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不条識な狼の理8

♗08


 あれから三十分ほど歩いた。

 変わり映えのあるものといえば、ずっと石壁レンガが続く中、鉄扉が現れた事だ。

 進行方向に現れたわけではなく、本当に真横。右壁に、普通に扉がついているのだ。多分前しか見ないで歩いていたら気付かない。石壁と同化した色なのもまた存在感を無くすポイントだ。

「遂に扉が。体感約三時間やっと新しい活路が!」



 意外にもテンション上げてきたのはハクスイであった。これはいつもならヒカミのポジションなのに疲れているのか、それとも先ほど宣言した空腹の所為なのか、ヤケにテンション上げようとしている。ような気がする。

「生存出来るように休憩所があるとか書いてあったもんな。多分此処の事なんだろうな。ってか此処じゃなかったら難易度高過ぎだなこの世界。」

 ヒカミがドアノブに手をかけると、ハクスイに下がってと顎で指示をする。

 ハクスイは身構えてあたしの前に立つと、ヒカミはそれを確認してからドアを開けた。



 中の部屋はまず光源があった。ドアから光が漏れる。ヒカミが覗き込むとヒカミは、「こんちわー」って普通に喋り出す。え?中に人がいるの?それとも、わざと何か冗談?

「おめでとう。第一の休憩所だよ。」

 部屋から男の声が返ってきたのだ。

 ヒカミが一度こちらに身を戻して、部屋の男に聞こえないように、小さい声であたしたちに「多分大丈夫だ。入るぞ。」

と言って先に中に入ったので、ハクスイとあたしも続いて入って行った。





 部屋の大きさは学校の教室ぐらいだった。

 真ん中に、六人掛けの大きなテーブルと、保健室のような殺風景なベッドが二台。

 水道。ビンが大量に入った棚。人一人入れるくらいのストッカー。冷蔵庫か冷凍庫かはわからないけど。あとは、奥にもう一部屋あるみたい。ドアが見える。



 そして、その六人掛けテーブルの一つの座席に三十代くらいの白衣を着た男が座っているのだ。

「はじめまして。モブキャラの佐竹です。」

 男は自らをモブキャラと呼称したのであった。

「モブキャラって事はアレか。街の入り口で〈ここはナントカの街だよ。〉しか言わねーあのポジションか。」

「ここは第一の休憩所だよ。」

 佐竹と名乗るそいつの反応は早かった。

 駄目だ。頭の回転の早いボケが三人、鈍いツッコミが一人という嫌な図式になってしまった。

「いや言い直さなくて良いから。別にAボタン押してないし。」

「ああ、まあ冗談はさておいて。おめでとう。君たち。とりあえずここまで辿り着くのが第一関門だ。とりあえず座るといい。」



 促されて、状況は分からぬままだったけど、ヒカミが座ったのであたしとハクスイも座った。

「制服と、ジャージと、和服とは随分なレパートリーだね。呼ばれた時の格好でこっちの器は作られるとはいえ見事な組み合わせだ。ちなみにこれは裏技なんだが、壱の現世で招待状を受け取った時に裸だった場合のみ、こちらで衣装選べる仕様になっている。」

