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不条識な狼の理68

♗68


 夕方。あたしとヒカミは貴志さんにお礼を告げて、SOAのメンバーが運転するバイクで〔塔下街〕へと向かった。

 本当に何もかもが一昨日の貴志さんが言ってた通りでそれなりの悪路で何度も転倒しかけた。急ぎとはいえこれが昨日だったら多分転んで大怪我しただろうし、急がば回れというのは本当にその通りだと思う。




 塔下街に着くと、夜の所為かあまり人通りは無かった。大通りを通っても開いてる店は数少ない。SOAの人が言うには、都市部ではあるけど、夜やってる店はお酒を扱う系の所かえっちなお店が殆どだという。うーん栄えてはいるけど、治安が良いわけではなさそうだ。

 街のほぼ中心地、ロッカンバーテンズの前であたしたちは降ろしてもらった。

 長距離の運転だったというのに、これからまた休まないで、バイクでSOA自治区に帰るというからやっぱりヤンキーって凄い。




「なんか色々あって、気分が落ちてたけどさ。これからハクスイだけじゃなくてキアラさんにも会えるんだぜ。ちょっとは元気だそうぜ。」


 ヒカミにはそう言われたけど、あたしは今のヒカミの言葉そっくりそのままヒカミに返してやりたかった。まあ確かに多少凹んだ顔をあたしもしたかもしれないけど、あたしはヒカミ程凹んでないと思う。というか、ヒカミ程思想が深くないから、この世界の事とかそんな難しい事は考えられないのだ。


 とにかく、昨日のキアラの不穏な電話はあったにしろ、今からキアラに会えるのだ。少しはテンションが上がって……

 あたしが、店のドアを開けて、入店すると、小さな丸テーブルが三つほどホールに設置され、お客さんがパラパラと、テーブルのホールを超えてカウンターの手前にキアラの姿があって、テンションが上がった。

 しかし、キアラも相当テンションが高いらしく、何故か日本刀とボウガンを背負って完全武装しているのだ。え?


「ご無沙汰しています。ヒカミさん樫山さん。」


 えっと。ご無沙汰。久々に見るキアラの姿は去年のイメージと全く変わってなかった。そりゃ着ている服とかその辺は違うけど髪型も変わってないし、不潔じゃないはずなのに、なんとなく清潔感がない感じの陰キャっぽい空気を纏ってるわりには、わりかしちゃんと喋れる。これぞキアラという人間だ。

 ただ、どう見てもおかしいのは日本刀を背負ってる姿だ。それってハクスイの刀じゃ、


「早速ですが、緊急事態です。京香さんが誘拐されました。」


 ハクスイが誘拐?


『京香さんってハクスイの事だよね。』


 予想外過ぎる言葉だったので一応確認しておいた。


「ええ。二人がハクスイって呼んでる。あの最強のドエロ侍が誘拐されました。」

『えっと。状況が、』

「ノア教の連中か?」


 とヒカミ。そういえば、貴志さんもハクスイがノア教の連中に追われる可能性があるとは言っていた。だとしても早すぎない?


「多分そうです。ただ、ムハ教徒の変装をしている人たちだったので、多分ロクな人じゃないので、急ぎたいです。」


 異教徒のフリをして人を誘拐するってもうキナ臭さしか感じない。


「くっそ。SOAの人たちもう帰っちまったもんな。単車借りたかったな。」

「うわ。今のエンジン音はやはり、SOAの方々でしたか。場所の目途はついてるので、兎に角向かいましょう。ただ細かい場所までは特定出来てないので。」


 キアラが意味深にあたしを見てくる。


「狼さん。出番ですよ。」


 意味深にカウンターに置いてあった、どギツイワイン臭がする布を渡してきた。


「向こうに着いたらこの匂いを追ってください。」

『折角の一年ぶりの再会ってところで、いきなり犬としての仕事ってちょっとキツくない?』


 本音。マジで本音。





 どうやらどの辺にいるかは目処がついたけど、細かい位置までは特定できないから、あたしの嗅覚でこのワインの匂いを追えば大丈夫って。っておい。久しぶりイエーイかんぱーい!とかそういうの期待してたのに、なんでよりによって、ハクスイが誘拐されてるの?キャラ的にキアラが誘拐ならまだしも、なんで一番誘拐されなそうなあいつなんだって。




「とにかく、急がないと。樫山さんだけが頼りなのでお願いしますよ。」

「そうだよ。頼むよサク。おれもおれで確かに異形だけど、おれは顔は殆ど人間のままだから、鼻も目も耳も人間と変わんねえもん。」


 ああもう。どうしてあたしばっか、この役回りなの。

 キアラが、ワインを染み込ませた布を渡してきた。はいはいやりますよ。やれば良いんでしょ。


「場所は東ゲート側の廃墟街です。そこで目撃情報を得ましたので、そのあたりで、樫山さんの力を見せてもらえれば。」


 キアラは、あたしとヒカミを外に出るように促して、最後に、店内に向かって、声を張り上げた。


「マスター。買い出し用の自転車借りますよ。」


 ほう。自転車。自転車で向かうのか。

 そうして店外に出ると、確かに自転車はあった。確かにある。一台だけな。

 おかしいな。一台で三人って。


「っしゃ。キアラさん。おれが漕ぐぜ。この身体になってから、脚力だけはマジで上がってるんだよ。」


 早速、ヒカミは自転車にまたがり、すぐ後ろの荷台にキアラも乗る。

 ねえ?あたしは?


