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不条識な狼の理59

♗59


「まあ。気になるのは理由だよな。そんな身構えないでラフに聞いてくれ。ただの役回り、まあほらアイツの言葉を借りればあれだ。条理ってやつだよ。そうあるべき事柄。流れ。

 まず、此処の情報を全て知っていた理由から説明しよう。なぜアタイらSOAがノア教の雨ふらし計画や、この雨降らしマシンがここにあり、出口は別の海岸洞窟じゃないと出れないこの洞窟内部の構造を知っていたかの話だが。


 実はノア教の中にも平和主義者がいてね。世界を雨で包んでノア教以外の人類を滅ぼそうという計画に反対だった者もいるんだ。

 そのノア教の中でも、計画反対側の者達は中立派とSOAに情報提供をしてくれた。それで、今回この地下洞窟のノア教の雨ふらしマシンのぶっ壊し作戦が出来たわけだ。


 さて、SOAと中立派の関係だが、元々は中立派とSOAは別組織なんだ。

 元々あったのが、ノア教にもムハ教にも属さないで権力を持つ、名も無き中立派という立場だったが、名も無きと言うだけあって、本当にこの二つの宗派に反対意見を持った人々の自主的な集まりであり組織系統なんてものは無かった。


 その名も無き中立派がSOAと密接になった切っ掛けは一年前のアタイが左腕を対価で持ってかれた時だ。

 アタイは砂漠で出血大量で、生きるか死ぬかの時を、中立派に拾われ、この義手をもらう代わりに、ノア教ムハ教で大きなテロがあった時に、アタイの義手は力を発揮するという契約を交わし。命拾いした。


 その時にアタイの身柄引き取り人として現れたのがSOAだったんだ。もちろんアタイは元の世界にいた時は、SOAの頭張ってるからね。頭のアタイを助けた中立派をSOAは放っておくはずがない。何せ借りだからね。


 あとは意気投合ってのもあったかな。どの道、ノア教とムハ教はどんどん拡大して、組織も戦力も大きくなる。これは放ってはおけないと、中立派とSOAの関係はより密接になり、今の三権力目としてこの世界で確立した。

 さあ、それだけの話で済めば。戦争が起こるたびに、アタイが凄腕の傭兵として、この義手で戦って勝って帰って来れば何も問題ない。勝てば良い。元の世界にいた時と何ら変わりない。勝てばいい。勝てば生きれる。

 しかし、今回ばっかりはアタイに課せられた使命は、ここの機械を壊すと同時に、死ぬことだ。」







 歩はすらすらと語った。自分の話なのに、まるで他人の話をしているようだった。


「歩。計画にはその義手が必要って言ってたよな。爆弾かなんか積んであるのか?だったら、腕だけ外して、一緒に脱出できないのか?」


「そう出来たら、そうしたいんだが。

 出来ないからこんな状況なんだよな。

 まあ。アタイはこっちの世界でタカと再会できたし、子供もできた。こっちの世界で幸せを見つけたし、アタイ以外のSOAのメンツもこっちではそれなりに幸せに生きてる。だからこっちの世界の平和の為にも、この機械を壊して。存在してはいけないこの義手ごとアタイは消えるしかない。」


「存在してはいけない。義手。いや、その義手の中身。」


 どうやら、ヒカミは一足先に歩の義手の秘密に気づいたようだ。

 こればっかりは無理だと、四つん這いに項垂れた。その様子を、見てハクスイは露骨に頭を掻き毟る。ハクスイもきっと気付いてしまった。歩の腕の秘密に。

 この世界に存在してはいけないものって一体……いやそれは元の世界には存在した何かだって事だよね。二人がこうも露骨に反応するってのは。元の世界で存在してはいけなかったものって……?


「察しが良いなあ、二人とも。この状況下でもまだわからないのが、流石はサクだよな。お前のそういうところ好きだよ。いや馬鹿にしてないって、そのなんていうかな。抜けたキャラなところ。」


 そう言われてしまっても。


『ごめん。本当にあたしわからないや。ごめん馬鹿で。』

「良いんだよ。ここで四人で辛気臭い面するより、一人だけでもこんな奴が居ることによってアタイも救われるよ。」

「なあ。歩。どうにかして、腕だけ取れねえのかよ。」


「それが、出来ないんだよ。神経ごとつないで、腕の中では常に、分裂を繰り返しエネルギーを生み出している。

 発動条件は、アタイの死か、神経とこの腕が切断された時。この二つの場合は即時作動するけど、もう一つの発動条件が、アタイがこれの中身をアタイの声で発音した時、三十分後に作動する。」

「そうか。腕を切ったらその時点で巻き込まれるのか。」

 分裂を繰り返してエネルギー……?