 今この状況下で、要らない情報は皆無のはずなのに、まさか皆無の中からの要らない情報が早速引かれるとは思わなかった。

「おう。で、お兄やんは何モンなんですかね?」



 前言のどうでも良い情報をフルシカトして、先陣を切ったのはヒカミだった。ハクスイも喋ろうとはしなくとも、しっかりとモブキャラ佐竹の動向を見ている。

「まあまあそんなにピリピリしないでくれよ。特に侍のお嬢ちゃん。テーブルの下で刀握ってるのはわかってるんだ。おじさんをそんなにいじめないでくれよ。

 僕はね。このシステムの運営側だから、正直言って君たちの敵ではない。かといって味方でもない。」

 かちゃり。とハクスイが刀身を床に落とす音がした。

「まあ最初から、味方だよって言ってくる人間よりはか全然信憑性があるわね。」

 そう言うだけあって、多分今は敵意は無いと判断したんだと思う。相変わらず。ガン飛ばしてるけど。



「僕を人間と呼称したが、僕も人間の定義に当てはまるかといったら、非常に微妙な生き物なんだ。

 そもそも論、僕はこのW・Iシステムの弐の次元でしか存在しない。二場とともにこのシステムを構築した物理学者、佐竹羨望の脳と魂のデータを一部コピーして造られたAIなんだ。かといって完全に機械じゃないよ。ちゃんと意思を持って動く。気まぐれによっては君たちと会話しなくなるし、ずっとこの部屋にいるわけでもない。気分でお出かけもする。限りなく人間だが、出生が人間のそれと異なるというのが一番わかりやすい説明かな。」


「ほう。ってことはおだてれば、この世界の情報をくれるって事ですかね。」

「勿論。あと僕は女の子には優しい。」

「おれたちが本来いた世界が壱。この今いるW・Iシステムというこの次元が弐の世界。作家の二場と学者の佐竹は弐の世界に、魂のうんちゃらを研究するためにW・Iシステムを構築した。ここまで合ってる感じすかね?」


「ああ問題ない。百点だ。」

「このシステムの目的とかは正直言って今すぐ必要じゃなくて。おれたちが今最も欲しい情報は、元の世界に戻る方法。勿論システムをクリアしたら戻れるとはいうが、どうやってクリアするかなんですけど。」

「なんだなんだ。そんな事か。王道に近道無し。簡単だよ。この迷路をゴールしてそこにいる番人【ミノタウルス】を倒して、ここを出るのが当面の目標だよ。」

「入り口の時点で察してはいたが、やはり化物が待ち構えてはいるのか。」

 ヒカミは考えこむように腕を組む。



『ごめん話ぶった切って。ミノタウルスって何?』

 今の空気の読めない知識の浅い者の発言は勿論あたしだ。ヒカミが入り口の時点で察していたというぐらいだから一般教養で誰もが想像つく何かがあるんだろうけど、あたしにしてみれば、なにそれ美味しいの?の感覚である。ちなみにハクスイも知ってそうな顔をしている。

「ギリシャ神話に出てくる、頭が牛で身体が人間の合成獣のような怪物だ。王様はミノタウルスを大迷路の地下に閉じ込め、ミノタウルスの食料として、鎮魂祭の時に複数の少年と少女を迷路に送り込んだ。」

 食料として?


 あたしは、先ほどの飢えた狼と白骨を話を思い出した。ここにいるあの敵たちは基本的にあたしたちに殺意を抱いているのでなく、ただ食事として生理現象としてあたしたちを襲っているのだ。

「そうだ。狼に好かれるお嬢ちゃん。えーっと。君の魂の名前は……樫山さくらちゃんだ。狼に噛まれた傷はどうだい?」

 教えてもいない情報を知っている。露骨に嫌な顔して睨んんだのは意外にもハクスイではなくヒカミの方だった。

「まあまあ。さっきからお嬢ちゃんたち本当に顔が怖いよ。簡単な事だよ。僕はシステム側のAIだから、魂がこの世界に新しくインする時は最低限の初期情報はデータベースに届くし。明らかに大きく魂が反応する時の測定データは随時、更新される。

 つまりは、狼に愛される汚れた血のさくらお嬢ちゃんは狼に噛まれた時に、本当に怖いと思った。だから良い数値が出てる。侍の京香お嬢ちゃんはさっきの死体を見た時に、この世界がどれほど残酷か悟ってしまったらから、相当な数値が出てる。こういった計測数値が僕らAIはすぐデータベースで共有される。」



