表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/91

不条識な狼の理67

♗67


 出発は明後日を予定と聞かされて、ヒカミは一日中寝ると意気込んでいた。そんなに寝るの楽しいだろうか。明後日出発なのはSOAのメンツの情報で近隣は雨が止み始めたので、今晩には止むだろうという見立てと、流石に明日直ぐに出発だと百キロのバイク移動で道路がぬかるんでいるのは少し危険という事で明後日となった。

 あたしは寝ているヒカミを横に、相変わらず赤ん坊と遊んでたんだけど、キアラからの電話でヒカミは起こされてしまった。どうやら急ぎでヒカミと話したいみたい。




〈ごめんなさい。寝てたんですよね。〉


 ヒカミの声だけじゃなくて、無駄に発達していうあたしの聴力ではキアラの話している内容もはっきり聞えた。


「んあ。大丈夫。まだそっちに向かえなくて、暇だから寝てたってのもあるし。」

〈でしたらすみません。早速本題に移ります。京香さんって昔からあんなに情緒不安定な方だったんですか?〉


 ハクスイが?まあ基本的にメンヘラな部分は若干あったけどね。誰とでも寝るあたりとか。


「不安定っても。今は記憶ないんだろ。だとしたらそんなに不安定になる切っ掛けってのもねえんじゃないの。」

〈ってことはヒカミさんは京香さんが不安定になる切っ掛けを知ってるって事ですよね。〉

「まあ。向こう世界にいた頃の話だけど。」

〈詳しく。良いですか?〉


「んー一回目は、あれだよ。小学校二年生の時。ハクスイのお母さんが若くして白血病で亡くなったんだよ。そこから全然学校来なくて、来るようになってからも、ろくに喋れる状況じゃなくてさ。その時はおれとサクが友達になろうって近付いてってさ。あん時はそれで割りかし普通に戻ったんだよ。

 二回目は、母親の若年性白血病が遺伝性かもしれないって記事を見た時だよ。それに至っては諸説あるからさ、絶対とは言い切れないけど、やはりあの原発事故の出身の人たちの統計を見たらさ。因果関係が無いとは言い切れないからさ。

 自分は長く生きれないと知った時、あいつの壊れようったらなかったよ。誰とでも寝る。男も女も見境無く。誰かと身体を重ねるって行為に依存してるって感じだった。」


 確かに思い出してみればあのタイミングだったかも、ハクスイのヤリチンビッチ病は。


〈では、その時、京香さんが多分片思いしていたと思われる方はどうしていましたか?〉

「副将の事?正直言っておれも仲良かった訳じゃないから、そんなに分からないけど、ぶっちゃけ、ハクスイの事嫌ってたと思うよ。

 絵に描いたような、ザ・優等生真面目ちゃんだったから。練習も朝練もいつもいたみたいだし。

 ほら、ハクスイに至っては天才型のスペックの部分もあるからさ。背も高いし。朝練行ってるとこ一回も見た事ないけど、クッソ強いんだもん。

 対し副将は、おれ程じゃないけど、背も低くて。本来は全く無い才能を全部努力だけでカバーしたってタイプでさ。

 そんな人が、さほど努力をしてるように見えない、恵まれた体格でとにかく圧倒的に強い。それでいて、クソビッチときたら、まあ好きになれるとは思わないけどな。

 でもこれはハクスイの名誉の為にも言っておくけど、あいつだって全く努力してなかった訳じゃないからな。爺さんが剣道の先生だから、それなりに厳しいし。

 朝練に顔出すと、副将がピリピリするから、顔出せないってぽろっと言ってたしさ。」


〈それって。まあ誰とでも寝るってのは倫理観が欠如してるとして、その好きだった副将さんは、京香さんを全然見ようとしなかったって感じですかね?〉

「だと思うぜ。ほらおれとサクとハクスイが仲良い三人組ってのは学校でも結構知れてたからさ。綺麗に身長差があるあるから〔階段〕って呼ばれてたし。

 その主将の親友であるおれやサクと会ったら、ちょっとはその会話が弾むっていうの?ハクスイをちゃんと見てるならおれらにも一言あると思うんだよ。それがハクスイに対する愚痴でもさ。

