不条識な狼の理9
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そういえば、この学校での一番の思い出とはなんだったんだろう?
基本的にはあたしの思い出の中では、ヒカミとハクスイが居る。やはりどれを思い返してもあの二人抜きでは語れない。
インパクトでいえば、他校の生徒によるハクスイのリンチ未遂で、ヒカミが代わりに謹慎処分を食らったあの出来事だけど、あれって確か、ハクスイが奥歯無くなって、ヒカミが網膜剥離とか言ってたから、インパクトだね。本当に。
それはインパクトが凄かっただけであって良い思い出とは言えない。笑い話で面白かった事と言えば、ヒカミが体育の授業でハクスイに本気で戦い過ぎて骨折したクダりか、いや。これもヒカミ怪我してるじゃん。無し無し。不謹慎ながらめっちゃくちゃ笑ったけど。
って事はこれか。
あたしはスマホウォッチを弄り、あの覚めた五月病の日の写真を出す。
我ながらなんかヤバい雑誌の表紙なんじゃないかってぐらいの傑作の濃厚な二人のキス写真にもう思い出し笑いが溢れてくる。
「そー久々に父さんに会えたからね。墓前で聞いちゃった訳よ。結婚のクダりをさ。」
ハクスイが髪を指でくるくると巻きながら言う、この人はいつも、雑談の時は長い髪をこうやっていじる癖があるのだ。
「まあ確かに、ハクスイの両親えらい若くして、結婚だからね。更栄の大改革で十三歳から結婚出来るようにらなったとは言え、あの時代ってすぐ結婚出来るもんじゃないだろ。」
「そう本当にそれ。私もずっと疑問に思ってたからね。だからやっと聞けたのよ。
あと、二人とも遺影でしか知らないだろうけど、私の母さん、信じられないくらいの美人じゃん。それが、なんで父さん選ばれたのかも疑問だし。」
軽く自分の母親は美人と言い張るハクスイだけど、お世辞抜きに本当に美人なのである。
そして、その母の強い血は娘のハクスイにもしっかり受け継がれていて、告白する人が後を絶たない、学校イチの美女である事と長身。さらに頭まで良いという、天は二物も三物を四物も与える。神様は不公平の文言の結集体。それが白水京香なのである。
「へー大方、ハクスイのチャラさを見てるとデキ婚だとおれは思うけどな。」
「はいはい、そこ!チャラいとか言わない。万人にチャラく接するんじゃなくて、コイツはバレないってやつじゃないと唾つけない。チャラいってのは見境なく味見するやつ。」
「どんな論理だよ。それ。憧れのシラミズキョウカ様がそんなゴミみてぇな発言してるの動画撮って、ばら撒いてやりてぇわ。少しはラブレターストレスが減るんじゃねぇの。」
さらっと、爆弾発言してるのを、あたしはニコニコと流す。そうだ大人の二人のこの会話にはあたしは入れない。
「そう!このラブレターストレス!例に漏れず、お母さんも中学時代私と同じストレスを抱えてた訳よ!」
ここぞとばかりに、ハクスイは封筒を三枚出す。男からなのかシンプルなものだ。
いいなぁあたしも一回で良いからもらってみたい。
「うわ。今日だけで三通かよ。おれも一通入ってたけど。」
ヒカミも一通封筒を出す。
え?ヒカミもラブレターなの?こんなに男だか女だか、分からないキャラだし、顔も平均レベル(失礼)なのに。
しかし、その封筒はよく見ると。
「どうだ。入学してからこの一ヶ月、全て同性からのラブレターだ!みんなおれのどこを見ている!何故だ!別に穴か棒の違いで性別に拘りは一切無いが、この打率はヤバすぎないか!うははは!!」
と、盛り上がったあとにヒカミが項垂れる。
「女の子は、傷つけないように断るのが難しいんだよぉおおお……」
告白の返答がいちいち大変であるという、あたしには一生ないであろう悩みに二人は途方にくれていた。そして、それは二人だけじゃなくて、ハクスイのお母さんもそうであったと。
「まー。平たく言うとさ、母さんが最終的にお父さんが好きってか合うっていうか。彼氏じゃなくて旦那にしとくのに丁度良いって気付いたんだって。中一の時に。まあ、めでたく付き合って。
でも若過ぎる結婚に関しては、軍家系の父さん側の実家からだいぶ反対の圧力あったからね。デキ婚ってか、計算通りの作ろうぜ結婚で私が生まれた訳よ。そりゃ結婚するしかないじゃん。」
「そうか。お前四月生まれだもんな。」
「問題は。父さんの落とし方なんだよね。」
「ほーそれを。母の墓前で、父が母に落とされる時のキュンキュンの話を聞いたと。」
「まーやり手でワガママ大胆不敵の母さんの、父さんを逃がさない技ってのがね。
今日みたいな昼休みの教室に、告白の返事を聞かせてください、数人の男が押しかける日があったのね。」
ハクスイがラブレターを振ると、ガララーっと教室のドアが開く。
そして、他のクラスの知らない男子たちが五人程入ってきて、クラスメイトたちの視線はそこに注がれた。
「そこで、一番母さんに興味なさそうにしていた、教室の隅にいた真面目童貞君こと、父さんに思っ切りキスして、それをみんなに見せびらかすという、大胆な行動に出て、父さんもゲットし、ラブレターのストレスからも解放されました。めでたしめでたし!」
「はぁ。何それ?美人しか出来ない技じゃん。おれの方が重症なんだよ。相手は女の子なんだから。」
「まーまー。サク。今から凄いシャッターチャンスが来るから、カメラ起動しといて。」
『え、カメラ……はい。おっけ。』
あたしには無縁の話だと思ってたのに、突然あたしも話をふられ、カメラを起動させた。
そうこうしている、間に、昼休みの騒がしい教室を掻き分け、ハクスイの返事待ちだと思われる男子ーズはあたしたちの席にまできた。
「シラミズさん。お返事を聞きに来ました。」
緊張した様子で一人が言った。若干どもりがあって思わず、頑張った!良く言った!と褒めてしまいそう。ああ恋ってこんな感じなんだ。羨ましい。
するとハクスイは椅子から立ち上がった。
「ヒカミも立って。」
「え?なんだよ。ったく。」
面倒臭そうにヒカミも椅子から立ち上がる。
学年イチ長身の女と、学年イチ小柄の女の間には頭一個以上の身長差がある。
「んで、なに?」
ヒカミが不機嫌そうにそう言うと、
流れるように、ハクスイはヒカミの事を抱き寄せ、顎を持ち上げ、
『ああああーっっ!!』
教室中の、視線はそこに注がれた。しかもあれです。ちゃんと濃い方です。
一秒、二秒、三秒、四秒、五秒、、、、
あたしはしっかり写真に撮った。
ふっと、唇に糸を引きながら二人が離れると、
「そういう事なの、皆さん期待に応えられなくて、ごめんね。」
涼しげにいうハクスイと、
お湯が湧きそうに真っ赤な耳で下を向きながら、口を抑えるヒカミの姿があまりにも面白過ぎて、もう一枚写真を撮った。
この話、いやこの写真は、クラスのチャットグループに誤送信してしまったとういう体で拡散され。
ハクスイは面倒なラブレターが止まり、めでたしめでたし。
ヒカミはなぜか、血のついたカミソリが入った手紙が机に入っていたそうで、めでたし?めでたし?




