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【④ 青き血統、血に染む】

 【鋼鉄の魔王】デュラン=デュランは、魔王達の中でも最多の貴族を抱えている。その数は、5名。

 執行制裁のジュストと、血狂いのガルム。

 そして、鉄塊のギリアムに、ハイオークのゼベア&グアン。



 執行制裁のジュストは、所謂、ハーフエルフだ。だが、ハーフエルフってのは、この世界において、あまり肯定された存在じゃない。

 そもそも、他の種族同士じゃなかなか混血児ってのは生まれない。新人類最後の種族、混血種族のコミュニティに入る事なく、かと云って、純血のコミュニティからは弾かれる。

 エルフ族からしたら、半端者は純血に比べて魔力が低い弱者として扱われ、ライカン族の中じゃもっと露骨に弱者として扱われるものらしい。根本的な考え方からして、血が混ざれば、種族としての純度が落ちた分、弱くなるって概念でもあるんだろうね。



 血狂いのガルムは、混血種族。


 混血種族特有の病、ミルメコレオ症候群を持つ。所謂、味覚障害だ。

 何を食っても砂や埃でも口に含んだ様な感覚なんだとか。改善方法は幾つかあるけど、彼の場合が他者の血液がそうらしい。

 『味』がするし、美味と感じるみてぇです。執行制裁のジュストとは、貴族同士で仲が悪い。

 ハーフエルフの執行制裁のジュストが、混血のガルムを見下すって構図が、弱者が更なる弱者を虐げるって感じで、社会の構図というか、縮図というべきか。たまに見る旧人類の文献から鑑みるに、もう一種の本能というか、醜い呪い。



 鉄塊のギリアムは、自らに改造に改造を重ね、その身体にオリジナルのパーツが何一つ無い。主に、軍艦島の前に配備され、外から攻め込まれるのを防衛するのが役割。

 門番だ門番。大量じゃなければ、囚人を軍艦島に受け入れ、採掘の労働力にしてる。

 たぶん、強さで云えば、鋼鉄の魔王デュラン=デュラン、最強の配下。ある意味で、唯一の純血とも云えるか。



 2人組の貴族ゼベア&グアン。こいつらはきっと強敵だろう。

 他の貴族に比べると、グアン単体の戦闘能力は1枚劣るって噂。

 が、2人が揃うとかなり厄介な奴等らしい。2足歩行型モンスター、オーク。

 多くの人類を食らい、そして、人類との間に生まれた存在。旧人類を上回る体格と筋力を持つオークの特性をそのままに、人間に近い知能と言語を持って生まれてきたっつーのがハイオークだ。


 ハイオークの誕生は、旧人類の敗北を更に加速させるものになったそうです。肉食の野性動物が、人間の狡猾さを手に入れたってのは、結構な脅威らしくてですね。

 オークってのが、そもそも2種類いて、豚型のオークは筋力が強く、大型の武器を振り回し、耐久力も高い。猪型のオークは手先が器用で槍を振るえば技巧派、離れた敵にはボウガン等の飛び道具なんかで対処。

 豚型ハイオークのゼベアは、打たれ強く、一撃が重い戦士だ。生来のタフネスに加えてガチガチに防具で身を固め、トロル並に頑丈でミノタウロス並の怪力で2メートルもの破城槌で大手門を単独でぶち抜いたって武勇伝があるくらい。

 オークより強いけど、知能はオークよりやや賢いくらいって陰口叩かれてる貴族だ。


 グアンは猪型のハイオーク。エルフの血が濃いのか、高い魔力を持つ。

 バフ、デバフ、回復でゼベアを強化、こちらを弱体化させてくる事が予想される。正直、ゼベアだけなら今の我々でも勝てそうな気がするけれど、そこにグアンが加わるとかなり厄介でしかねえっすわ。

