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【⑱ 超広域殲滅魔法】

 



 超広域殲滅魔法(ユピテル・レイジング)


 その名の通り、半径1キロメートル以上を破壊する魔法。直径だと2キロメートルって事だからねこれ。

 まあ、とんでもねえ。とんでもねえ事ですよ。

 その魔法の本質は、質量による──────圧倒的な質量による破壊。異世界由来による魔力物質。

 本来は、分子レベルのそれを、肉眼で視認出来るサイズに集めて固めて。雲よりも高い高さから、標的目掛けて落下させる。

 ……まあ、とても使える様なもんじゃない。実戦では。

 バカが考えた最強魔法って、たぶん、こういうやつですよ。

 ロマンってやつ。ロマン砲。

 古代兵器に、モデルになったやつがあるらしい。なんでも、神の杖とかいう。

 思春期に刺さる名前だね。


 重量は100トン前後。


 それが、燃えたりしながら、降ってくるのだとか。なんで?

 わざわざ燃やすものなのかと、グリゼルダに訊ねてみれば、勝手に燃えるらしい。

 …………なんだっけか。ダキアの授業で習った。

 流れ星────隕石。宇宙に散らばってる惑星の欠片。

 それが、何かの拍子に、地球の近くを通ったら、地球に引っ張られて落ちてくるのだとかうんたらかんたら。で、物が擦れたら、そこに熱が生まれ、一定以上になれば、燃える……って、話だったかな。

 たしか。うろ覚え。

 ────宇宙空間には無い()()。それが、摩擦の対象になって、燃える。

 もう、なんでもありじゃん。ダキアの講義を聞きながら、そんな風に、思ってたっけ。

 とにかく。

 超級質量弾となった魔力物質は、おそらくは、空気との摩擦によって、燃えちまうのだろう。

 アイ族は例外として。

 生き物が吸って吐く空気。そんな、目に見えないものでさえ。

 擦っていくと、物質を燃やす。それが、異世界由来の物であろうとも。

 そこに、例外は、ない。


 超広域殲滅魔法ってのは、魔力物質を固めちまってはいるのですが、さすがに超かってえ物質っつーわけでもねえのです。ですから、簡単に割れる。

 砕けちまう。強度はゴミ。

 いや、さすがに発泡スチロールとか、そういうやつでもねえのですが。

 でも、被害の本質を考えるに、それこそが真骨頂。狙って、そう設計してる魔法。


 なんといっても、それ自体は、回避不可能の必中デバフなのだから。


 広範囲の魔力濃度を急上昇。


 魔力物質の塊を落とせば、そうなる。それが、地域一帯規模ともなれば。

 そりゃまあ。でけえ物になりますわな。

 当たれば、まあ、普通に。普通強度の人間なら。

 潰せはするよ。物理的にね。

 圧倒的物量で。

 圧倒的質量で。

 人を。潰す。

 地表に到達した時点で、それは、粉砕して、広範囲に散布されちまう。つまり、魔力物質の粉塵が。

 アイ族を除く、あらゆる新人類が依存した魔力。生き物にとって、水や空気のようなもの。

 しかし、適量を過ぎれば毒にしかなりやがらねえ。

 空気中の、魔力濃度というものは、20%~22%ってとこ。でも、その濃度が。

 ほんの、少し。ほんの、少しでも。

 それが、安全に活動可能な上限を上回れば。そうなれば。






▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲





「────ッ……陛下、敵襲にございます」


「で、あろうな」



 到達した質量の暴力は、急拵えのものだ。本来は、最低でも半年だとか、1年間は準備しなけりゃならねえ。

 それを、短縮で、しかも、少人数でやったもんだから、小ぶりも小ぶり。ゴブリンくらい小ぶり。

 小ぶりなゴブリン。

 畢竟、出来たのは、3.5トンくらいの塊じゃんすか。

 まあ。十分。

 人払いさえ、出来りゃね。十分よ。

 直径300メートル程度の結界。僕には、全く分からないのだけれど。

 今、ここは、とんでもなく魔力濃度ってやつが、ぶち上がっているらしい。っつーのも、魔王バールベリトが居るオークション会場が、超広域殲滅魔法の攻撃対象だったから。

 地上の建造物の破壊をメインとした魔法じゃねえから、オークション会場が壊れたわけじゃあねえ。ただ、空から雪に紛れて降ってきた物が、オークション会場の屋根で粉微塵になった。

