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不条識な狼の理83

♗83


 あれから一時間は歩いたのだろうか。塔は相変わらず見える位置にはあるけど、まだ距離がありそう。

 塔ばかりに気を取られて気付かなかったけど、小さな川が見えてきた。



「皆さん、一度休憩にしませんか?折角川があるので、樫山さんも多分、返り血洗いたいんじゃないですか?」


 キアラからのありがたい提案。


『賛成!マジで洗いたい。体毛に血が固まってさっきから痒くてしょうがない。』


 あたしは、川に向かって四足で駆けだして、思いっきりダイブした。

 ふう。最高。水浴びにも丁度良い陽気だし。っても川って海と違って水温が低いから、普通の人の感覚だったらこの行水は風邪ひいちゃうかもしれないね。

 バシャバシャの獣毛に詰まって固まった返り血を落とす。こんな事するのもきっとこれで最後なんだろうな。


 色々あったな。一年間。厳密には一年二ヶ月か。その中でもあたしがこのメンツの誰かと過ごしたのはたった二ヶ月。

 一人で彷徨う消化戦のような一年は正直いってそんなに長く感じなかった。なんだか当たり前のルーティンのように、毎日が流れていくだけで。

 作業のように、死体を用意して、人知れず死体を食う日々。なんだかな、あり得ない日々だったな。呪いとか条理とか。


 そして再会してからの日々もあり得ない日々だったな。身体の大半を失っていたヒカミ。記憶を失ったハクスイ。命と引き換えにみんなを守った歩。身体に蟲を宿すキアラ。たった一ヶ月なのに激動だった。

 でももうそれもきっとあと数時間で終わる。

 あの塔に辿り着いて、あたしたちは元の世界に帰るんだ。




 川に浸かったままぼうっと空を見上げていると、ハクスイが来た。

 川に布をくぐらせて絞っている。


『みんなはこっち来ないの?ってもヒカミは来たくないだろうけど。』

「うん。ちょっと亜美さんが疲れちゃったみたいで向こうでバテてるから濡れタオルを。」

『そう。』


 こんな近い距離も歩けないなんて相当疲れてるんだろうな。


『本当にバテてるだけ?』

「私の口から言うまでもないわね。とにかく塔まであと少しだから、それまで持てば。」



 なんだか意味深だ。

 そしてあたしもなんだか変だ。腹減った。

 ハクスイが向こうに戻るのを見送ると、あたしは川魚を素手で取った。

 まあ、みんなな多分いらないだろうから、あたしの分だけで。

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