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不条識な狼の理52

♗52


 肩を揺らされて、あたしは目覚めた。

 うつらうつらと霞む視界にぼうっと、見覚えのある長髪が映る。


「おはよ。」


 朝から、美人に起こしてもらうというのは全ての男性にとって憧れだろうけど、あたしからしてみれば、ハクスイに起こしてもらったところで別段嬉しいわけでもない。


『んあ。おはよう。もう身体問題ないの?』


 あたしは起き上がりながら、肩を動かす。流石に床で寝ると身体が痛い。


「おかげさまで。もう問題ないわよ。助かったわ。ありがとう。」




 昨日は夜中に、ここ歩の診療所に着き、着いて早々。臭いから身体を洗えと命じられ。

 なんだかんだで、身体洗って、戻ってきたら、あまりの疲れでそのまま床で寝てしまったというところだ。

 あたしは今ハクスイに起こされてちゃんと起きれたが良いが、問題は、


「ヒカミがね。さっきから起こそうとしてるんだけど、一向に起きる気配がないのよね。流石、三大欲求の睡眠欲担当なだけあるわよね。」


 そうなのだ。あたしの隣で両腕を万歳の体制で、涎を垂らしながら気持ち良さそうに寝ているヒカミは……あたしの経験則でいうと、涎を垂らしながら寝てる時は完全に熟睡モードなので、起きることはない。そこが布団じゃなくても、床であろう。電車の座席であろう、本当に起きない。


「何回も起こそうとしてるんだけどね。」


 ハクスイはそう言いながらも、ヒカミの肩を揺らすけど、一向に起きる気配がない。


『ああ。まだ時間あるなら寝かしてあげて。多分疲れてるだろうから、起きないよ。』

「そう。じゃあまだ寝かしておきましょう。歩の旦那さんが朝ごはん用意してくれたから、向こうの部屋に来てって。」

『へ?歩結婚してたの?』

「そうよ。男の子も生まれてるし。あっ、おチビさんは今寝てるから、大きな音は立てないであげてね。」


 さらっと新情報が多すぎる。この一年で歩は結婚して、子供まで生んでいたとは。

 ハクスイは、一度あたしを見て、人差し指を顔の前に立て、シーっとジェスチャーをしてから、ゆっくりと扉を開けた。




 しかし、静かにと念を押されたのに、ドアの向こうを見た瞬間にあたしは早速大声を上げそうになって……ハクスイに口を押さえられた。

 それはまあ、大声出すほどの理由がなければ大声を上げることもないわけで。

 状況を説明すると、ドアの向こうには、牛がいた。デカイ人へのディスの言い回しじゃなくて、うん。牛。というか牛頭。そして、フォルムは人間に近くて、頭だけ牛。なんだか被り物でもしているかのように牛。

 そう。知ってる。散々な思いをして戦った。



『ミノタウルス……』


 あの迷路で戦った、あのフォルムに間違いなかった。

 違いは、まああたしたちが戦ったあのデカ物じゃなくてハクスイと同じぐらいの大きさで(って考えるハクスイもデカすぎなんだが)甲冑を被っていない、生身の牛頭が出てる事だ。


「サク、ビビリすぎじゃない?貴方、自分が狼だって事忘れて反応してない?」

「自分もオバケなのに他のオバケを見ると怖がる理論と同じですよね。ささ。どうぞどうぞ座ってください。」



 あたしの動揺をよそに、ハクスイは至って冷静だし、ミノタウルスは、あたしをテーブルの席へと促す。

 というか、ハクスイが冷静なのは、あのミノタウルスとの戦いの記憶を失ってるせいで、あたしと同じように、【異形】としか見ていないせいで冷静なのか。

 人狼もグリフォンも蟲飼いも全ては【異形】にくくられる。佐竹が作り出した異形に。つまりはこのミノタウルスも、佐竹による……

 あたしは、この目の前のミノタウルスにまず聞きたかったのはその異形の経緯であった。生まれつきなのか、佐竹のせい、または他の要因なのか?

 しかし、先手で予想外過ぎる発言であたしはまたフリーズする。





「はじめまして、サクさん。歩の旦那のタカシです。貴族の貴に、志すで貴志です。すみません。モブキャラ臭プンプンする普通の名前ですが、ミノタウルスの貴志です。どうぞよろしく。」


 歩の旦那?

 ミノタウルスが!?


「やー貴志さん。うちのチームにも田中がいるので、大丈夫ですよ。私だって、本名は京香なので。本当にモブ臭強めの古く臭い名前よね。この更栄のご時世で、平成ネームですよ。」


 なんのフォローかわからない。それを言ったらあたしだって、〔さくら〕って平成ネームだと思う。

 というか、掘り下げるとこそこじゃないって。

 まずは牛なのと、歩の旦那ってクダリからさ。


「とりあえず、ご飯冷めちゃうので、頂きましょう。味噌汁以外は、僕が作りました。味噌汁は昨日の夕飯で妻が作ったものを温め直しただけです。お口に合えば良いのですが。」


 この状況下で、飯を食おうとするな。

 何が、どうして、侍と狼と牛で食卓を囲む事になった?ついでに言うと本来一番早起きの生き物である鳥は寝てるし、いやアイツの場合、猫でもあるから、寝てばっかなのか?いやあたしこそずれてる。そもそも歩どこいった?あんたの家だし、あんたの旦那だろ。説明放棄していてなぜ姿を現さない?


『あ、歩は?』


 とりあえず、歩の所在を尋ねた。


「ああ、妻は朝一で〔塔下街〕へ血清を届けてるんですよ。夕方には帰ってきますので、それまで皆様ゆっくり過ごしてください。」


 そう言いながら、貴志さんは、あたしにご飯をよそった茶碗を渡してくる。


「ご飯おかわりあるので、遠慮なく。」


 とりあえず。この謎の過ぎる三人の組み合わせで朝食を終えないと、次の話には進めないらしい。

 三人で席に着き、頂きますと号令がかかる。めっちゃシュール。

 そして、割りかし和食風なのも気になるところ。この世界に来て、まともな和食ってのを久々に見た気がする。




「和食が食べれるのは、ここ中立派SOAは宗教思想が根付いてないせいですよ。ノア教とムハ教が仕切ってる街はどうしても、戒律で食べれないものが出てくるので食生活に偏りが出ます。あとは純粋に街の貧富の差ですかね。SOAは動力機の工業系エンジンでだいぶお金を持っている自治体ではあるので、米とかも遠方から買う事が出来るんですよ。ここだと、雨が少ないので、美味しい米はなかなか育てられないので。」


 貴志さんは、食べながら、この食事と文化について説明してくれるけど、そんな事よりあたしは、何でミノタウルスと歩が結婚してるのかが気になって仕方ない。




「そのノア教なんだが、おれも気がかりなことがあるので、ちょっと聞きたい。」


 そう聞こえて、後ろを振り向くと、ヒカミが立っていた。


『ヒカミ。起きたの?』

「なんか胸騒ぎがしてな。」



 嘘つけ。さっきまで爆睡してたろ。

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