 なのに、露骨に嫌な顔して、避けるんだもん。普通そこまでしないだろ。」

〈うーん。京香さん本人にも勿論問題があるけど、相手にも問題があったのは否定できないですね。〉


「まあ誰もが、誰かに対して寛容ではないさ。今のキアラさんのように、ハクスイが心配だからおれを尋ねるってのも、誰にも出来る芸当じゃないもんだし。

 そんなにやべえの?今のハクスイは。」

〈そうですね。だから先にヒカミさんにだけは伝えとこうと思いまして。〉

「なんだよ。おれにだけ?責任重大だな。サクにも言っちゃ駄目なのか?」

〈ええ。ヒカミさんだけでお願いします。冷静の状況を分析した上で、事実を受け入れられるのは多分ヒカミさんだけなので。〉

「なんだよ。そんな大事なことか。」

〈ええ。わたしは近いうちに、死にます。〉


 死ぬ?キアラが?なんで。


「……今なんて言った?」

〈もう一度言いますね。死にます。〉


歩に続きキアラまで、なんでこんなにも自分の死を突きつけられてるの。


「理由が知りたいな。」

〈まあ、大前提。ヒカミさんのせいではないとだけ言ってはおきます。ヒカミさんの件は切っ掛けではありましたけど。

 ヒカミさんの魂を取り返すにあたり、わたしは死神に扮した二場さんと会いました。

 そこで本来は、二つの魂を対価に一つの魂を手に入れると言う契約を、一つの魂と、三人から魂一つ分に相当する対価を支払うという契約に変更してもらいました。

 それが、樫山さんは人間の体の大半、歩さんは利き腕、京香さんは記憶といった形で、支払いは行われました。

 なので、わたしはそこで命をと思ったのですが、どうやら、わたし自身の因果と条理のせいで、最も苦しんで魂を奪われるべく、延命してしまいました。

 しかし。それももう長くはないです。〉


「……」

〈それを、今の京香さんには伝えられそうもないので、その時が来た時、この世界でいう【条理】の力が働く時。どうか。京香さんの事を宜しくお願いします。〉

「なあそれって、歩並みの事情があって、絶対死なないといけないやつなのか?」

〈この世界では常識で測れないんですよ。通用するのは条理なんです。

 一概に普通の姿をしているこの世界も巧妙な条理の流れにおいて動いています。

 なので、わたしがこの一年で調べて見えてきた、答えというのが、見合った因果律を持った魂じゃないと根本的にクリアできない仕様なのではないか?という説です。それが正しければ、わたしの脱落は決定的です。〉


 そのクリア出来る人間の選定と、キアラさんの脱落。そこが条理に沿っているっていうのがまだ頭で理解が追いつかない。


「ごめん。おれは正直言って頭は良い方だけど、流石に、それはヒントが少な過ぎる。もっと具体的に言ってくれ。」

〈わたしは多分。シキに殺される切っ掛けを与えられます。

 そして、この世界の最上階まで登る事が出来るのは、ヒカミさん、樫山さん、京香さんの三人のみです。

 わたしは選ばれない側だったんですよ。〉


 シキ?確かに。救われる為にキアラに殺されたいしキアラを殺そうとしたとか言っていた。それが自らの生み出した呪いの所為でって。それが条理なんだろうか?キアラも死なないといけない。キアラもゴール出来ない絶対的な。


「わかんねえよ。」

〈明日。夜にはこっちに着きますよね。明日の夜に必ず説明します。今は、わたしが死ぬ危険を抱えてる事、それを京香さんが目の当たりにしてしまった時に、京香さんがこれ以上壊れる事が無いように。そこを託したいのです。ヒカミさん。頼みましたよ。〉