 ちくちく削っても回復されちまうんじゃなあ。しかも、弱体化かけられて、そこに強化乗った一撃が入ると一撃死も十分ありえる。



 魔王の中じゃ、貴族を従えない魔王だっているのに、よりにもよって一番最初にぶち当たる魔王が、一番多くの貴族を従えてるのきついな。しかも、賞金なんか懸けやがって。

 すんげえ迷惑。

 ギルドも貴族に好きにさせてんじゃないよ。事なかれ主義が、美徳だとでも思ってんのかね。

 僕は何も悪事は働いてねえのに。

 少なくとも、冒険者ギルドから賞金を懸けられる様な、盗賊行為みたいな事はやっちゃいねえんです。…………ま、だからって世界が僕の味方にゃなんねえですよね。

 分かってまーす。僕はただ1人、旧人類としてこの世に生まれ落ちてきましたが、だからって、世界が僕の為にあるわけじゃない。


 むしろ、旧人類ってのは、戦闘面に関しちゃデメリットでしかねーのです。この世界に、当たり前の様にある技術、魔法が僕には使えない。

 縛りですよこんなん。縛りプレイ。



「……ま、だからこそ、付け入る隙がそこにやっと生まれてくるわけなんですがね」



 今、出島の街は混乱している。旧人類を捕まえろって連中は大勢いるけれど、連中は『誰』が『そう』なのかを知らねえんです。


 伝説上の存在っすからね。そう、新人類なんて、旧人類の姿を知らないのがほとんどなんだ。


 昔はそんなのがいたらしい。酒の席でせいぜいその程度の話が出るくらいでしょ。

 僕が男か女なのか、それどころか、子供か老人なのかどうなのかすらも分かってない。ミイラや映像記録媒体やらホルマリン漬けから情報が得られる事だってあるけれど。

 それでも、こういった時に出回る情報が正しいとは限りませんよね。



「ただいまー」


「戻りましたわ」



 部屋のドアを開けてグリゼルダとデューベンの2人が入ってくる。

 少しお疲れの様子ですね。



「街の様子はどうでしたか?」



 この部屋の窓からでも、外の様子は窺えるけれども、生の声っつーの聞いときたいじゃんすか。



「冒険者ギルドの貼り紙には、どんどん新しい情報が書き込まれてるね」



 僕はにやりと唇の端を吊り上げた。思った通り。

 やったぜ。こんな状況じゃ、いともたやすくデマが流布していく。

 テーブルに並ぶ2枚の賞金首手配書の貼り紙。1枚は、最初にデューベンが冒険者ギルドの酒場で見付けて持ってきた物。

 そして、もう1枚は、今、街中に出回っている手配書の一つだ。1枚目に書き込まれていたのは、未確認、未登録の亜人種で年齢、性別ともに不詳といった、ほぼノーヒントみてえな紙切れ。

 もう、ゴミといっても差し支えねえでしょ。

 2枚目にゃ、似顔絵が描かれていた。頭が6つある海洋生物らしき化物が、触手を振り回して竜巻を起こしているんだけど。

 もう人間ですらねえじゃんすか。

 知ってるよこれ。イジメって云うんでしょ?

 僕の心が弱ってたら泣いてたねきっと。

 罪深い奴等だ。ひでえことしやがる。


 こんだけ情報が錯綜してんだ。旧人類の姿を知ってる奴等がいても、この大混乱で僕を見つけ出すのは、かなり厳しいんじゃなかろうか。



「よし、今ならこの街から出ていけそうですね。出島の大手門は検問が敷かれてますから、足を用意すれば強行突破も」


「それは駄目」



 出島脱出に乗り気だった僕の言葉を、グリゼルダが遮りました。



「大手門の検問には、ゼベア&グアンとガルムまでいたのを、確認してる」


「そりゃ、まあ、なんとも」



 デューベンの言葉に、僕は項垂れました。

 本気じゃん。ガチで僕を逃がさないつもりか。



「ま、ガルムの方は、行った時はたまたまそこに居合わせてただけで、普段は地下シェルターの正面玄関口が持ち場だ」


「……うーん」



 腕を組むと、僕は考える。



「貴族は僕の顔を知ってそうですね」



 この街に入る時は、顔を隠していてもごまかしはきいたけれども。比較的、ヒエラルキーの低い混血種族で身分を通せば、これまではそんなに詮索される事はなかったんですよ。


 ただ、僕の存在がバレた。どうやってだ?

 何か、手段があった筈でしょ。

 僕の存在を知る為の。



「5人のうちの、3人が大手門に集中してる以上、大手門を正面突破は無理。何か別の手段を考えよ」



 テーブルに、デューベンとグリゼルダも着くと、買ってきた食糧や傷薬を並べていく。



「用水路はどう? 下水に浸かる事も視野に入れなきゃならなくなるルートになりそうだけど」


「うええ……」



 グリゼルダが心底嫌そうな顔になる。エルフのお姫様だもんな。

 発案者のデューベンも「あたしだって嫌だよ?」とすぐに言葉を続けた。ま、そりゃそうだわ。

 嫌だよね、下水道なんてさ。



「でも、じゃあどうすんの?」



 さて、困ったね。

 今はこの場に居ないアデラインやダキアが居たら、また、何か別の案が出てくるのかも知れない。特にダキア。


 ダキア、ねえ。アイ族のダキア。

 この地の魔王デュランも、アイ族だ。魔王デュランは、どうやって僕の存在を知ったんだ?

