【① ハラバ=ジャニ・ジャン・ジャック】
今日も空は、むかつくほど土砂降りの雨を吐瀉物みてえに吐き出してやがります。なんだかすっげえハッピーだぜ!
「…………イエア!! ハッピー!!」
と、まあ、とりあえず取り乱してみたけれど、事態はなにも好転しねえのです。そりゃそうだって話。
僕の叫び声はむなしく、目の前の雨音に呑み込まれた。
云うて実際、取り乱してる訳でじゃねえですしね。でも、まあ、世界ざけんなよ、死ね!
……くらいは思ってる。滅べばいいのに。
「…………」
滅んでんすけどね。世界。
文明崩壊した世界ですよ。なんなんすかね。
もっかい滅べ。ぶっ壊れろやがれ。
【ゴブリン王国】のモンスターが、最近、活性化してやがります。おかげで満足に探索もできねえ始末なんすよね。
スクラップ、ジャンク品。そういうのが欲しいところなんすけどね。
「…………」
僕は、半壊した雑居ビルの三階から、眼下を睨む。
「おうおう……まーだ探してやがりますよ」
オークじゃなくてよかった。あいつらすぐにワーグを引っ張り出しやがりますからなぁ。
僕の迷彩服は、廃墟の中じゃむしろ目立ちかねない。……じゃあなんでんなもん着てんだよっつー話だけども。
────ゴブリンの話をしよう。今は。
背の低い醜悪な小鬼。ゴブリンは、数が多い。
うんざりする。5匹のゴブリンが、さっきから僕を追い回してる。
反響した僕の声に反応してやがりますが、探敵能力は低い。
幸い、群れはするけど、力や耐久力は4歳児の子供並なんだとか。……そもそも僕自身が小さな子供と触れ合う機会がなかったのだから、4歳の子供の力がどんなものか、あまりピンとこねえです。
知能は2歳児くらい。肉が大好きで、獲物にかける情なんて、これっぽっちも持ち合わせちゃいねえのです。
人類と同じ、二足歩行なのに。外見は大して似てなくたって、シルエットは近いじゃんすか。
なんでそんなに人類に残酷になれるんだってくらいに、こいつらは残虐です。こっわ。
たまに、ゴブリンの縄張りで見掛ける他種族の死体は、奴等が食い荒らし、食べ残しで遊んだ後がしっかり残ってます。無邪気なこって。
ダキアに聞いた事がある。昔の人間達も、十分、残酷と云える所業をしていたのだとか。
人間同士で殺しあっていたらしい。それも時に、ゴブリンみてえに死体で遊ぶ事もあったんだとか。
こわ。
でも、そんな人間も滅んだ。現れた人間の天敵に対して、種族一丸となって抵抗した末に国も文明も命も失って。
今じゃ、人間擬きの亜人種ばかり。
僕を除いて。
僕が例外。
僕だけが。
────僕は、愛用のアサルトライフルを構えて狙い澄ます。距離は10メートルくらいか。
養父ダキアのハンドメイド。
【メガロシャーク】だ。
アタッチメントの付け替えで様々な戦い方を可能とした優れ物。7.62㎜の弾丸が、銃口から飛び出す。
弾に感情は無い。情けも容赦も。
ただ、殺す。銃弾ってのは、そういうもんだ。
引き金を引くだけで、目の前の命を殺傷してしまう旧文明の武器。一気に3発吐き出された訳なのだけれども、ゴブリンはモンスターの中でも耐久力がゴミなのでオーバーキル気味なんすよ。
死体が見るも無惨にびっしゃびしゃ。
周囲のゴブリンも、突然の狙撃に驚く。驚くのはいいけど、ギャーギャー叫んで棒立ちじゃんすか。
そりゃ撃つよ。的じゃんね。
そんなん。
2匹目を仕留めたところで、やっと警戒しながら僕の姿を探し始めた。特別、頭が悪いゴブリンなのかな。
何の為に、グループで行動してたんだ。僕は手榴弾のピンを外して群れに投げ込む。
次の狙撃で逃げ出すタイミングだろうからね。投げ込まれた手榴弾に、むしろ興味津々で近付き、残りのゴブリンは鉄の礫を浴びてくたばった。
「雑魚が」
云ってみたものの、無駄弾使っちゃったよ。最初から手榴弾使えばよかった。
どうせ手榴弾使うんならね。……ナイフで接近戦するよりかはマシだけど。
でも、銃の弾って人里じゃまず手に入らないからなあ。貴重品っちゃ貴重品。
僕は、バックパックを背負う。今日の戦利品だ。
わざわざゴブリンに追われて、ゴブリンと戦って、それでやっと得られた戦果。早くダキアに持って帰ろう。
またゴブリンに見付かる前に。
僕はハラバ。
全人類の中で唯一の旧世代。人類の文明が滅んだこの世界で、今日も生きてる。
雨空を見上げると、かつて東京と呼ばれていた都市の空を、ワイバーンが飛んでいた。
次回、更新予定日はクリスマス。