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不条識な狼の理81

♗81


 最後の旅の日は二週間後だった。


 まあその理由としては、キアラの怪我の時のヒカミの輸血。どうやらあれって血液が正常値に戻るまで、そのくらいの日数を必要とするらしく、ちゃんと正常値に戻った状態で行かないと、もしヒカミが怪我をした時に、数値が低い血液のままだと死亡率が上がってしまうというやつだ。

 それと、キアラ自身が、片目しか見えなくなった分、距離感が掴めないので、最低限ナイフぐらいしっかり扱える程度には訓練したからということで、ハクスイに付きっきりで仕事以外はずっとレッスンについてもらったみたいなので、なんだかんだ言ってこのタイミングで良かったんだと思う。

 あたし?あたしも頑張ったよ。筋トレと走り込み。そして、ヒカミと組手。めっちゃ強くなった自信がある。




 本当は昨日出発の予定だったけど、雨だったし、キアラがロッカンバーテンズ卒業ということで盛大に飲まされたらしく死を覚悟するほどの二日酔いとなったので、結局一日ずれて、今日になった。まだ朝日が登るのと同時に出発。眠い。




「っても最初の試練はあいつだよな。あの霧。」


 ヒカミが歩きながらに器用にズボンを破きながら言った。何するんだろうと見てるの、破ったズボンから、尻尾を取り出す。


「霧って?」

「君の頰に傷を入れた敵だよ。一年前、突如霧に包まれて、おれはそこで殺された。」


 おれは殺された……あたしを庇ってヒカミは死んだ。


「ヒカミさん。わたしの記憶が正しければ、あの。樫山さんを押した時、見えてましたよね。攻撃が。」

「いや、正直言ってまぐれに近いぜ。何かを投擲してるのは確かなんだろうけど。あの日。たまたまおれが見ていた方角の霧が裂かれるのを見ただけなんだ。あとは何つーか咄嗟。身体が勝手に反応して、気がついたら、半分無かったって感じだからな。敵が見えた訳ではない。」

「霧が裂けたってことは、霧の外から攻撃があったって事かしら?」


 そうか、今更だけど、ハクスイはこの霧の敵のクダリまで記憶が無いんだ。


「ああ。あの瞬間だけはハッキリ覚えてる。敵は霧の外だ。」

「だとしたら変じゃ無い?」

「何がだ?」

「私たちが霧に包まれてるんでしょ。どうやって狙うの?」

「あ……」


 ヒカミが顎に手を当て考える人ポーズで歩く。


「確かに。どっちかと言えば、相手がおれらを見て仕掛けてくるのであれば、霧の中って安全じゃ無いか?見えないんだから。」

「今思えば、当てずっぽうな感じもしますよね。ヒカミさんは二発目でああなってしまいましたが、一発目は京香さんの頰を。三発目は、わたしたちの頭上です。よほどコントロールが悪いのか、そこまでよく見えてないのか。」

「嫌なこと思い出したら悪いんだけど、ヒカミの最後の姿を見たのは誰かしら?」


 そういったハクスイの疑問に答えるように、キアラがあたしを見る。

 確かに嫌な思い出だ。あたしの脳内にはあの、目を閉じることなく死んだヒカミの顔がフラッシュバックしていた。


『左腕から心臓にかけて、あと頭まで。今ヒカミが人間の身体で残ってる部分のみ。異形になってる部分が全部吹っ飛んでた。』


 ハクスイが一度止まったので、全員足を止める。そして。ヒカミの方へ行き、ヒカミの服をめくる。


「うお!セクハラ!」

「覚えてる限りで良いの。それは、上半身に当たった?足に当たった?」


 ヒカミは一度考えてから。


「上だ。足だったら、あの霧が裂けるのが見えないはずだ。おれの目線のに近かったから、サクを守ろうと反応できた。」

「だとしたら。」


 またハクスイが歩き出すので全員で続く。


「その時。誰も伏せなかったの?」




 焦りやパニックはいつだって真実を見落とす。

 どうしてこんなにも初歩的な事に気付かなかったのか。確かにその辺一番センスのあるヒカミが真っ先に脱落というのもあったかもしれないけど、

 冷静に伏せれば、まだ活路はあったのでは?という、今は記憶のない第三者ハクスイの見解だ。

 そして、本当に敵が、視覚情報はほぼ無し、非常に強い投擲だとしたら。


「嗅覚か聴覚だけで、方角を定めて、ドッヂボールのサイドスローってあるじゃない。横投げ。あれって、コントロールが凄い悪い代わりに、まずキャッチできない強力な球になるでしょ。」


 なるほど。じゃあそうなる。


「とりあえず霧が現れた伏せるのよ。ただ、伏せただけの状態で、避けるのも難しいのを動体視力だけで、どこからの攻撃か、方角を探るのはまず無理だわ。」

『じゃあどうすれば?』

「さっき言ったでしょ。敵は多分、嗅覚聴覚でこっちを認識してるって。なら簡単でしょ。こっちも嗅覚聴覚で追えば良いのよ。」


ハクスイがあたしの鼻を指でつつく。


「その鼻。私が夜中何かしてるのもお見通しの嗅覚なんでしょ。」

『うん。まあ……』



 この人には恥じらいというのはないだろうか。

 正直言って。あの夜ハクスイから知らない匂いがしたんだ。訂正、まだ知らない匂いが。これは絶対深入りしてはいけない問題だとちゃんと察している。

 隣でキアラが小さな声デュフフと笑う。デュフフってさぁ。



 まあ何はともあれ。今回はあたしの出番か。

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