「んじゃ。急ごうぜ、道案内頼むぜ。」

「了解です。まずは大通り真っ直ぐ行って、十字路を左です。」

『待って、待って、あたしはどうするの?』

「ああ、樫山さん。この街は、異形に寛容ですので、四足で走っても問題ないですよ。」


 って……えええ?


『この時点であたしに犬をやれと。』

「おいおいサク。我儘言うなよ。効率重視だぜ。」

「犬なんて言わないでくださいよ。狼の時速は七十キロまで出ますよ。」

「おれもこの身体なら時速七十で多分漕げるぜ。」

『待って、待って。なんであたしだけ人を捨てないといけないの?』

「んなこと言ったて、ハクスイ早く助けに行かねえと、美人だから、如何わしいことされちまうぞ。」

『あいつの場合そっちの方が楽しんでそうじゃん!』

「それは薄い本が書けますね。デュフフ。」

 え?キアラ今のデュフフって下衆い笑い方何?

「おお。久々の再会で下衆を出してきたね。」




 そう言いながら、ヒカミは漕ぎ出した。

 ええっ、待ってよ。本当にこれで行くの?

 置いてかれるわけにもいかないので、あたしはフードを脱ぎ、両手を地面着けた……ちくせう。

 時速七十キロという自転車でありえないスピードで進む自転車は、荷台にボウガンと日本刀を抱えた、女の子というありえない絵面で。それを追いかける、四足歩行の人狼というのは、端から見たら大道芸人だったと思う。

 ってか、到着早々。なんなのこのトラブル急展開は。もうゴールを目指す上ででの最後の街だってのに、先が思いやられるなあ。




 街外れまで走り、辿りついたのは廃墟街であった。夜なのに、灯りひとつもない。本当にゴーストタウンってやつだ。

 キアラが、持参していた松明に火をつける。


「この辺は、つい三十年ぐらい前まではちゃんと人も住んでて結構活気ついてたんですよ。しかし、三十年前のハリケーンで電線関係がほぼ飛んで、修復より都市区に移住した方がローコストだってことで捨てられた街です。

 電気も水道も通ってないので、変わり者か、余程人前に姿を現せないような異形の者。あとは悪い事するような人しかいないですよ。」


 そうな人しかいないという言い回しの割には、人が一人としているような空気でもない。随分寂れた街だ。




「それじゃあ、樫山さんお願いしますよ。」


 ニコニコしながら、キアラはあたしにあのワインまみれの布を差し出してくる。くっそ。やるしかないのか。

 ふと。受け取る時に気付いた。


『なんか、キアラからめっちゃハクスイの匂いする。』

「えっ、あっ。それは……ほら、樫山さんとヒカミさんが来るまで、うちに泊まってたので。」

「キアラさん大丈夫か?ハクスイに何かされてないか?」

「何かされ……うーん。初日に服をゲロまみれにされたぐらいですかね。本人全く覚えてないでしょうけど。」

「くっそ迷惑じゃん。それ。」

「大丈夫です。鍛え抜かれたファンのメンタルなら推しのゲロ掃除ですら尊いものです。」


 えっ、キアラってこんなハクスイ並みの変態だったの?

 そんな変態発言を続ける、キアラの胸と首あたりの匂いを嗅ぐあたしも何か同じ穴の狢の気がして、何か嫌だ。これはだから、あたしがキアラに興味があって、匂い嗅いでる訳じゃなくて、ハクスイを探すために仕方なく。

 ワインの匂いも嗅ぐと、あたしは地面に突っ伏して、地面の匂いを追い始めた。




「この動作がさ、おやつ隠した時のボンジロウそっくりなんだ。」


 頭の上からは、笑いをこらえた腹立だしいヒカミの声が降ってくる。

 こんな惨めな姿のこっちの身にもなれ。


『うるさい!食い殺すぞ。』

「やーやー怒るなって。おれにとってのボンジロウはディスじゃなくて、信頼語だから。」


 なんか、本気で褒めてるのか馬鹿にしてるのかマジで分からない言い回ししてくるなあ。




 今まで、テレビで行方不明者の捜索とかで、警察犬がああやって、匂いで追うってのは客観的に見てきたけど、まさかやる側に回るなんて少しも想像つかなかったし、いざやってみると、本当に、匂いで追えるもんなのだ。ワインの匂いとハクスイの匂い。そして、うっすらキアラの匂いもするから、間違いない。あたしは匂いの方へと、進んで行く。

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