 粉微塵になって、周囲に散布されて。ここは、新人類が近付くだけで、下手したら昏倒しかねない魔力濃度となっている。

 僕らは、悠々と正面から入場したわけ。



「…………過去が余に追い付いたか」



 オークション会場にて、ステージに立つ魔王バールベリトと、客席側に並び立つ僕ら。

 魔王バールベリトは、グリゼルダと、ルーシャの2人を見て、喉から低い音を鳴らしていた。



「亡国の亡霊め」



 云ったのは、魔王バールベリトの前で長弓を構えるメイフェム族の女。

 貴族────そして、魔王の血族。

 魔王バールベリトは、常に自身の周りを、血族で固めている。

 慎重なこった。


 長弓使いの貴族《万貫》のアルマロス。

 槍使いの貴族《暴風》のエグリゴリ。

 魔法使いの貴族《魔宴》のラファエル。

 2刀流剣士の貴族《顎》のガルガリエル。

 大剣士の貴族《肉屋》アブディエル。

 回復魔術師の貴族《泉》ミカエル。


 そして、契約の魔王バールベリト。

 奴の右肩に、黒いガス状の物が見える。



「あれが、魔王バールベリトが従えている闇の精霊……」



 グリゼルダの言葉に、僕は、息を飲む。

 何故なら、つい、今しがた魔王バールベリトの右肩の黒いガス状の存在を、闇の精霊と指摘されたが。その、魔王バールベリトの周りには、右肩の他に、4体の黒いガス状の何かが漂っていた。

