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不条識な狼の理5

♗05


 ドン。突然の打撃音。叩きつけたような。


「なんだ今の喧嘩みたいな音。」

 そして次には、形容しがたい「キャふん」が一番近い音か、何か鳴き声のような。続いて何か争うような物音と、足音が。


「おれは今向こう側から、ハクスイがくると見た。」

 ヒカミがそう宣言すると、あたしたちが元来た方向の角から、ぬらりと、人影が現れてた。

 長身に棒を持ったその姿は。


「よう!っておい!すげえな!明治維新だ。」

「私だって服ぐらい選びたかったわ。」

 大親友、ハクスイが棒ではなく日本刀に和服で現れた。

 あたしは壁に寄りかかって座ったまんまで視界が低いおかけげすぐに気付いたけど、何故か靴がローファーという格好だ。和服とローファーを見てヒカミが明治維新って言った事に気付く。


「招待状届いたから準備してとかなんかあったの?おれはボンジロウの散歩後の恰好でそのまま連れてこられたけど。」

「逆に、準備する時間貰えたら、なんで和服ってチョイスになるの?これは明日の写真撮影の服選ぼうって、婆ちゃんが色々着物合わせてる最中に私は呼ばれたの。あの二場とか名乗る奴にもこれが一番似合うって笑いながら日本刀渡されたわ。」

 ハクスイが、刀を振って、峰の血を払ってから、鞘に収める。何が凄いってこの一連の動作に一切の違和感が無いことだ。うん。二場の言う通りだ似合う。

「いや。すげえよな。明らかにおかしい絵面のはずなのに、ハクスイだと何も違和感ねえな。さすが段持ちの全国大会優勝の侍は違うな。」

 ヒカミもあたしと同じことを思ったらしい。




「残念。今年は準々優勝。」

「手負いの状態で、出場してその結果なら実質最強じゃん。二年までずっと優勝してたんだし。」

 確か、三年上がってすぐにハクスイは他校の生徒との大喧嘩の時、ハクスイの出場を取り消しにさせない為にも、ヒカミが代わりに全部やったことにして、ヒカミが謹慎処分を食らうというあの事件。ハクスイは奥歯が一本なくなって、ヒカミは網膜剥離という暴れようだったから、まあ謹慎させて正解だったんだろうけど。



 その歯が無い状態、全身打撲(話のネタに身体見せてもらったんだけど、紫と黄色で凄かったんだって。)でよく三位まで勝ち残ったよね。どんだけ強いのこの人。

「最強なら、もっとスマートに仕留めたいわね。たった三匹殺っただけでこの返り血ね。」

 スタート地点から、ここに来るまで、三匹仕留めてくるってしかも、それで疲れた様子が一切無いもんだから、やっぱりハクスイは凄い。ヒカミも凄いんだけど、もうこれに至っては格が違ってやばい。味方で良かった。



「とりあえず。歩きながら情報を擦り合わせようぜ。

 君を呼んだ理由は他ならない。かなりヤバい状況なのに、おれ独りではサクを守りながら進む戦力が無いから呼んだ。拒否権もあったのに悪いな。こんなとこまで付き合わせて。」

 ヒカミは悪気なく事実を言っただけなんだろうけど。全体的にあたし独りの都合で二人を事件に巻き込んでしまったみたいで気が引けた。



『なんかごめん。全部あたしのせいなのに。』

「何言ってんの。」

 ハクスイがあたしに手を差し伸べてくれた。

「歯もう一本ぐらいになら、全然寄越せるよ。ヒカミも片目ぐらいは問題無いよ。サクがピンチの方が問題だって。とっととここを出て、明日はちゃんと卒業式に出ましょう。」

 あたしを起こしながら、ハクスイは言った。



「片目無くなるのは流石に問題だな。網膜だけにしてくれ。」

 こんな冗談が本当に冗談じゃないからこの二人は本当に凄い。

「あっ、そう。二場から伝言預かってる。」

「なーんか不吉な予感しかしねぇな。」



「大方合ってるよ。まず。私はイレギュラー参加。本来なら魂の転生数が3回以下だと、選定から漏れるんだけど、私は3回目の青い魂だけど、研ぎ澄まされてるから特別許可だって。ただしクリア率は1パーセント以下。サクが7回目の黄色い魂でクリア率3パーセント。ヒカミが13回目の赤い魂でクリア率8パーセント。多分ヒカミ伝えとくべきだと思って数字系は暗記しておいた。

 最初からそんな低確率なんて嫌なこと言われた上に、ヒカミに伝えるように言われた伝言は

【この世界において常識は通用しない

             通用するのは条理のみ】

ってね。」



「はーん。ご丁寧に何かヒントなんだろうけど、全般的に胸糞悪いな。部下たちを負け戦に放り込んだ、敗戦直前のお偉いさんみてえだ。」



 笑いながらヒカミは歩き出した。



「おれたちを駒扱いすんじゃねぇぞ。クソが。」



 そういった時、ヒカミの顔は全く笑顔ではなくなっていた。

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