【④ アキハバラの町 Ⅱ 】
『ツギハ、ナニカ、カッテイケ』
「欲しい物があればね」
四本脚の店主は、そう云って、僕から興味をなくした。金を落とさねえ奴は客じゃねえみたいなスタンスは、ビジネスライク上等な僕にとっては、とても好感が持てる。
次も冷やかしてやろう。
『…………マッタク、カネノネェ、タンパクシツガ……シネ、ゴミノゴトク』
聞こえてんだよ鉄クズ。お前、覚えとけよ。
今から24時間、好きな奴を殺してきていいよみてえなデスゲームが始まったら、戦略とか関係なく、てめえを真っ先に殺してやっからな。丁寧に分解した後に溶鉱炉に廃棄してやっからな。
パーツ1個ずつ廃棄してやっからな?
マジで覚えてろよ。
「…………」
と、そこまで考えたところで、僕は足を止める。
「ちょっと待って」
四本脚の雑貨屋は、僕に振り返った。
『ナンダ、ヤッパリ、ナニカ、カッテイクカ?』
僕は、店主の言葉に頷く。女の子にこれから会うのに、手ぶらじゃまずい。
こないだは、それでえらい目に遭ったんだ。
「1輪でいいから、何か花を売ってくれ」
僕は、口の悪い店主に告げる。
『ウチニハ、オイテナイ、ネェ』
マジで使えねえな、この鉄クズ野郎。
▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
グリゼルダ。
グリゼルダ=アウグスタ・レラ・エリクセン。
僕の婚約者。自称。
非公式。彼女は、エルフ族の51歳。
僕の倍以上の長さの耳よりも、何よりその美貌に目がいく。
身長177㎝と、僕より10㎝もたけぇ。むかつく。
僕の身長は、旧人類の日本人という人種では、年相応ってダキアが云ってたな。…………あれ、慰めてくれてたのかも知れねえ。
今にして思えば。エルフ族は、長身の種族だから、負けてるのもしゃーない。
くそったれが!
彼女は、金髪の三つ編みで弓と魔法を得意としてやがるのです。魔法ですよ魔法。
旧人類やアイ族には使えねえ力。それが魔法。
くそったれが!
腕力では勝てるけど、視力と聴力は、あいつの圧勝だ。エルフ族が、そういう種族だから、旧人類が勝てるわけねえです。
グリゼルダは、そのエルフ族の中でも、特に優れた個体として生まれたのだとか。ハイエルフというらしいね。
エルフ族自体が、あんまり数いねえし、繁殖力もあんまりねえのだから、同族同士で結ばれるべきと思うのですがね。あいつ、納得しないんすよねぇ。
かたくなー。せっかく、ハイエルフとして生まれたのにね。
エルフ族の場合、子供が出来るのも超低確率って話よ。ハイエルフは、さらにそこから超確率。
…………ま、でも、エルフってのは、怪我とか病気じゃなけりゃ当たり前に300年以上とか生きる長命種。あんまり増えたら、地上はエルフ族で飽和するわ。
種族として、単体の質はすげえ高いんだ。数が少ない分な。
ポックル族並の身のこなしと、全種族中、トップクラスの魔力を誇りやがります。
グリゼルダはなぁ。美人だけどプライドたけぇ。
胸はねーのにさ。本人も「あっても弓の邪魔」やゆーてたしな。
僕が「持たざる者の負け惜しみじゃんすか」っつったら、「この話は、誰も幸せにならないから今すぐやめよう」つってね。無表情だったよ。
怖かった。怖かったんだ。
胸はねえけど、目に見えてる地雷やん。
なんにせよ、エルフ国のお姫様なんよ。
ガチお姫。女王が生んだ、ハイブリッドなハイエルフ。
ハイブリッドの使い方あってる?
つっても、滅んだ国だけどね。お姫様っつーのは。
亡国の美姫。
それなりに数いるエルフ族の、カースト上位の氏族に攻め滅ぼされたって話。貴族社会だからな。
エルフ国の中じゃ、小国だし。小国ばっかりよ。
世の中。
ゴブリン嫌いでプライドたけぇエルフ族の中でも、お姫様のプライドの高さは他を遥かに凌駕する。腕力では勝てるものの、あいつ、別に非力じゃねえんだよな。
弓引けるから。だから、変に怒らせると肩にパンチされる。
アホみたいな馬鹿力で。情緒が、もう、ね。
からかうのも冗談抜きで命を賭す覚悟よ。……命懸けでいじる意味について考えたら誰も幸せになれねえですがね。
そんな訳でして、ご機嫌伺いは、割りと重要だったりするのです。今回の場合は、お花でもどうかなって。
いや、だってさ。僕はそういう引き出しが乏しいのよ。
仕方ねえじゃんすか。不純異性交遊とかしたことねえし。
女の子なんて身近にいなかったんや。データがないのよ。
ハラバコンピューターには。その類いのデータが、入ってねえの。
だから、思い付くのもそんなん。……が、困った事に、この町のガラクタ共は、花を愛でねえときたもんだ。
みんなの事は愛してるけどさ!
なんでこういう時に助けてくんねえかなぁ。
仕方ねえ。行くか。
今、帰ってきたばっかだけど。近場のダンジョンでたまに花が採集出来るところ。
アキハバラの外れ。
【スクラップ山脈】のダンジョンに!
次回、更新予定日は元旦。