 魔王バールベリトが、精霊魔術師であるという情報は、事前にグリゼルダから得てはいましたよ。ただね、5体持ちは聞いてねえ。

 聞いてねえって。うそだろ。



「くくっ。図らずとも、か」


「…………」



 奇しくも。こちらの手札と、相手の手札が重なった。

 僕らが、高い魔力濃度の中を突破出来たのは、炎の精霊ヴァロ、風の精霊ルフェ。そして、グレンケア生徒会長殿からの贈り物。

 水精の指環に宿る、水の精霊ルカ。

 3体の精霊が、周囲の魔力を食いながら、その中心部に安全地帯を作った。まさか、向こうにもそれをやられちまうとは。

 いやはや。ここにきて、新たな精霊ゲットだぜって浮かれたそばからこれだよ。

 いや、まあ、そこまで浮かれてたわけでもねえんだけどさ。ちょっと傷付く。

 今まで精霊魔術師としてのアドバンテージ。それが、完全に死んでいる。

 負けちまった。精霊魔術師として。

 ……精霊魔術師気取った覚えはないけどね。

 なんで、こんなに懐いてのか、僕自身分かってねえんだ。


 ともあれ。

 大詰め。総力戦。


 こちらのイカれたメンバーは、ハイエルフにして、僕の幼馴染み枠の許嫁。一番、旧い知り合いで、一番、長い付き合いのグリゼルダ。

 メンバーの中では、一番、魔王バールベリトと因縁が深い。エルフの里を焼いた張本人だからな。

 今回は、彼女の復讐に付き合う事にした。

 メインウェポンは、弓。

 サブウェポンが、魔法。……なんだオメェ。

 遠距離ビルド組んでんのかよ。


 で、彼女自身(グリゼルダ)の護衛を兼ねたアタッカー兼タンクのルーシャ。エルフ族のルーシャ。

 400歳くらい……はっきりとは、年齢を答えちゃくれなかったから、だから、まあ。約400歳。

 グリゼルダが、50代半ば……だっけ。過去に折り合いをつける手段が復讐になるのかな。

 復讐をしたいのか、魔王を殺す事で過去の遺恨が無くなるのか。どっちもか。


 この土地で、ちゃんと知り合った事になるのは、ヨルシカ。

 彼女の得意とする武器は、円盤投刃(チャクラム)。中距離射程の武器だね。

 このススキノを震わせた連続猟奇殺人事件を単身追っていた、狩人だ。メイフェム族特有の、攻撃魔法の適性は、超高い。

 タイマンで、人食いの化物を狩っていた手練れさん。事件の黒幕である魔王暗殺に乗ってくれたってのら、ありがてえ話。


 同じく、中距離を得意とするのは、鞭使いのティルダ。新人類が、爆発的に世界に拡散した後に、混ざって生まれた、最後の新人類。

 混血種族だ。エルフ族の様な、長く尖った耳は、ライカン族の様に毛深い。

 混血種族特有の、味覚障害であるミルメコレオ症候群には罹ってない。個人差があるからね。

 混血種族だからって、必ずしもミルメコレオ症候群とは限らねえっつー話。

 あらゆる種族の血が流れているこの種族は、あらゆる可能性を秘めている。

 魔法に特化するもよし、近接戦闘に尖るのもよし。彼女の選んだ路は、薬学と補助強化、或いは、弱体化の魔法。


 アンギル族は、旧人類が思い描いた天使そのもの。リナリエル嬢の回復魔法は、僕の戦力の中では最優秀。

 対象を単体に絞った使い方も、全体に拡げた使い方も。どちらも、今の僕らには欠かせない。

 ティルダの様に、強化バフの魔法も使えるのだけど、全体に拡げた使い方は出来ない。良し悪し、よね。

 武器は、長い杖。聖職者の人が、教会の祭典で持ってるみたいなやつ。

 あと、僕を奴隷身分から買い上げたご主人様。金持ち。


 リナリエル嬢の、剣であり、盾。リザード族のマーズ。

 正確には違うらしいのだけど、僕らの声帯では、彼女本名を発声出来ねえのだとか。でも、彼女がこちらが認識出来る音で会話しているのだから、不可能っつーわけでもなさそう。