 途方も無い話だ。あたし達がどんな人間か把握されてる上に、怖いって感情が全てバレている。

「ヒカミお嬢ちゃん。君はさすがに13回目の赤い魂なだけあって、大変冷静で、大きな計測値は出てなかったけど、今は相当な数字が出てるね。」

「ああ。アンタに今敵意が無いのは分かりきっているのだが、大切な友人たちの純粋な危機の思いを、データだの数字だの、そっちの都合で平たく扱われるのに非常に嫌悪感を感じてね。」

 表情一つ変えない。声色一つ変えない。しかし、これはあたし達だけは知っているヒカミが本当に怒ってる時のものだ。

 ヒカミは絶対に相手に向かって、[アンタ]って使わないんだ。ただでさえ口が悪いから、相手を呼ぶときに[君]って言うように心掛けているって言ってたし。



「それは失礼。僕の元となった佐竹博士の性分でね。どうしても、計測結果が面白く出ると嬉しく思ってしまうんだよ。気を悪くしたならすまない。」

「いえ。多分この状況下において悪いのはおれの方なんで気にしないでください。

 純粋に、痛い怖いではなく、怒りでもそちらに都合の良い数値が出るってのは、きっと感情の高ぶりというのが、大きな魂の反応というものなんでしょう。おれらはなるべく幸せに楽しい感情でも提供すればそちらには都合が良い。間違いない?」

「ええ察しが良いですね。その通りですよ。しかし無理ですよ。人という生き物は幸せな感情より不幸の感情のほうが大きくて逃れられないものです。

 あなた自身が、幸せだった兄との思い出は風化するの対し、何年たっても水の恐怖を克服できないのが何よりもの証拠です。」




 その直後。一瞬風が吹いた。いや影だった。何だろう。本当に佐竹が言い終わるか否かのその瞬間だった。




「ハクスイ。退け。おれのために怒ってくれるのは嬉しいが、言われたことは事実に変わりないし、システム側のAI相手に今戦うのは不毛だ。」

 あたしには、目でギリギリ追えたか追えないかのぐらいの、凄まじい反射神経で、ハクスイは抜いたのだ。刀を。テーブルの上に足を乗せて、前のめりに佐竹にその刃を向けていたのだ。


「AIなら学習した方が良い。システム統括してる側が斬られたら話になんないわよ。」

 ハクスイは。刀を鞘に収めながら言ってたけど、佐竹の返答によってはいつでも動く気なのだろう。佐竹から、少しも目を逸らさない。

「オーケイ。オーケイ。気をつけますよ。諸々と説明するのが僕の仕事なのにこんなにピリピリしていても仕方ない。」

 気を付けると言ったわりには多分今後も気を付ける気なんてないんだろう。合わない。純粋にあたし達は合わない人種だと思った。AIだから人種って表現も合ってるか分からないけど。





 佐竹の説明を簡単にまとめると。

 この迷路にはこういった休憩所というのがいくつか存在してるらしい。この休憩所はベットと水道とトイレ。あとは包帯や薬といった、わりかし最低限の設備。

 殺すことが目的ではなく、魂に高負荷を与えながら、ギリッギリのラインで生存させることが目的なので、ここを生き抜くための支援設備として運用されている。もう少し進んだ休憩所には、シャワーだったり、筋トレ器具や、食料が置いてある所もあるそうだ。長期間泊まって、強くなってから挑むって方法も選択の一つであったり、怪我の場合長期滞在を余儀なくされるので、そういう用途に使えるようにと。

 あたしの傷は、もう一度ちゃんと明るいところで見たところ、まあ縫わなくても良いだろうということで、消毒とちゃんとしたガーゼと包帯の巻き直し。それと感染症の疑いがあるので、いくつかの飲み薬を飲んだ。




 色々話し合ったのと、佐竹がこの休憩所の扉は外にいる知性のないモンスターたちには決して開けられないから安全ということを教えてくれたので、あたしはここで待機して、ヒカミとハクスイで一度近辺を散策してくる事になった。

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