「君の返答次第では頼まれるよ。」

〈何言ってんですか?わたしには選択の余地が無いんですよ。〉



「いいから、質問に答えてくれ。

 君は、白水京香を愛してるのか?」

〈どうしてそんなこと聞くんですか?〉

「おれの言葉がずっと、あいつには届かなかったからだよ。」

〈それが今の質問と何の関係が?〉

「なあ。誑かすの辞めたら?おれに対してじゃなくて、キアラさんが自分自身をさ。」

〈ヒカミさん。冗談はやめましょう。わたしは元々、京香さんをファンなだけであって。〉

「なあ。素直になれよ。」

〈仮に、わたしが、京香さんを愛していたとして、そっちの方が迷惑だし、辛いですよ。もう死の宣告を受けている人間に愛されても、苦しいだけですよ。

 わたしは、白水京香さんを愛していませんよ。〉

「そうか。」




 声だけで二人の空気がピリついているのが分かった。ヒカミもその辺賢くて、切り上げて直ぐに電話を切ってしまった。




「サク。今の聞いてたか?おれは、ヒカミさんにだけ聞いてほしいってキアラさんに頼まれていたが、君の聴力なら、受話器の向こう側の声も聞こえてるんだろ。」


 やっぱりヒカミには敵わないなあ。あたしにも聞こえてるの前提にあたしにもわかるようにキアラに質問してたって事だろう。


『その。あの二人両想いって事で良いんだよね?』

「まあ多分な。でもお互いに気を遣って、ハクスイはお馴染みの自暴自棄。キアラさんは自分に嘘つくのに必死。

 キアラさんを殺そうとしている、シキさんは一体?一年前迷路で初めて会った時も、シキさんに刺されたとこから始まるわけだし。」


 そうか、シキの話はあたしはヒカミにも言ってなかったんだ。


『ごめん。あたしさ。キアラにもヒカミにも一個だけ言ってない話あったんだ?』

「なんだよ急に。」

『あたし、シキと会ったんだ。』


 露骨に顔に「どういう事だ?」書いてある。


『呪いを受けて、異形になってた。それが、キアラの対価とどう関わってくるのかは、あたしは馬鹿だから全然わからないんだけど。

 シキは【愛する人に殺されないと死ねない呪い】ってのを受けていて、キアラに殺して貰おうと。キアラを探してた。』

「その呪い。もっと詳しい話はないのか?」


 といってもあたしも根本的にな仕掛けを知っているわけではない。ただ、あの恐ろしく怖い……蟲が這い回って……


『思い出すだけで、怖いよ。ほら、もう鳥肌立ってる。

 皮膚の中に大量のゴキブリみたいな蟲が住み着いてて、シキが自分で手首を切った時、全く血が出ないで、そのゴキブリが全部傷口を塞いだんだよ。こんなにも死にたいのに死ねないって。』

「キアラさんに殺してもらいたいけど、キアラさんは殺してくれない。

 だがしかし、シキさんの方から本気でキアラさんを殺そうとすれば、正当防衛で殺してくれる……か。」

『あたしもそう思ったけど、そんな単純なもんで良いの?』

「単純じゃないさ。恋だとか愛だとかは人を強くもするし、狂わせもする。これで、キアラさんが頑なに自分の感情を肯定しないのも答えが見えてきたよ。」

『ごめん。あたし頭悪い。』

「これはサクが頭悪いんじゃなくて、本気で恋をしたことあるか無いかの違いで発想の着地点が見える人と見えない人でわかれるよ。」

『どうせあたしはお子様ですよ。で、そのお子様のあたしもわかるように説明すると。』

「キアラさんも同じ呪い受けている。」

『え?それってどういう意味?』


「ここでハクスイを愛してると自分で認めてしまったら、いずれハクスイがキアラさんを殺さないといけない時がくるからだろ。」


 だからキアラは頑なに否定をしていたのか。


「誰だって、どうにもならなくなったら、愛する人の腕の中で死にたいよ。でも愛する人の手を汚したいかと言ったら大半の人間がノーと答えるよ。」


 わからない。あたしはヒカミを違って死の淵まで行った事ないから分からない。そういうものなんだろうか。


「お互いが思い合ってるのは確かなのに、それを認めてしまったら、片方が片方を殺さないといけない呪い。」


 ヒカミは何か考えているようだから黙っておくべきだったんだろうけど、あたしは頭に思った事をふっと言葉にしてしまった。


『何か悲劇の戯曲みたいだね。』

「君にしては珍しい答えだね。」


 そんなに?まあ確かにインテリキャラでは無いけどね。自分で言っておいて悲劇の戯曲という言い回しは相当拗らせている。


『なんだろう。みんなの二場思想があたしにも伝染ってきたのかな。っても万年赤点のあたしだから、ただのまぐれで出てた言葉だと思うけどね。

 悲しいね。愛したその人に殺してもらわないといけない呪いって。どうしてそんな呪いとかあたしはアホだから分からないけど、あたしが半分狼になってしまったの一緒で、それが条理ってやつなんでしょ。』

「ああ。そうだな。因果応報ってやつだ。何かを望めば何か対価は必要となる。一見上手く行ったように見えても、しっぺ返しがあるんだよ。

 誰かを助ける欲は誰かを助けるために正しい力として形になり。自分だけを満たす欲は、それ相応の呪いを生み出す。君の爺さんが嘗て呪いに手を染めてしまったように。」

 



 最愛の人に愛してもらえないなら死んだ方がマシって普通の発想なんだろうか?

 根本的に恋を経験していないあたしにはやっぱり難しい世界だった。




 今日の夕飯もヒカミは元気が無かった。元気が無いというか純粋に考え事をしているというか。

 貴志さんはずっと元気が無いけど、まあ昨日よりはマシになった気がする。

 次の日も普通に起きて、あたしは昼間のうちに歩の息子を抱いて、少し外を歩いた。

 良い天気だ。歩がくれた雨で覆われない日。晴れの日幸せな日々。なんだかな。あたしも相変わらず心も頭も晴れない。外はこんなにも晴れてくれたのに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