 話し合いはデューベンとグリゼルダに任せて、考えを再びそこへ持っていく。


 ダキアが僕の存在を、魔王デュランに売った可能性。億に1つはあり得るか。

 でも、それはねえだろ。ここまで僕を育てておいてさ。

 そりゃねえよ。赤ん坊の段階でやんだろ。

 やるなら。つか、疑いたくねえのが本音。


 僕が派手に動いたのは、アデラインとデューベンを助けた時。それまでは、気紛れに困ってる旅人に手を貸す事もあったけれど、あまり深入りはしてこなかった。

 遠くから声をかけて、必要な物資を投げ渡すくらい。こっちが関わりたくない意思を示せば、多くの場合、向こうだって踏み込まない様に気を付ける。

 それでも踏み込んでくる輩は、だいたいは野党の部類。そんな奴等を相手に、警告し、それでも退かない相手は撃ち殺した。

 アイ族の重火器は、アイ族の機体に合わせて作られている。銃ってものを人間が使うって意識がないこの世界じゃ初見殺しじゃんすか。

 でも、仕留め損ねた賊が中には居たのかも知れない。そいつらか?

 魔王に情報を流したのは。



「うーむ」



 後ろへと仰け反ると、ぎし、と……木製の椅子の背もたれが軋む。



「ハラバ、話聞いてる?」



 おっと。

 デューベンに睨まれちゃったね。実際、話なんて聞いちゃいなかったから。



「おう、聞いてる聞いてる」



 だから、堂々と嘘をついたわけだけど、すぐにデューベンは「嘘をつくな」と看破した。



「集中してよ」


「ごめんて」



 溜め息をつくグリゼルダに、僕は頭を下げた。



「何か考え事でも?」


「ああ、うん」



 グリゼルダの指摘に、僕は少し歯切れが悪くなる。



「魔王デュランは、どうやって僕の事を知ったんだろうってさ」



 まあ、グリゼルダは肩を持つだろうけれど、デューベンはダキアを疑うかな。

 付き合い浅いもん。



「あぁ、そういうの」



 グリゼルダとデューベンが、顔を見合わせる。なんだ?

 女子特有の結託した空気に、僕は居心地を悪くしてしまう。



「外を出歩いている間、2人でその事について話をしてみたんだけどね」



 なんと。そういうの話すんだ。

 女子って。ふーん。



「魔王デュランは、マキナガルドを目が届く範囲で監視してたんじゃないかな」



 そりゃまあ、やんでしょ。魔王デュランに限らず。

 自分の領地と対立してる国ですもん。



「他の魔王も、同様に何かしらの方法で監視してるんでしょうけどね」



 でしょうなあ。



「ほら、魔王デュランはアイ族でしょ?」



 割り込むデューベンの言葉に、僕は頷く。とは云っても、魔王デュランがアイ族なのも、人伝に聞いた話ってだけ。

 まあ、魔王の存在自体、古くからあるもの。僕の情報が漏れた様に、噂程度に情報が漏れる事はあんだろ。



「アキハバラの町には、ドローンがよく飛んでいたんでしょ? あとはスクラップ山脈にも」



 云われてみれば。うん、たしかに。



「それじゃない?」



 それ? ……それって?

 それって何よ。僕の表情から、察しの悪さを察したのか、グリゼルダが眉をハの字にした。



「だから、ドローンのカメラの映像から、あなたの存在を知ったんじゃないかな」


「………………!」



 マジか。おお。

 ……おぉ。マジで。


 そんなん出来んの? って思わなくもないけど、マザー=グースは、ほとんどのアイ族をハッキングする事が可能とかなんとか聞いた事がある。

 情報を吸うくらいなら、出来なくもねえのかも。



「はい、疑問が解けたのなら、議題に戻るよ」



 ぱんっと、デューベンが掌同士をぶつけた。



「あたし達が出島から脱出するにあたって、最低でも1人は貴族を相手にしなきゃならないみたいなんだけど」


「あ、それなら僕に考えがある」



 やめろ。詐欺師を見る様な目で僕を見るんじゃあない。

 信用ないなあ。



「考えたんだけどさ」



 僕は、テーブルに1つ弾丸を立てる。



「地下シェルターが一番現実的だよ」


「地下シェルター?」



 僕の言葉を反芻したグリゼルダに頷く。



「でも地下シェルターは……」


「うん、居るだろうね」



 ハーフエルフ貴族、執行制裁のジュスト。



「……本気?」



 デューベンの僕の心の奥底まで探る様な目。



「本気だとも」



 僕は答える。



「執行制裁のジュストを地に叩き臥せてやろう」

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