不条識な狼の理63
♗63
『がふっ、』
そんな声。
グエエと嘔吐の時の喉が逆流する感じがして意識が戻ってくる。
鼻と口からゆるゆると、温い液体が流れる感じがして、体勢を整えて、力まずに、体内から出したい液体を出した。
何度が咳き込み、あたしの吐瀉物を受け止める地面を見て、ここが海岸沿いであることがわかる。そして、自分が吐き出したものが、水なのも分かる。
「お願い。意識あるなら手伝って。」
ハクスイの声。
「サク!起きてるんでしょ。私だって限界よ。」
ハクスイを見ると、月明かりの下、彼女は着物を脱ぎ、つい数時間前に見た、如何わしい姿で、寝ているヒカミに口づけをしている。
じゃなくて、人工呼吸だ。
「何してんの、早く、私が先にくたばるわよ。どっちか代わって。」
一、二、三、四、五、六と、ハクスイが数を数えながら、ヒカミの胸骨を圧迫する。
汗だくになって、心臓マッサージを続けるハクスイを見て察した。多分。ハクスイ、あたしの事もつまりは二人分心配蘇生法をやってたんだと。
『ごめん。どうやれば良いの?』
あたしはハクスイの横について、やり方を教わった。
十五秒間に十五回圧迫して、人工呼吸を一回。これの繰り返し、どっちかといえば、心臓マッサージの方が体力を使う感じだったので、あたしがそっちを担当した。
ヒカミの体は冷たかった。
「とりあえず、このまま続けて、ヒカミの呼吸が戻って、来たら、二人で身体寄せ合って、温めるわよ。このままだと低体温症ね。」
まだ、始めてから、二分ぐらいしか経ってないと思うけど、あたしも、汗をかき始めた。めちゃくちゃ疲れる。ハクスイ、これを二人分、やってたの?どうやって?
今までは二人分、心肺蘇生をやってたのに、一人分の人工呼吸だけになった、ハクスイは相当余裕が出てきたらしく、数を数えているあたしに向かって喋り始めた。
「初めて、サクの唇奪ったけどさ。」
会話の始まりそれ?
『五、六、七、なん、で今話、す』
数を数えながらなので、言葉が変なところで切れるのは仕方ない。
「貴方、骨格が変わって、顎の形がだいぶ犬型だから、人工呼吸大変だったのよ。空気が口から漏れるのよ。」
そして、ハクスイはまたヒカミの口に自らの口を当てがい、空気を入れる。漏れることなく、綺麗に入り、ヒカミの胸が膨らむ。
『仕方ないでしょ。そういう形なんだから。』
ハクスイが呼気を入れ終わったの確認して、あたしはまたヒカミの胸骨を押そうとしたら、ハクスイが静止をかけるように、あたしの手を掴んだ。
そのまま、ゆっくり、ヒカミの身体を横に傾けると、ヒカミの口から、ゆるゆると水が溢れ始めた。
さらに、ハクスイはまたヒカミの唇に口を当てると、ヒカミが咳き込み出した。
そっと、顔を外して、ハクスイは口から水を吐き出す。吸い出したんだ。多分。
咳き込みながら、ヒカミが自らうつ伏せになって、咳き込む。
動くってことは意識が、戻ったんだ!
ヒカミはあたし達の方を見て、虚ろに目開き。
「寒い。」
一言だけ溢して。また目を瞑った。
良かった。生きてる。まだ朦朧としてるんだろうけど、ちゃんと喋った。声が聞けた。
「とりあえず、ヤマは越えたわね。あとは迎えが来るまで、温めれば。」
ハクスイが何か喋ってたけど、ヒカミが動いたのを見てあたしは安心して疲れてしまった。
ずるっと身体が重くなり、あたしの身体は砂浜に沈んだ。
なんとなく、遠くの方でハクスイの声が聞こえるけど、なんかもう全部どうでも良くなって、意識はどんどん沈んでいく。ほら、もうやりきった。
会った事のない、ヒカミのお兄さんへ。
ヒーちゃんは無事護りました。