「そういう事だ。だから、ここで、さよならするしかないんだ。」


 その中身が何なのか、あたしにはまだ分からないけど、ヒカミとハクスイの反応から察するに、きっと避けようのない残酷な現実なんだろう。





 歩が座り込んで、項垂れるヒカミを抱きしめた。


「ヒカミ。お前に会えてよかった。一年前初めて会った時狼程度で大怪我してんなよ。ダセぇとか思ったりしたけど、よくよく考えたら、自分の大切な人も、自分の命と同じぐらい大事だもんな。迂闊に攻撃できねえよ。

 あの時、アタイが助けに行くまで気張ってくれてありがとな。おかげで誰も死なずに合流できて、ミノタウルスもお前の活躍で勝てたよ。

 そして、いろいろあったけど、またこうして出会ってくれてありがとな。」

「馬鹿言ってんなよ。そもそも、おれは君に、二回も命救われてんだぜ。

 はは。今から三回目も救われちまうな。歩アホだろ。お人好し過ぎるぜ。

 ありがとな。君からはもらい過ぎたよ。出会えて良かった。」




 次に歩は、あたしを抱きしめてくれた。


「サク。お前は本当に面白いやつだよな。アタイさ、二場に最初酷いこと言われてさ。運命を変えたくば、狼を仲間にしろって言われたから、お前の力に固執して、お前を利用してやろうって、最初はそういう魂胆だったから、お前という人間性とかどうでも良かったんだ最初。

 でもさ、話せば話すほど、お前アホ過ぎて面白くてさ。人一倍アホな分、人一倍良い奴でさ。めちゃくちゃ頭の良い、ヒカミとシラミズがお前のこと損得勘定じゃなくて、本当に親友として家族のように傍にいる理由がお前の人間性にあるんだなと気付いて、なんかそれが羨ましくってさ。

 お前。アタイに持ってないものめっちゃ持ってるんだ。これからもそれを失うなよ。出会えて良かった。」

『褒められてんのか、貶されてるのか分かんないよ。

 あたし。弱虫でダメダメだったけど、歩のお陰で強くなれた。歩の背中が憧れだった。ありがとう。』




 次に歩はハクスイのところへ


「お前には言いたいこと、沢山あったんだけどなぁ。記憶無いんじゃ何て喋ったら良いかわかんねえよ。とりあえず、男遊びは大概にしろよ。一人を選んで、子供が生まれる人生もまた楽しいぜ。ってもアタイは息子の成長を最後まで見届けられないのが物凄い心残りなんだけどな。

 そうか。もし、お前らがキアラの救済案でこの世界をゴールできたら、お前も記憶を取り戻して、元の世界に戻ってくるのかな?よくわかんねえが、もしお前が記憶を取り戻して、あの日常に戻れたら、連絡くれよ。番号変えてねえから。」

「わかったわ。必ずクリアする。そのキアラの救済案ってのは今はまだわからないけど、全部とり返せたら、必ず連絡する。私には記憶はないけど、あなたが間違いなく仲間であったことは、しっかり解かった。それくらい、説得力強いってか。あなたの背中は大きいのよ。

 ありがとう。」




【奇跡ってのは絶対に起こらないから、

             いつだって取捨選択だ。】




「ごめんな。一人でここに死にに来るの怖かったんだ。

 最後にこうやった思い出作りたかったんだ。巻き込んですまねえ。そして付き合ってくれてありがとう。これで心おきなく死ねる。

 アタイの生きた証をちゃんとお前らに託せる。」



 歩は。少し、離れてから、あたしたち人一人の顔を見て。



「ありがとな。さあ、もう行ってくれ、後三十分で、ここは全部吹っ飛ぶ。早く、この出口から、ずっと真っ直ぐ進んで海岸洞窟を目指してくれ。」



 真っ直ぐ進んで。そう言った歩の目は今まで見たことない涙で溢れていた。


「さあ。行けよ。」


 出口のドアを開けて、歩があたしたちを押し出す。


「なあ、歩。その腕の中身さ。」



 ヒカミの言葉を遮るように、歩は言った。



「ウラン、」



 カチッ



 歩の義手からは何かのギミックが動く音がした。

 ヒカミはやっぱりな、と小さく呟く。


「さ。もう三十分しかねえ。行きな。」




 歩は、あたしたちの背中を三人とも一人ずつ押した。


「歩。必ずクリアする。大丈夫だおれ頭良いから、絶対クリアしてみせる。だからその日常に戻れたら猪食いに行こうぜ。」

「そんな約束もあったな。ありがとな。期待してる。でもな。お前の力を勘ぐってるわけじゃなねえけど。万が一クリア出来なかったとしても。

 アタイはこの人生に後悔はないよ。短い時間だったけど、尊くて幸せな時間だった。」





 こうして、あたしたちは歩と別れて、出口の海岸洞窟を目指して、早歩きで進み始めた。

 あたしたち三人は、誰も言葉発しなかった。ただそれぞれの思いを胸に。黙って進む。




(奇跡ってのは絶対に起こらないから、いつだって取捨選択だ。)

(アタイの選択は。間違ってねえよ。)

(楽しかったよ。)




 多分。あたしの聴力だからこそ聞き取れたんだと思う。


 歩。あたしも楽しかったよ。

 ねえ。絶対救い出すから。少しの間だけ待っててね。

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