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不条識な狼の理60

♗60


 そして、その時は来た。



 地鳴り。地震。爆発したのだ。



「おい。待てよ。早くないか?絶対三十分経ってねえぞ。」


 確かにそんなに時間が経った気はしない。せいぜい十五分程度の気が。

 壁も地面もまだ揺れる。むしろ揺れが大きくなっていく。


「待って。止まった方が良いと思うわ。三人で出来るだけ集まって、頭を守って伏せて。」


 ハクスイの指示に促され、あたしは二人のそばで伏せる。揺れは尚収まらず、こんなに湿気てるのに土煙が起きてあたしは目を瞑る。


「くっそ。どっか崩落しやがったな。」


 崩落という言葉を聞いて、あたしは、歩は無事かな?と言いそうになった。

 何を寝ぼけた事を考えてるんだ。歩が犠牲になったから、崩落が起きたんだ。

 少し待って、揺れは治まった。

 すぐにヒカミは立ち上がる。


「急ごう。いつ次の崩落が来るかわからねえ。」


 確かにその通りだ。あたしはヒカミに続いた。



 が、問題はすぐにやってきた。




 洞窟の勾配。また下りだ。それだけなら良い。下がるだけだ。しかし大問題だ。

 水が張ってるのだ。水たまりとかじゃなくて、こっから先が全部水なのだ。

 小さな川のように、進行方向でずっと流れてはいるけど、もうこの時点で、一度潜水しないと通れないような天井が水面に迫った場所も見える。もちろん。歩ける地面なんて存在しない。どこか岩壁から常に水は流れ続け、こっから、十歩先は完全に水に浸からないと進めない。

 ここから、松明で見える範囲でも、もう既に人一人通れるぐらいの狭い水路もある。


「なかなかのハードモードじゃない?あの一番奥なんて、私の身体のデカさで通れるかも微妙よね。」


 ハクスイが、水の流れを手で掬って確認する。


「やっぱり、進行方向と水の流れが一緒ね。ってことは水の流れに任せていけば、必然的に外に出れそうね。」

『ねえどうして、水の流通りにいけば外に出れるの?

もうこっから先ずっと水だからどちらにせよ道はこっちしかないんだけど。』


 今の頭の悪い質問はあたし。


「勾配だよ。最初、この洞窟入る時に、かなり山道をバイクで登ってきたろ。だから入り口は高度が高い所、出口に関しては、満潮で沈むほどの低地にある。まあ普通に考えて、水は高い所から低い所に流れるからね。」


 とヒカミ。


「っても、歩は完全にこの出口は安全に通れる程で、私たちを今回の作戦の頭数に入れたって口ぶりだったじゃない。

 見渡す限り、プロでも厳しそうな潜水だけど、この道多分本来は水で溢れてなかった。つまり酸素も強度も本来は十分だった道って事よね。

 それが、さっきの崩落でた偶々、近辺に本来流れていいた川や、今も多分外で降り続けている大雨がこのルートに流れつくようになってしまった。

 なら、水の流れに任せて、冷静に進めば、必ず出口に出れる。」


「だな。冷静にいけたらだな。」

「そうね。多分ここから先、松明も使えなくなるから、暗闇を手探りで、常に冷静に水の流れに沿って進むしかない。」


 ハクスイはさらっと怖い事言った。暗闇の中の水を進むって、プロのダイバーだってやらない事じゃん。ああいう人たちって頭にライトつけてるし。


「水の中って、どっちが上で。どっちが下か分からなくなんだよな。」

 ヒカミは目を伏せながら言うけど、その発言はヒカミの体験談から来るもので、ヒカミの人生最大のトラウマの……

「ってか、さっきのサクの話でいうと、ヒカミって泳げないんじゃ。」


 ハクスイは記憶ないから知らないだろうけどヒカミは泳げないどころか、水はトラウマで

 あたしが何か口を開く前に、ヒカミはあたしの服を引っ張った。あたしを制止するように。


「ああ、あれね。小さい頃は泳げなかったってだけの話だよ。さすがにもう泳げるよ。おれ、体育の成績ちゃんと五だし。」


 嘘だ。そんなの嘘だ。

 あたしはヒカミを見ると、ヒカミはあたしに目で訴えてくる。「ハクスイには黙っておけ」と。


「あら。そうなの。じゃあ問題なさそうね。サクは?」

『あたしは……』


 ハクスイ。違うよ。ヒカミは嘘をついてるんだよ。気付いてよ。いつものハクスイなら気付くじゃん。


「サクは、ここぞいうところでドジ踏むからなぁ。おまけに無駄に体力あるせいで、水の流れに逆らって泳いでも気付かないで間違った道を進みそうで怖いな。

 んじゃ、こうしようぜ。

 体力も判断力も、あと可能性も全部加味して。ハクスイが先頭で行く。

 んで後からサクとおれが一緒に行こう。

 さすがに狭い道で三人一組は無理として、二人一組ならまあ様子見て距離をとりながらでも何とか行けるだろ。元々は安全な道だったところが、水で溢れてるだけなんだし。」


「そうね。それが一番賢い選択ね。正直言って、私無駄に大きいのと、しかもこの刀も意地で持っていくつもりだから、はぐれないように、あんまり近付くとかえってぶつかって危ない。

 ヒカミとサクの二人一組なら、ヒカミの尻尾をロープ代わりにして進めば、流れの強いところでもなんとかなりそうだから、サクを一人にしなくて済みそうだし。」

「んなら。決まりだ。先行ってくれ。」


 ハクスイ。何言っているの?一人にして、一番危なっかしいのは、あたしじゃなくてヒカミだって。


『ハクスイ、あのね。』

「その簪。キアラに作ってもらった大事なものだから、落とさないようにしろだって。」


 あたしがハクスイを止めようとした瞬間、ヒカミがまるで、あたしの言葉を代弁する体で遮った。でも代弁なんて何一つ出来てない。あたしは、ヒカミは本当は水が怖いって伝えたくって。

 すっと。腰に尖るものが当たる感じがした。

 視線だけを後ろに動かすと。ヒカミが手片方だけの手袋を持っていた。そう。あたしの死角で鋭利な右手の方の手袋だけ、外して、あたしの腰に立てている。ハクスイに絶対に喋るな、と言いたげに。


「あら。そうなの。この簪。使い勝手が良いから愛用してたけど、オーダーメイドものだったのね。大事にしないと。」


 そう言いながら、ハクスイは簪を外して、胸元にしまった。そして、腰の刀をもう一度帯で身体に巻き直す。


「そいじゃ。あとでな。気をつけてな。」

「余裕。余裕。首絞めプレイで鍛えた潜水は見ものよ。」



 さらっと、凄いことを言い、ハクスイは、歩いて進み、水がどんどん、足から腰、そしてハクスイの肩まで、達して、ハクスイは潜って、波打ちだけを残して、もう松明の光では見えなくなってしまった。

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