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不条識な狼の理49

♗49


「ね……サう……わたひ。さ。」


 回らない呂律でハクスイが喋り出した。


『大丈夫?無理して喋らなくても。』

「いま……伝へ、たい。」


 辛そうだけど、喋りたそうなので、あたしはハクスイの言葉に耳を傾けた。


「本、と、はさ……二人の……こと。疑ってた。

 わたひ、記憶……ないから。

 でも、今。

 こう……やって……たふけて。くれるのは。

 多分、ずっと。なかま。だったから。

 ふたりは、ずっと……わたひの。たいへつな人で。

 あひがとう。」



 ありがとう……。



「見ふてない……でくれて

 たふけて。くれて

 受け、入れ。。てくれて。」



 あたしは。今まで、この二人にお礼を言ったことあっただろうか?

 今思えば。あたしはありがとうが言えない人だ。そして、逆に、ハクスイはゴメンなさいが言えない人だ。ヒカミはどっちも言える人だ。

 そう言えば。忘れてた。思い出した。


『ねえハクスイ。ハクスイはもちろん覚えてなくて、あたしも忘れてて。今思い出した話なんだけどさ。』



 前さ。いつだっけな?中一の時か中二の時かな。とりあえず秋なのは確か。

 三人で遊ぶ約束だったんだけど、ヒカミがどうしてもバイトでないといけなくなってね。あっ、アイツ猿みたいな身のこなしだから、カラクリ村の忍者のバイトしてたんだよ。業火丸っていう結構人気の忍者の役でさ。そういえば、ハクスイもピンチヒッターで、ショーの侍役で何回か出勤してたよ。

 まあそんなんでさ。あたしとハクスイ二人っきりで何となく喋る日があったんだよ。

 そこでさ。二人で話したんだ。ヒカミって凄いなって。

 ハクスイはすぐにありがとうって言えるのに、すぐにゴメンなさいが言えない人で。あたしはゴメンなさいが言える人だけどありがとうが言えない人で。

 もちろん。無関係の人のは普通に言えるよ。ただ、この三人の距離感ってそんな感じでさ。何だろう距離が近すぎるっていうの?良い事だとは思うんだけど。

 そんな中ヒカミだけは、ありがとうもゴメンなさいもすぐ言える人だし。もしなんか喧嘩になっても、真っ先に矛を収めるのがヒカミなんだよ。

 いつも。これでチャラって言ってさ。全然チャラじゃないよ。圧倒的にヒカミの方が抱えてるよって思うのに。アイツそこで笑うんだもん。何も言い返せないぐらいに。

 小さい頃もそうだったんだ。ハクスイとヒカミと大喧嘩しながら家に帰って、あたしは明日から、二人とどんな顔で会おうって心配してるのに、ヒカミは普通に昨日ゴメンって言いながらまた笑顔で現れるんだよ。

 だからさ。あたし達さ、ヒカミより先にありがとうとゴメンなさいが言える人になろうって。そんな話したんだよ。



『今思い出したよ。』


 そんな些細な思い出。あたしとヒカミは家の方向が同じなのもあって、二人っきりになる事は多々あったけど、ハクスイと二人ってのはあまりなかった。その時に、話した二人だけの約束。それ以来、あたしは前よりかはちゃんとありがとうが言えるようになった気がするけど、ハクスイがヒカミに謝ってるところを見た事が無いかもしれない。



「じゃあ……ヒカミに……謝ら……なひとね。」


 こんな状況で、迷惑かけてごめんって言ったら多分あいつ逆に怒りそう。あたしらは迷惑かけ合って当然って考えを持ってるからね。まあハクスイは記憶が無い分仕方ないだろうし、治って第一声にヒカミにそう言ったところで咎められる事は無いだろうけど。

 しかし、ハクスイの言葉は予想外だった。

「ひんぱい……かけ……て。ごめんね。て」

 心配かけてごめんね。って。

 ハクスイ。本当に記憶無いの?まるで記憶無いのが嘘みたいだよ。


『そうだね。ちゃんと治して、詫びいれないとね。だからハクスイ。しんどいだろうけど、もう少し気張って。絶対何とかなるから。』


 そこからハクスイの返答は無かった。呼吸もあるし脈もあるから純粋に寝てる状態に近い感じで意識が飛んでいるのだろう。と言っても正常にスースー寝てるというよりかは、高熱でぐたっとしている人のような呼吸だ。浅い睡眠のように定期的に呻き声も聞こえる。

 今のハクスイは本当に無力だ。記憶は無いとはいえ知識や経験値はしっかりあるみたいであの太刀筋で瞬間的に蛇を斬ったりする芸当がある程のマジで強い女ってのが本来のハクスイで弱いのは今限定なんだろう。今なら弱い。簡単に殺せる。

 ふと。厄介な事。



 蛇の毒で死んだ人間は食えるんだろうか?