 武器はハルバートというかハルベルトというか。槍と斧が一体となったやつ。

 銘は【遺骨喰らい】。彼女の父も先祖も遺骨はこの斧槍へっていう曰くのある武器。

 戦士であり、巫女。


 ポックル族は、たまに持ってるなって時がある。そういうのを、引き当てる種族だ。

 僕らの出会いは、そういったもので、あるのかも知れないね。あの、鉄屑の山でさ。

 ────…………ポックル族のデューベン。

 我がパーティの、切り込み隊長である。その、目にも止まらぬ機動力と、相棒の打った業物のククリナイフ【カーテシー】で踊り狂う。


 アデラインは、デューベンと長くつるむ、はぐれドワーフだ。まあ、はぐれと云えば、デューベンもはぐれポックルになるわけだけれど。

 武器は、ハンマーだったり棍棒だったり。鈍器大好き脳筋戦士であり、鍛冶職人じゃんすか。

 前衛で、敵の攻撃を一身に受けて、頑丈な肉体と生命力で耐えちゃう。

 ドワーフ族、頭おかしい。頭おかしいし、身体もおかしい。

 いつか、酒場で聞いた与太噺。ドワーフ族は、真っ正面からゴーレムとタイマンを張れるのだとか。

 やっぱりおかしいよ。イカれてる。



「貴様までそこに立つか」


「お覚悟を、学園長」



 魔王バールベリトの言葉を受けて、優雅なお辞儀を返すのは、グレンケア生徒会長殿。彼女は、深く濃い色彩のイブニングドレスを着ている。

 闘いに来てるって、分かっているだろうに。なんで、それを着てるのかを訊ねたところ「闘いに着ているのさ」とのこと。

 意味が分からねえよ。

 大富豪の娘で、実家が太い。リナリエルの商会よりも、もっとマッシブな大商会。

 商会の元締め。そういった人が、どうやら僕らに肩入れしてくれるらしいのだ。

 ありがたいね。


 ロキシーは、お留守番。今回もね。

 まあ、ロキシーもロキシーで、今、国が大変らしい。

 獣人王国ベオウルフ。そこの君主。

 ロキシー=トラバルト・ベオウルフは、兄である血族を殺し。そして、玉座を簒奪した。

 ただ、兄である前の王様。百獣の魔王レオラグナは、玉座は欲しがったが、獣人王国の内政にはさして興味がなかったらしくてさ。

 軍備強化や侵略は繰り返してたけれど、農産の類いとか。そういったもんは、ほぼ手付かずで放置。

 向いてなかったんだろうな。お兄ちゃんは。

 政治に。魔王だし。

 向いてる魔王が出てきたら、擁護のしようもなくなるけど。獣人王国っつってもさ。

 獣の肉だけで生きてけねえのよ。だから。

 果物とか。根菜だとか。

 そういうのも、食べていかなきゃなんないわけ。給油と充電で動くアイ族とは違うんだよ。

 とにかく。ロキシーは只今、自国の立て直しと、共和皇国との小競合いもあって、自国から離れられないってわけ。

 内も外も大変だからさ。


 と。


 魔王バールベリトと目が合う。



「小僧。貴様が群れの頭か」



 おやまあ。


 わかりますか。


 やりますね。



「精霊を従え、自らの魔力を巧妙に隠すか。変わったアプローチであるな」



 おや。


 まあ。


 そう解釈しますか。


 そうですか。


 ────魔法とは、飛び道具である。杖といった、補助具なしで撃てる拳銃のようなもの。

 アイ族を除く新人類が当たり前に持つ、魔力というエネルギー。多寡はあれど、持っていることが前提なのだ。



「小僧、貴様は何故、余の首を狙う?」



 おっと。


 会話だ。会話。

 会話をしなきゃね。余計な事に気付かれねえように。

 会話して、意識を僕の本質からミスディレクションしてやる。



「エルフに怨まれる心当たりはあれど、貴様のような混ざり者に首を狙われる理由が思い当たらぬ」



 魔王バールベリトは、手刀で自らの首をとんとんと叩いてみせながら、僕を、見る。

 僕の見た目は、混血種族って事で通しているからね。外見に特徴が表れやすいんだよ、新人類が。

 その中で、僕の見た目は、ライカン族の獣らしさや、エルフ族の長耳もないから。

 だから、初めて僕を見た奴は、大抵、混血種族かなって事にして納得してる。……魔王バールベリトも、そうなのだろう。

 その上で、疑っている。

 本当に、そうなのか? ってね。



「……余は、エルフの国を滅ぼした。故に、此度のように、突如として、命を狙われる事もあろう。

 いつも、護衛をつけておるよ」



 メイフェム族の魔王…………バールベリトは、エルフ族と同じく、長命種だ。見た目は、30代後半から40代くらいの、なんか色気のあるダンディーなおっさんだ。

 おっさんってか、まあ、紳士な感じ。ちょび髭オールバックの紳士。

 でも、実際の歳は、800歳なんだとか。

 つまり、800年間、魔法の数々を研究してきた変態だ。その気になった瞬間に、どんな魔法がブッ放されるか。



「見覚えのある顔触れの中に混じる異物よ。貴様は何だ?」



 あれ。

 ……あら?

