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不条識な狼の理54

♗54


 非常に申し訳ない状況だが。

 頭の悪いあたしは、この三人の会話ペースについていけず、頭の良いヒカミに、あたしにでもわかるように解説してもらう。という状況であった。





「だから。この世界。おれたちが今いる、こっち弐番世界W・Iシステム。魂の実験設備。この世界の存続を望むのが佐竹派。崩壊を望むのが二場派。

 なぜ、この世界のテコ入れを佐竹がやった確証があるのかというと、一番のヒントは通貨だ。

 大和国で円が崩壊したのは、旧大和国の令和時代の終わりと同時に、円と旧大和国は崩壊した。更栄時代に入っても、すぐにドルに切り替わらず、インフレのまま、円は使われ続け、実際ドルに変更が済んだのは更栄三年に入ってからだ。ってことは、この世界に円を持ち込んだのは、更栄三年までのこの世界の試作段階で、出入りできた人間に限られてくる。

 まー簡単に考えて、この世界はおれたち若い世代しか入ってこれないから、おれたち世代で通貨を作ったのならドルが動いてる。しかし、円が動いてたから平成、令和生まれの大人がテコ入れしたと考えられる。

 この世界に大人の状態で入ってこれたのはあの二人だけ。

 そして、二人のうちでも佐竹が存続派。

 となると、この世界に円という通貨を持ち込みなるべく繁栄させようと、佐竹は動いていた。どう?理解できた?」



『円を持ち込んだのは佐竹。そして、この世界を繁栄させようとしている。二場はこの世界を壊そうとしてる。』


 あたしは理解したことを確認用に復唱した。


「そうだ。そういうことだ。」


 ああ。やっと合格した。どうして他の三人は短い説明でもここまで察してしまうのだろう。元の地頭のスペックが違う。


「それでいくと、私も佐竹派につくわね。」


 ハクスイは、寝ている赤ん坊の、頬を指で突きながら言う。


「だって、崩壊したらせっかくこっちの世界で生まれてきたこの子の魂はどうなるの?歩と貴志さんの子供であるこの子は消えちゃう事になるんでしょ。それっておかしく無い?」



「僕ら夫婦が佐竹派につく理由もそれです。やはり家族を残したまま、自分たちだけで元の世界に戻るのは何か違う気がして。SOAのメンバーも僕らと同じようにこちらで結婚して家族が出来た者もいます。

 なので、僕ら夫婦はどんな事をがあっても、この世界を守ると決めたのです。

 それが佐竹派と二場派の論争によるこの世界の外側からの意見でなく。

 ノア教とムハ教の二大勢力のこの世界の内側からの意見からも。」


「反逆か?実質三権じゃねえの?それ。」


 今のヒカミの返しの意味が全くわからない。

 どうやら、あたしも顔に『分からない』ってちゃんと書いてたみたいで、ヒカミが補足説明をくれた。


「んと。二場佐竹の話はこれで一旦終わりな。とりあえず、ハクスイもそう言うし、おれ達暫定佐竹派で。

 で、今貴志さんが話をしているのが、ノア教とムハ教の揉め事からも、守りたいって言ってるの。おけ?」

『うん。』


 でも。それが何?


「SOAと先程言っていた、中立派と呼称される一派は、実質三権力目にあたる。貴志さん。合ってますよね?」

「お察しの通りです。妻からも聞いていましが、さすがヒカミさんは察しが早い。」


 えーっと。


「まず、三権の重要性から説明しようか。

 A国B国C国の三国しかない世界で、どの国もが、同じ国力で世界統一を望んでるとする。

 しかし、三国あるもんだから、もし、A国がB国に攻め込んだら、B国はもちろんA国に抵抗する。

 A国とB国はお互いに兵力を削ぎあい。疲弊したタイミングでC国が攻め込んでくる。

 となると優勝はC国だ。つまり三権で支えられてる以上、一番最後に仕掛けたやつが、大きな犠牲の上で、一番になれるってシステムだ。」


『うん。』

「これが四権力だったら、二対二で手を組んでって構図にもなりうるが、基本的には三権ってのはA国とB国が組んで、C国を潰したところで、最終的に待ってるのはA国とB国の潰し合いだからな。」

『なんで?三国で仲良く出来ないの?』


「うーん。君はやはりその辺平和主義というか。旧大和国崩壊のキッカケぐらい学校の授業でやったろ。

 世界的な金融危機で、大きなカネってのは基本的に争いが起きないと生まれないから。東大国と北大国と西大国の関係性は、史上最大の緊迫状態にあった。

 どこが先に核兵器ぶっ放すかって瀬戸際で、旧大和国による平和作戦で、表向きは円の崩壊として、円の経済圏を世界に寄付したわけだよ。それが旧大和国と円の崩壊。更栄の大改革だ。」


『うん。それで世界的に経済を持ち直したってテストに出た。』

「なら。おれがさっき説明した、A国とB国とC国の話。東大国、北大国、西大国に置き換えたら、まあ仲良く出来ない事ぐらいわかるだろ。」


 あっ。そういう事か。


「それで今こっちの弐世界W・Iシステムではノア教、ムハ教、SOAプラス中立派でこの三国関係に陥ってるってわけ。」


 なんでこの人は少ない情報で、ここまで理解できるんだろう。

 まあ、〔南懐〕〔那坐〕そして、〔SOA〕まで一緒に動いて、各地の情勢とかをあたしには理解できない視点で見てたからなんだろうけど。


「ジョーカーはノア教ね。」


 意外にも、ここでの発言はハクスイだった。


「ヒカミは一年間寝てたし、サクもムハ教自治から最近こっちに来たから知らないだろうけど、ここ一年〔那坐〕で風俗嬢やってた私からしてみれば、ここ二ヶ月のノア教の動きは怪しさしかないわね。」