 はは。何を最低な事を考えているんだ。確かにハクスイはこの蛇の毒さえなければかなりの健康体だし、若いし食べ頃だとは思う。でも大切な親友だ。親友を食うだなんて。人食の呪いなら死体でも構わないんだ。何も今はまだ生きている知り合いを手にかけなくたって。

 ああでもこの体温と鼓動。なんでこうも食欲をそそられるかな。腕も足も脂肪と筋肉のバランスも良さそうだし、肌の張りも綺麗だ。多分今まで食べたものとは比にならないくらいの味はするんだろう。



『惨めだなあ。』

 どうしてこんな時にまで仲間食ってしまおうという発想に至るんだろう。この呪いは最悪だ。自我を失うんじゃない。失うのは倫理観だ。

 頭を振って。嫌な衝動を振り払って、足を進めた。

 満月が完全に現れるその前に早くなんとかしないと。




 少し進むと目に見える範囲で、サボテンがそびえ立っていた。

 サボテンが見えてきたらもうSOA自治区と言っていたから、もう国境(という表現で良いのか)は越えたぐらいなんだと思う。




 遠くのサボテンを見ながら歩いていると、そのサボテンの隙間から何かが猛スピードで近付いてきた。

 そして、この世界に来てからは初めて聞いた何か動力のような機械が擦れる音。ボーンとかブーンみたいな。

 よくよく思い出せば聞いた事がある。懐かしい。夜中たまに聞こえるブンブンブンブウーンというあの音。

 その近づいてきたそれは……バイク?こんな世界に?そしてそのバイクには、SOAとデカデカとロゴが塗装してあった。

 盛大に砂を散らしてバイクはあたしの前で止まった。五月蠅いエンジン音の中、あたし達より年上の男の人が声を張って話しかけてきた。



「あれ、姉御から侍と狼とチビって聞いてたんだけどなあ。二人なのか?」


 姉御?


「ってか、侍クタバってねえか。おい大丈夫かよ。」


 男はバイクから降りて、あたしの目の前まで来た。作業着のような服にはSOAと刺繍が施してある。

 いや、作業着。違う。作業着のようだけど、なんていうのか長い丈の羽織もので下履きはサルエルのようにダボダボしてるのに、ベルトは工業仕事のようなベルトなのだ。えっと知ってるこれ。特攻服っていう動画でしか見た事ない民族衣装だ。初めて見るから合ってるか分からないけど。

 しかし、こんな所で気を取られてる余裕なんて無い。


『蛇に噛まれたんです。』

「ナザスナヘビだな。姉御の所に急いで運ぶから、俺が単車跨ったら、背中に括ってくれ。」


 言いながら、もう早速男はバイクに跨る。一刻も争うって事だろうか。括るっても確かに今のハクスイに自力で捕まる力は無さそう。バイクは自転車じゃないんだから片手運転も出来なそうだし。

 ハクスイを後ろに乗せて、男におぶらせると、あたしはハクスイの帯を外して、そのままハクスイの腕と男の腰から一緒に縛った。多分これが一番賢い。


「このまま真っすぐ進んだらSOA自治区入り口のスラムに当たる。そしたら街には入らないでそのまま西に回り込むように進んでくれ。外れに診療所があるから、そこで合流だ。」


 いきなり現れていきなり信用して、仲間を渡すってのも、あたしの中で何か確信があった。絶対この男の人なら信用しても大丈夫って。懐かしい言い方をすると良い想念。オバケが視えたわけじゃなくて、ヒカミが信用していた人に凄く似ていたからだ。アイツと凄く似ている。絶対信頼して良いって確信。


『ねえ。姉御って?』

「安心しろ。歩の姉御だ。」


 ほら。やっぱり。

 独特の五月蠅いエンジン音を上げて、バイクは颯爽と走り去って行った。

 いや、なんていうか。なんか全体的に歩っぽかったもんあの男の人。

 でも、姉御って言ってたけど、どう見ても歩より年上だったんだよなあ。



 一度戻って、ヒカミと合流してから向かおうかと悩んだけど、日の傾きもそろそろ危ない。

 あたしは一度スラムを探索して、食事を終えてからヒカミと合流する事にした。ハクスイを歩の仲間に託して安心したせいか、満月の日独特の苛々と空腹感が沸々とあたしを支配し始めていた。

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