 ちょっと、待って。

 ヤバい。かも。

 これ。これは。



「亡国の亡霊共よ」



 魔王バールベリトが、マントをバサッて、やった。見据えるのは、グリゼルダとルーシャ。



「亡霊が、亡霊を呼んだか」


「閣下、いったい?」



 魔王バールベリトの言葉に、疑問を浮かべる貴族達。



「くく、わからぬか」



 つか、親子……だったよな。

 たしか。魔王バールベリトの貴族達は、1部を除いて。

 それでも、身辺警護につけるのは、親族に限定しているみたい。魔王レオラグナとはまた、全然違う。



「エルフの里は、アキハバラに近しき場所であったな」


「…………」



 息を呑む。

 貴族の連中も。

 僕達も。

 握り締めた拳の内側に、汗が滲む。



「有り得る可能性ではあった。足りなかったのは、確証。

 それも今、埋められた」



 契約の魔王バールベリト=ドグラ・マグラ。


 奴の視線が、グリゼルダを射貫く。



「っ」



 筋肉の緊張を感じる。



「余が古代魔法大国エンシェンティアに進行し、滅ぼした時……その滅びた国の王家に連なる、生き延びた王家が居た。王妃である、グウィネヴィアと、その娘グリゼルダ。

 エルフの里とグウィネヴィアは始末した。あとは、貴様を殺せば、王家の血筋は絶えよう。

 秘匿されし、超高域殲滅兵器も、手に入らぬならば、消してしまうほかあるまい」



 グリゼルダは、表舞台にずっと顔を出さなかった。

 それは、僕との接触さえ、必要最低限以下で。だから、僕との繋がりを、魔王バールベリトは掴めなかったわけで。



「旧人類、貴様もついでだ」



 魔王バールベリトの視線が、僕にも向けられる。



「まさか、本当に実在していようとはな。……察するに、魔王デュラン、そして、魔王レオラグナを討ったのは貴様であろう」



 魔王バールベリトが、自身の得物。

 長い杖を抜く。8つの宝玉を埋め込まれた杖だ。

 魔王バールベリトの魔法の威力を、とんでもなく底上げしちゃう力があるのだとか。



「手懐けるより、手折る方が容易く、手早く済む」



 切り捨てた。盤面に出た、滅んだ筈の旧人類という僕に対して。

 なるほど。そこも、これまでの魔王とは一味違う。

 エンシェンティアの血筋を根絶やしにする思考ベクトルから、僕に対しても、そうなるのは、分かる。分かるよ。

 けど、ね。

 でも、ね。

 こっちも、黙って滅ぼされるつもりはねえんだ。抵抗させてもらう。

 殺意で。


 しかし、それにしても。僕は、疑問を口にする。



「共和皇国に、どの程度、僕の存在は認知されているので?」



 固執してるわけでも、執着しているわけでもなく。

 それでも、僕という旧人類の存在に、魔王バールベリトは、気付いた。魔王としては、実力はともかく。

 新参である魔王バールベリトに、どの程度の情報が、降りてきているのか。

 はたまた、魔王バールベリトは、どの程度の情報を収集するコネクションを、持っているのか。


 是非とも知りてえもんだね。



「────最古の魔王デュランが討たれた時、噂程度は流れていた。旧人類の存在というものがな。

 共和皇国は、直ちに動いた。真偽を確かめ、真実ならば、貴様の確保を」



 わりとお喋りに付き合ってくれるじゃん。さすが、1人称が余なだけはあるわ。



「派遣されのは、13騎士団……貴様もその名は、知ってはいよう」



 ああ、核ミサイルの爆発から逃げた先で、襲撃されたよ。

 奴隷都市ジェイルでも、遭遇したっけ。あそこで、3人は削ったかな。だから、あと10人。


 …………。


 ……いや、騎士団団長は、名前にある13の中には入ってないって話。ややこしい話なるのだが。



「そこまでであるな。貴様は、自身の正体に気付いた者は、引き入れるか、皆殺しだ。

 合理性のある人間は、個人的には好ましいものである」



 それはそれとして、殺しますよっつー話なんでしょうけどね。くそったれめ。



「つまりは、共和皇国もまだ、僕が実在していると確信してはいない、と」



 じゃあ、口封じしなきゃね。僕は、鉄パイプを構える。



「嘗めるなよ────旧人類」



 魔王の子供達────貴族達が、殺気立つ。おお、怖っ。

 僕が、殺すつもりで現れた事。それも、魔王だけじゃなく、貴族まで。

 その事に、貴族達も嘗められていると感じたらしい。



「滅ぼし合いっすよ。あんたらは、エルフの国も、その生き残りの里も滅ぼした。

 自分達がやる側だった時、相手を嘗めてましたか?」


「……何を云っている。エルフ共の一切は、我々にとって必要だからそうしたに過ぎん」



 その言葉に、グリゼルダは素早く矢を番えた。

 ギリギリ。

 弦が軋む音が、僕にも聴こえた。

 歯を噛み締めた音だったのかも知れない。



「同じことっすよ」


「────ぬ」



 僕の言葉に、貴族から滲ませていた怒りが淡くなった。



「共和皇国に、僕の情報は渡したくない。だから、殺す。

 滅ぼす。加害者の視点って、そんなもんっすよ」



 突然、殺しにやって来た僕らは、魔王サイドからしたら、加害者なわけで。でも、魔王バールベリトは、グリゼルダの故郷を焼き払った。

 加害者の要素を持った、被害者だ。まるで、狼の毛皮を被った、羊みたいだね。

 要するに。

 立場ってもんは、ころころ変わる。被害者は、いつまでも被害者とは限らず。

 世の中には、被害者面した加害者なんて化物も、存在するのだから。つまり、僕が云いたいのは。



「そちらがどんなに被害者面していようが、全く関係ありません。僕の都合でヴチ殺します」


「……貴様はたしか、【愚者】のクラスだったな」



 僕の殺害予告に、貴族は少し間を置く。



「エルフの姫はマークしてはいたが、よもや、【愚者】のクラスに旧人類が紛れていようとはな……いや、その足取りは掴ませなかった時点で、エルフの姫の『勝ち』という事か」



