【⑥ モンスターハウス】
────……最悪だ。モンスターハウスだ、これ。
モンスターハウス。
略してモンハウ。
ダンジョン内で、モンスターが密集している環境を差す言葉。ダンジョンにおいて、アイ族も狂ってしまえば、モンスター扱いとなる。
つまり、今回の場合だと、暴走個体と呼ばれる、制御不能なアイ族だ。奴等は、一様に汎用機のボディです。
腕にランチャーを装着してるタイプとかじゃなくてよかった。本当に。
数は多いけれど、なんとかいけそうかな。
助ける義理はねえんですけどね。これから女に会うのに、目の前の女を見捨てんのは気分悪い。
だから、まあ。助けるよ。
自分の都合の為だけに。
下の2人組は、特に酷いなんかを、負っている訳じゃなさそうです。ただ、突破力が足りていない。
ポックル族とドワーフ族のコンビか。種族特性から察するに、ドワーフがタンクとアタッカー担当で、ポックルが罠の解除やサポートってところかな。
僕は、貯水タンクの上で、アサルトライフルを構える。この距離なら、まあ、怯ませるくらいなら。
2人を囲む暴走個体の数は、30体以上。3体ずつ、2人に襲い掛かっている。
「援護する!!」
叫び、銃弾一閃。アサルトライフルの銃口から飛び出す弾丸が、錆びた金属をブチ抜く。
僕の狙った通り。
「なんじゃあ、おのれは」
僕の存在に気付いたドワーフ女が、睨み付けてきやがります。まずはそこは、ありがとうだろうが。
なにメンチビーム飛ばしてきてんだ。
「加勢しますっつってんの」
ドワーフ女は、僕の迷彩服やヘルメット、銃器を見て顔をさらにしかめやがるのです。隣のポルク女も同様。
「その武器、あんた、アイ族かい? でも変だね。
それにしちゃ、身体がずいぶんとスマートじゃないか。もしや、新型なのかい?
……声も肉声みたいだし」
お、なんだその目。やんのか。
ポルク女も僕を、救援というよりかは、新手の敵なんじゃないかって目で見てきやがります。ま、ダンジョンでは、それが正解って、僕もダキアから教えられた。
味方の面して近付く奴を信用するなってさ。だから、正しい判断だ。
きっとね。
「…………」
僕は、彼女達の反応を一旦無視して、彼女達に近付く暴走個体を撃ち抜く。
「もうなんでもいいから、好きに戦ってくれ。僕が出来るのは、殲滅じゃなくて遅延です」
怯ませ、当たりどころがよけりゃ倒せるけれど、殲滅火力に期待しねえでもらいたい。気休めの足止めだよこんなん。
アサルトライフルで金属製の敵を倒すのは困難。だから、歩く暴走個体を撃ち、体幹バランスを乱し、姿勢を崩す。
それが、最も効果的な貢献ムーヴじゃんすか。
「アイ族の武器だ」
ポルク女が、暴走個体の頭を手斧で叩き割るドワーフ女の顔を見ながら、僕を指差す。戦闘に集中しろよ。
あと人を指差すな。その指へし折るぞ。
「あの肌の色は、魔族でもなさそうじゃ。やはり、アイ族なんじゃろうなぁ」
ざーんねーんでーしたー。人間でーす。
旧人類でしたー。魔族じゃありませーん。
ま、分かるよ。アイ族の武器『銃』っつーのは、エルフ族やポルク族だと、筋力の関係でろくに扱えねえですし、ライカン族じゃ指を器用に扱えねえですからね。
ライカン族の例外があるとすりゃ、猿人系。ドワーフ女とポルク女の2人は、しきりに僕の方へと視線を寄越す。
後ろから撃たれやしねえか心配なのか、それとも、身体特徴を探ってんのか。迷彩服や、ヘルメットを被ってっから分からねえだろうな。
僕もわざわざ自分から、旧人類だなんて名乗るつもりもねえですから。どうせ、これっきり。
もう2度と会うこともねえだろう2人だ。助けて、助けられて、それでしまい。
次なんてねえ。こうして、他の人類と接触する事自体、そもそも誉められた行動じゃねえのです。
ダキアにバレたら殴られっかも。ガチで鉄拳だからな。
拳骨っつか、鉄骨。僕の存在は秘匿。
それは、庇護を求めたエルフ族からの条件でもあり、ダキアもそれを飲んだ。むしろ、賛同してたらしい。
僕も、たぶんそれがいいと思う。
────…………共和皇国に目をつけられるくらいなら。
共和皇国……神に等しいと、信仰されるハイエルフと、人間に似せて作られたアイ族が治める国。魔法大国であり、世界で最も文明が栄えている。
……あの2人も、僕の事を旧人類に似せて製造されたアイ族だと思ってんのかも知れねえですね。旧人類の復活を目指してるって話ですから、うっかり僕の正体がバレようもんなら、共和皇国に売られちまうです。
警戒すんのはお互い様。信用無用。
ただ、利用だけしてろ。この状況を。
次回、更新予定日は2月2日。