不条識な狼の理51
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歩の診療所に着いた時は、久々の歩との再会とハクスイの血清も間に合ったという事で安心で沢山喋りたい事があったけど、正直言ってあたしもヒカミもあの砂漠越えで身体の疲れが限界に達していて、どこでも良いから直ぐにでも寝たかった。
なのに、歩ときたら、
「お前らここを何処だと思っている?」
再会最初の言葉がそれ。
『どこって、歩の自宅?下宿先?』
「自宅ってのは間違ってねえが、第一に医療施設だ。お前らみてえな不衛生なや奴は入れられねーよ。」
うっ……確かに。ヒカミはまだ砂と汗だけだからまあ汚い人で済むけど、あたしに至っては人とは違う食事の所為で、そりゃこの返り血で感染症とかそっちに問題もあるわけで。
「裏に水溜めてある甕が置いてあるから身体洗って来い。」
タオルを渡されて、扉を閉められてしまった。
『ヒカミ。仕方ないから洗いに、』
あたしがそう言いかけてヒカミを見ると、ヒカミはもう夢遊病のように立ったまま寝ているに限りなく近い状態だった。ああ駄目だ。このモードにはいるとこいつはもう限界に近い。
この異常な睡眠欲が原因で、学校では伝説の保健室で寝泊まりした事がある人である。何せどうやっても起きないから、保健の先生もヒカミを置いて行ったとかで。
あたしだって限界まで眠いのに、フラフラ歩くヒカミの腕を引いて、甕の水をかけた。あたしも良く分からないテンションで身体を洗って、小屋に入ると入り口の床でぶっ倒れた。一応言っておくけど、あたしは辛うじて拭いて服着たけど(ちゃんと荷物の中には汚れてない着替えもあった。)、ヒカミに至っては全裸でタオル一枚で身体拭き掛けの状態で床で爆睡している。
もう起き上がる体力も無い。
「ヒカミは多分このまま起きねえな。どちらにせよ。ベッドの数を考えると一人は床で寝てもらう事になるんだけどな。」
久々の歩はちゃんとヒカミが起きない人である事を覚えてくれていたみたいだ。ヒカミはそのまま床で寝るとして、あたしはベッドで寝たい。
しかし、酷い疲れだ起き上がろうにも全然身体が言う事を聞かずにあたしもこのまま床で寝そう。
「キアラから電話で話は聞いていたけど、お前もだいぶ人間離れしたし、ヒカミに至ってもなんだか分からない生き物になったな。シラミズの対価に至っては本当に記憶を持ってかれたみたいだし。」
昨晩に今日砂漠越えする事をキアラに電話で伝えた時点ではキアラに歩の報告は聞いてなかった。
『いつキアラと連絡取れたの?』
「ついさっきだよ。本当にたまたまだ。あのビラをSOAの連中が持ってきてくれて、それでキアラに電話して、お前らが砂漠越えをしている真っただ中だと聞いて、急いで部下に様子を見てもらいに行ったんだ。まあ行かせて正解だったしタイミングが良すぎるな何もかも。止まってた歯車がようやく回り出したみたいだ。」
なんだか、歩らしくない言い回しだ。歯車とか。元々ある運命を受け入れるような、歩って自分の運命は全部自分の手で切り開くみたいなそういうタイプだったのに。この一年で何があったんだろう。
『ねえ。歩の対価って?』
あたしがそう聞くと、歩は医者の白衣を脱いで、タンクトップ一枚になって、左腕をあたしの目の前に翳した。最初なんの事か気付かなったけど、そうだ。刺青が綺麗さっぱり無くなっている。
「利き腕持ってかれたよ。これは高性能な義手さ。」
義手?全くもってそんな風には見えない。普通の人間の皮膚と腕だ。
「人の命を救いも奪いもする。最悪な腕だよ。」
よく分からない事を言われて、もっと質問しようかと思ったけど、あたしの眠気も限界だったのでまた明日聞く事にした。結局あたしは移動出来ずに床で寝てしまったのだ。