「シラミズさん。僕らもある程度情報は持ってますが、そのシラミズさんの職業でしか知り得ない情報とかありませんか?」

「だいぶ、頭の沸いたカルト教よ。最近に成ってから、お揃いの刺青の人が増えたのよ。服を脱がないと見えない位置に。見える位置なら自己誇示とかで説明つくけど、見えない位置にみんなでお揃いってのが気持ち悪いのよ。カップルみたいで。」

「カップルじゃなくても、少なくとも、君の穴兄弟なのは事実だな。」


 と今の下ネタボケはヒカミのツッコミ。


「そ。ファミリィなのよね。」


 しかし、返しのハクスイは割と、真面目な顔だ。

 え?同じ女性を共有しているって下ネタじゃないの?話してることはいつものボケみたいなのに、すごくシリアスに話してる。

 話についてこれないあたしに貴志さんは気づいてフォローを入れてくれた。


「僕らのような半グレヤンキーの身分だとたまにやるんですよ。兄貴分や親分の名前彫ったりとか。忠誠心を自分でも失わないように。家族のように覚悟を決めるというやつです。しくったら一家心中ぐらいの覚悟があるっていえば伝わりますかね?」


 うわ。それって自分の先輩の名前を自分の身体に彫るって事だよね。嫌だな。あたしだって腹に刺青入れまくってるけど、これは仕方なくだし。

 普通に、あたしがヒカミやハクスイの名前彫ってたら周りの人ドン退くじゃん。そんなのって。


『要は、絶対に忠誠を誓う家族みたいな集まりってこと?』

「まあ、ニュアンス的には、ほら。余程酷い事があっても親のことはなかなか裏切れないでしょう。」


 確かに。あのスーパー貧民である樫山家の両親は、食べ物を用意できず、幼い頃のあたしは何度も両親を恨んだが、両親を裏切って、どこかに家出したいかと聞かれればそういうことはない。


『つまり、ハクスイが相手したお客さんのノア教の人たちはお揃いの刺青を入れて、物凄い忠誠心で動いてるって事?』

「そうだ。正解。ただ歩や貴志さんたちみたいな義侠心ならまだ、話せる相手なんだが、如何せん宗教が絡んでくると、おれの経験談。だいたい話が通用しない奴しかいねえ。」


 あたしはハクスイに聞いたつもりだったのに今の返答はヒカミだった。


「そうなのよ。私も営業中に何度営業かけられた事か。

 間も無く裁きの雨が降るから、ノア教の信者じゃないと救われないって。本気で世界を包む大雨が降り続けるって信じてるのよ。彼ら。」


 って今度こそハクスイが答えてくれたけど、そもそもあたしはノア教の雨が降るだの話のクダリを全くもって知らない。


『ねえ本当に毎回、話の腰折ってごめん。あたしアホだからさ。そもそもノア教の雨の話って何で雨が降るって恐れてるの?』


 あたしが、そう言うと、三人が驚いた様子であたしを見る。やっぱり一般教養なのか……


「まあ、ノア教自体。聖書のノアの箱舟がモデルになってると思う。その前提でまずはノアの箱船の解説をしようか。

 ノアっていう正しく神様を信仰する一家がいて、そいつにはある日神様の声が聞こえたんだ。

 間も無く、大雨で人類を一度リセットする予定だから、でかい箱船を作って、そこに家族と、動物と鳥と雌雄つがいで乗り込んで、雨を乗り越えろと。

 そして、箱船を作り終わり、ノア一家は箱船に乗りこむと、大雨が降り始めた。

 その雨は水で地球を包み込むまで振り続け、ノアの箱船に乗船していた者以外は滅びてしまった。

 そして、今生きているおれたちはみんな、ノアを先祖にしていると。終わり。ちゃんちゃん。」


 なにそれ。


『スーパーお伽話じゃん。』

「そうよ。その通りよ。でも私が接客したあのカルト軍団たちは等しくそれを信じてるのよ。こんな雨の降らない土地で。」





 ふと。今のハクスイの雨の降らない土地で。という発言で、この場の四人で一気に不穏な空気が流れた。



 雨の降らない土地。

 ハクスイはそう言った。事実だろう。小規模とはいえ砂漠が出来るぐらいだし。何より、ハクスイは一年あの街に住んで体感している。雨の降らない事を。


 しかし。聞こえるのだ。

 降り始めたばかりの雨音が。



「降ってるわね。雨。」


 さすがにハクスイも驚きを隠せないと言った感じだ。

 窓から見える景色は暗く、サーと小さな音で雨は本降りへ姿を変える。


「彼らのカルト信仰儀式で雨が降る降らないは置いといて。」


 徐に貴志さんは言った。


「もし、この雨が科学的な力で、奴らが降らしたものだとしたら?」

「馬鹿言ってんなよ。戦争おっ始める気かよ。」


 明らかに嫌そうにヒカミは言う。


「今から。SOAが掴んだノア計画の話をします。」



 貴志さんはまた、飲みづらそうに、カップの珈琲を飲んでから、一連の計画の話を話し始めた。

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