厄介だ。

 ああ、くそ。くそったれ。

 花どころじゃねえや。僕は、何十もの暴走個体を引き連れているサイレンヘッドの頭部に、グレネードランチャーをお見舞いする。

 一時的に、サイレンにノイズが混じった。

 僕のメガロシャークは、マウント部分のアタッチメントパーツを付け替える事で、時にグレネードランチャーを、時にテーザーガンを、時に火炎放射器を、時にバヨネットを、時に大容量マガジンを取り付けて、敵を滅殺するのだ。

 滅殺だ、滅殺。撃滅して滅ぼして殺す。

 ぶち壊す。鉄屑にしてやる。

 どいつもこいつも。あの町に行かせるか。

 僕は、雪崩の如く、スクラップ山脈を降りていく暴走個体を次々と撃ち抜く。頭を、胴体を、足を。

 少しでも走るリズムを遅らせれば、後は後続とぶつかり玉突き事故だ。少ない弾薬の消費で、最大級の戦果を。

 でなければ、とてもじゃないけど、弾が足りねえ。……あ、足りないです。

 …………足りません。何にせよ、鉄の廃材やコンクリートの下り坂で玉突き事故れば、下に着く頃には、スクラップ一丁。

 壊して、殺して、こうして、こうやって。殺して、殺して、壊す。

 サイレンは、たまに僕に向けてガトリングやグレネードを撃ってくるから、僕も一ヶ所でずっと撃ち続けていられねえです。そろそろ攻撃が来そうだなと感じたら、即離脱。

 でなきゃ、木っ端微塵じゃんすか。スクラップ山脈でスプラッターじゃんすか。

 調子出てきた。飛んできたドローンを、金属片を投げつけて落とすと、再び前方を走る暴走個体へと、狙いを定める。

 くそ、サイレンからの攻撃も激しいな。隠れた瓦礫の柱が、グレネードで弾け飛ぶ。

 僕も弾け飛びそう。全く、なんて火力だ。

 さすがに、僕も賞金首とまともにやり合うのは、これが初めて。他の暴走個体と同じ様に、転倒させる事が出来ればいいのだけれど、取り巻きの暴走個体が、それを邪魔しやがるのです。

 むかつく。人の嫌がる事を進んでやる奴って、これだから嫌いだよ。



「あの2人のせい……って訳でもねえんだよなぁ」



 あの女達は、無事に脱出出来たんかね。せめて、アイ族の誰かに、スクラップ山脈で小規模の氾濫が起きてる事を伝えてくれりゃ御の字なんだけどな。

 この、トレインって現象。

 モンスターが一斉に複数、或いは、個人の人間を目掛けて、列をなして追いかけてくる現象は、下手したら、町一つ、滅ぼしかねない。あの2人が悪意を持ってそれをやるか、不可抗力でも働けばの話。

 僕のこの戦いは、それを現実にしない為の戦いだ。

次回、更新予定日は2月3日。

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