 貴族の男は、武器を構えた。鋏を分解した様な片刃の剣。二刀流。



「契約の魔王バールベリトが長子。貴族、《顎》のガルガリエル=ドグラ・マグラだ」



 名乗られちゃった。仕方ないなあ。

 僕は、鉄パイプを肩に担ぐ。



「冒険者クラン【チャンプル】所属、ハラバ=ジャニ・ジャン・ジャック────旧人類ってやつです」


「そうか。よろしく」



 不覚にも。好ましいとさえ。

 僕は、向いていない。こういうところが、とことん。

 闘争ってやつにね。向いていないんだ。



「ふむ。役者であるな。

 よかろう。舞台へと上がるがいい」



 オークションのステージには、魔王と貴族。

 10対7。

 戦力としては、どうかな。色々と、準備はしてきたつもりだ。

 招く魔王バールベリトの言葉を開戦の号砲として。或いは、放たれたグリゼルダの矢がそうであったのか。

 はたまた、魔王バールベリトとヨルシカの魔法の撃ち合いがそうなのか。

 階段を駆け降り。肩に担いだ鉄パイプを、貴族ガルガリエルの脇腹へ。



「面白い剣を使う」



 だが。

 阻むは、片刃の剣。僕の鉄パイプは、貴族ガルガリエルの剣によって、片手で止められた。

 僕は両手持ちだったのたのに。

 全く、新人類ってやつは、さ。やめて欲しいよね。

 素面で僕より身体能力高いんだもんなあ。



「棍棒……か? 原始的だな。

 だが、針が巻き付けてあるのか? ……まさか、相手の武器にわざわざダメージを与える為に、そんな小細工を?」



 有刺鉄線が巻かれた鉄パイプを、間近で観察し、貴族ガルガリエルが、息を漏らす。



「拷問に使えそうだな」



 もう片方の剣が、僕に牙を剥く。

 横薙ぎに迫る刃を蹴り上げ、止められた鉄パイプに掛かる力のテンションとベクトルに緩急をつけて、力を逸らし、逃がし。いなして、捌いたところで、もういっちょ。

 後ろ回し蹴り。



「器用なものだ。滅んだとはいえ、文明を築いた種の末裔よ」


「そりゃ理屈で云えばお互い様でしょうよ」



 僕の後ろ回し蹴りを、貴族ガルガリエルもまた、脚で応じて止める。崩すのが十分じゃなかったか。

 いや、あれ以上は、体勢を崩せなかった。手強い。

 手強い、ねえ。

 世の中、僕の上位互換ばかりだよ。

 ともあれ、まだ、開戦の号砲が終わったばかり。



「盛り上がっていきましょう」


「ふんッ。興醒めさせてくれるなよ」



 視界の端で、閃光が走る。

 ヨルシカか、グリゼルダか。



「来るがいい。地を這う亡者よ」



 ヨルシカ、グリゼルダ、ルーシャとグレンケア生徒会長殿の3人には、魔王バールベリトの相手を頼んでます。アデラインとデューベンのコンビとティルダには、《万貫》のアルマロス、《泉》のミカエル、《魔宴》のラファエルの3人に動きがあった時の牽制を。


