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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

地球が舞台の話1

洗脳殺人

作者: ひつじかい

 その男は、突然家にやって来て、高琉(たける)の家庭を壊した。



 男が何を要求しても、言いなりになる両親。

 姉や高琉が逆らうと、暴力を振るう男。

 ある時は、高琉達本人に。またある時は、家族の誰かに。


 男が家族の誰かを人質に取るので、逃げる事も助けを呼ぶ事も出来ない。


 やがて、高琉も姉も両親のように怯えて従順になった。




 と、男には見えていたが、高琉は違った。

 彼女の中にあるのは、激しい憎悪。

 男が何をしても、高琉は憎悪を募らせていった。

 何をされても男を憎めと、自身に言い聞かせていた。


 父親を殴らせられても・男に命じられた姉に殴られても・母がレイプされるのを見させられても・満足な食事を与えられなくても・睡眠を妨害されても・煙草の煙を吹きかけられても。

 罪悪感・無力感・劣等感・疲労感、全て憎悪に変換して。



 しかし、男の目には、そうは見えなかった。

 意識して演技をしていたのではない。

 元々高琉は、活発なのに大人しく見られたし、怒っていても機嫌良さそうに見られた。

 その為、今回も偶々、絶望して言いなりになっているように見えただけだった。



 男の目を盗み、高琉は毒を塗った包丁を用意した。

 毒は、男が持ち込んだものを使った。

 しかし、彼女は躊躇っていた。

 一応、相手は人である。

 どんなに憎くても、実際には、刺したり斬ったり出来ないのではないかと。

 毒が、どれだけ効くかも判らない。

 だから、実行に移せなかった。




「おい、お前等。こいつ、殺せよ」


 ある日、男が父を殺すように言った。

 男が碌に食事を与えない為に、随分衰弱していた。

 放っておいても長くないだろうに、妻子が殺すのを見て楽しみたいが為に、そう命じたのだった。


 母も姉も逆らえず、高琉も逆らう訳にはいかなかった。




 こうして、男は、高琉に一線を超えさせてしまった。

 人を殺す経験をさせてしまった。


 次は、上手く殺せる。


 彼女に、自信を付けさせてしまった。




 その時は、案外早く訪れた。

 非日常が日常となり、慢心と慣れと疲れが男のミスを誘った。


 姉で性欲と支配欲を満たしていた男は、うっかり高琉と母から意識を外してしまっていた。

 気付いた時には遅かった。

 背後から凶器を手に襲い掛かった高琉が、男の尻に包丁を突き刺した。


「ギャアアアア!!!」


 今までの人生で経験した事の無い激痛が男を襲う。

 痛みに脳内を支配されながらも、男は前方の離れた場所にいる母を目にし、自分を刺したのは高琉だと理解した。

 しかし、男は反撃に移れなかった。

 その前に、彼女が追撃したからだ。


 こいつさえ居なければ……!


 薄れ行く意識の中で、恨み言が浮かんで消えた。



「お前が、私を人殺しにした」


 最期にそう聞こえたが、それについて何か思う事は出来なかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 人の嫌がることをやってはいけないと、普通は家庭で教えるものと思われますが、親自体が共感性にとぼしい場合や、その他の事情で子供の教育ができない場合があるので、集団生活を行う場で、道徳教育などで…
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