【⑤ スクラップ山脈】
急ぐ必要がある。あんまり、時間は掛けられねえ。
だからこそ、スクラップ山脈を選んだ訳だけど。
「うーわ、めっちゃ湧いてるじゃんすかー」
スクラップ山脈…………アキハバラの町で出た廃材を、投棄し続けた結果、生まれちまったダンジョンです。そこまで危険なダンジョンじゃないけれど、モンスターはいる。
それが、今、僕の目の前で群れている奴ら。アイ族の暴走個体やら、ドローン。
あと、戦車。馬鹿か。
相手に出来る訳がねえでしょうが。そこまで危険じゃねえとか、寝言ほざいてんじゃねえぞボケェ。
頭かち割んぞ。という事で、スニーキングです。
殲滅させてもいいのですが、今回は、戦闘を目的としてねえですからね。スクラップ山脈は、棄てられた廃材が積み重なり、それは時に、身を隠すのに役立つ。
戦車が走る大通りを避けて、僕は小路へ。鉄錆びとカビの臭いが鼻腔をつく。
あとは、ドラム缶から漏れ出たオイルがぬるぬると、通路を濡らしてた。走れねえなこりゃ。
暴走個体に追われてたら詰んでた。詰みポイント多いよね、人生。
ああ、くそ。鼻が曲がりそうだ。
くせぇ。ガスマスク持ってくりゃよかったよ。
道を曲がり、先を急ぐ。
段差を登り、上へ上へ。時にダクトの上を通り、邪魔なドローンをテーザーガンで排除。
体感で5~6メートル下の眼下では、我関せずといった様子で、暴走個体らしきアイ族が、どこからか廃材を持ってきて、奥へと消えて行った。暴走個体の中には、意味不明、理解不能な行動を繰り返す個体もいる。
ああいう、暴走個体が、このダンジョンの地形を複雑化させてんのかも知れませんね。入口に溜まった廃材を、ダンジョンの奥へ運び積み上げて。
昔の人類も、権力者の墓を作る時にこんな感じだったのかな、と、適当に考える。まあ、こういう遊び場があったから、幼少期から、身体の動かし方を学ぶ事に事欠かなかった。
お陰で、立体的な運動はお手の物。ロッククライミングの要領で、僕は凹凸だらけの壁を登る。
ロッククライミングやった事ねえですけど。
「…………!」
「!! ッ!」
────? 人の声?
上の方から、誰かの叫び声がする。壁から突き出す鉄パイプを握る手に、震動を感じた。
誰かが戦ってんのか。この上で。
「………………」
うーむ。どーすっかねぇ。
明らかなトラブルじゃんすか。目に見えてる地雷なら、避けるのが定石。
…………なんだけどな。いや、これ、マジにどーしたもんか。
一応、何が起きてんのか、目視確認くらいはしておくか。そのくらいは、やった方がいいのかねぇ。
僕は、弾みを付けて迂回していく。このまま、まっすぐ進むと、やり合ってる場所に出会しちまいますから。
「……ちっ」
戦闘音が聴こえてくる方向が、どうにも、目的の場所に近い。僕は舌打ちを隠せなかった。
目的地の手前には、十分に戦闘が出来る拓けた場所があるんだ。おそらくは、そこで何者かが戦っている。
僕はスクラップ山脈の空中庭園を目指していた。下層部分は、不衛生な場所だけど、上へ登ると植物が自生してるんよね。
空中庭園ってエリアは、中層部分を抜けた先にある。花畑…………そこが目的地。
風に運ばれた土と種。あとたまに、雨が降るので、それで芽吹いた。
らしい。らしいって話。
アイ族の連中に訊いても、あいつらそういうのに、興味ねえのよね。だから、空中庭園の詳しい成り立ちとか、なんも聞けねえのですよ。
困ったもんです。アイ族の奴等にも。
いい奴等だけどね。アイ族。
僕の事を大事にしてくれた。してくれたのだと思う。
尤も、僕がアイ族の創造主にそっくりだからかも知れねえですけどね。旧人類を求めてんのかもです。
「……心なんてわかんねえ、よな」
わからねえ。目に見えねえから。
目に見えてるもんを、全部分かったつもりになるのもよくねえ。哲学だわ。
やっべ。今、超哲学してる。
哲学者とか超頭よさそう。賢い。
「────くそっ! こんな低ランクのダンジョンに、なんでこんな危険な暴走個体が、群れをなしておるんじゃ!」
「とにかく逃げるよっ! この数は、今のあたしらじゃ敵わない」
おっと。浸ってると、声がよく聴こえる距離まで近付いたか。
壁を一気に登りきる。続けて貯水タンクの上へ。
眼下には、瓦礫を踏みならした様な広いスペース。そこで、暴走個体の群れに囲まれた、2人組の冒険者と思わしき…………。
「────女!?」
次回、更新予定日は1月4日。