 僕の相手は、《顎》と《暴風》と《肉屋》。近接組だね。

 この3人を、マーズとリナリエル嬢とで、やる。魔王を含めて、これだけの数の貴族を相手にするのは、初めてっすよ。



「くひゃっ」



 《肉屋》こと、貴族アブディエル。

 武器だけなら、ファヌエルがブン回してた大鉈と同じに見える。


 が、剣だ。

 あれは、剣の形をしている。


 《肉屋》と呼ばれているくせに、剣士らしい武器だこと。



「くひゃひゃ」



 技術も何もあったもんじゃない、力任せの一撃。叩き割られるオークション会場のステージ。

 これだ。

 これだよ。これなんだ。

 近接組のくせに、攻撃範囲が広すぎる。巻き込まれたら、肉片だよ、こんなの。



「くひゃあああッ」


「アブ! 貴様、もっと慎ましく戦えないのか?」



 アブディエルの一撃に巻き込まれまいと、ガルガリエルと一緒に退避しちゃったよ。

 やれやれ。

 《顎》だけでも、なかなかのリソースを持っていかれるっつーのに、《肉屋》も《暴風》もいやがる。

 きっつい。

 きっついわあ。



「ほぉ。手練れだな」


「■■■■■ッ■■」



 砕け散った木材が集まり、巨大な腕になるや、《暴風》のエグリゴリを壁に叩き付けた。

 リザード族独自の魔法体系。


 触媒魔法じゃんすか。


 今、彼女が祈りを捧げたのは、木の枝で作った人形。

 触媒に込められた魔力を燃やし、精霊魔術に匹敵する奇跡を顕現させるのだ。魔力が切れたら、触媒は壊れるから、使い切りの消耗品になるのだけどね。



「────なるほど」



 唇の端から、血を垂らし。エグリゴリが、槍を杖にして、立ち上がる。



「なるほどなるほど」



 立ち上がったエグリゴリの脳天に、追撃に迫ったマーズの斧槍が振り下ろされる。エグリゴリはそれを、片手で受け止めた。



「よき武人である。ああ、実に」



 エグリゴリの繰り出した突きを、マーズの尻尾が弾く。



「素晴らしい」



 僕には真似できねえな。物理的にね。



「余所見とは余裕じゃないか」



 ガルガリエルが、剣を振った。

 鉄パイプで受け太刀。刀じゃこうはいかないねえ。

 刃こぼれしちゃうもんね。それか、折れちゃう。

 まともに刃で受け止めるようなコンセプトの武器じゃないからさ。刀ってのは。

 だから、僕はこの、鉄パイプってのが、好きだ。汎用性が高いから。

 武器としては勿論、ガードにも使える。最高。



「く、ひゃ」



 おっと。


 アブディエルが突っ込んできた。全身で。

 突きというか、突進。



「……!」



 僕から見て、アブディエルは大剣を突き出し、縦にはせず横にしている。寝かせてるっつーのかな。



「はいっ!」



 僕は。前方へ跳ぶと。

 突き出され寝かされた大剣の腹に着地。しかし、足場は移動式なわけで。

 僕は、アブディエルが生み出す慣性に付き合い、ころりん。転がって転がって。

 やり過ごす。


 やり過ごしてステージの床に着地。

 はあ。地面が恋しかったぜ。



「血だらけでしてよ」



 リナリエル嬢の言葉と共に、擦過傷が癒されていく。ハイスピードで岩の上を転がった感覚だったからね。

 学園の制服がぼろぼろ。質のいい防具だったんだけどな。



「ふゥん? ……旧人類である貴様に死なれては困る、と」



 ガルガリエルが、傷の癒えた僕と、リナリエル嬢を見比べる。



「そうかそうか、貴様らは、そういうコミュニティか」



 理解した。

 理解、された。



「陛下ッ」


「許可する」



 瞬時に動く状況。

 ガルガリエルの何かの申し出に、バールベリトが何かの許可を下す。同時に、バールベリトの闇の精霊が四方に散って、他の貴族達も頷く。



「────【錆びつく太陽】」



 これ、は。

 マジか。



「【腐り果てて】」



 呪文詠唱。



「【坩堝の頤】」



 闇属性最上位の破壊力を誇る魔法、【腐敗せる太陽(コープス・ラフレシア)】の呪文詠唱。



「【鳴らせ鳴らせ】」



 しかも、完全詠唱でブッ放つ気じゃんすか。まずい。

 何よりまずいのは、この詠唱が貴族全員でリレーしながら紡いでるという。これじゃあ、詠唱元を狙えないパス回しだよ。

 アリかよそんなの。全員で1つの詠唱を共有してるなんて。

 ……これ、まさか。僕は、魔法にはそこまで詳しくはないけど。

 視界の端で、闇の精霊が、踊っていた。ああ、そう。

 そういう。

 擬似精霊魔術といったところか。魔法を、術者と精霊に経由させて組み立てながら回していって……ああ。

 翻弄されて、僕達は空振り三振。



「「「「「「────【腐敗せる太陽】」」」」」」



 あ。


 やば。


 黒い。


 黒い黒い。


 黒が、僕達を塗り潰した。

 


 

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