不条識な狼の理48
♗48
次の日は砂漠越えの為の買い物の準備に充てた。
出発は明日の朝四時で。夕方には砂漠を抜ける予定である。大きい街の入り口は周りはだいたいスラムになっていることをあたしはこの一年間で学んでいたので、砂漠を越えてからでも、あたしの満月対策は十分間に合いそうだ。
主に買ったものとしては、顔を覆う用のスカーフと、あたしとヒカミは丈夫な靴を買った。今までは二人とも足の裏が丈夫なのを良い事に、足に布を巻いただけで出歩いてたんだけど。流石に砂漠は無理だろうということで、一番高い靴を買った。
あとは、最低限の携帯食品と水。水は高い。結構高い。それでも、ヒカミもハクスイも全然お金持ってるんだもん。あたしはこっちの世界に来てまでもして貧民側なのかと思うと少し悲しい。
毛布も必要かと思ったけど、夜までには抜けるから、今回は無しにした。というか、下手に荷物を多くして、体力を消耗するくらいなら、少なめにして早く抜けた方が賢明だろうと。
あたしとヒカミは、身体全体を覆った、ザ・砂漠横断服といった感じの地味な色の、ローブを着ていたが、ハクスイは和服にローファーだった。でもある意味に理にかなってるんだと思う。ちゃんと全身覆ってるし、風通しも良い。履きなれたローファーってかなり汎用性高い装備だし。
その見てくれで顔はスカーフで覆って、日本刀を腰に差してるんだよ。新連載できるわ。
今日は三人とも夕方には寝た。しかし、ハクスイが抑えていたこの部屋。なんでドア開けてすぐベッドなんだろう。そして、頭が良い筈のヒカミがこの部屋の構造に疑問を持たないってことは意外とポピュラーな間取りなのかな?
あたしとしてはこんなに大きなベットじゃなくて良いから、もっと通路が欲しかったわ。まあでもこのサイズのベットだから三人で雑魚寝できるんだけど。
そして、明け方。あたしたちは、キアラの居る〔塔下街〕へ向けて出発した。
まずはこの砂漠を越えたところ。通称〔SOA〕と呼ばれる街。ここを目指す。何かの略称なんだろうけど、宗教団体ではない自称SOAというグループが治安維持を図っている大きな街らしい。SOA自治区はどうやら、ノア教に対してもムハ教に対しても中立の立場を取っているので、どうやら宗教的なやっかみはなさそう。もし【異形】への理解が浸透している街なら、あたしとヒカミも見た目を気にしないで歩けるかもしれないし。
ってもヒカミの場合、顔と首が人間だからあんまり支障無いっちゃ無いんだろうけどさ。
にしても、SOAってなんの略だろう。
お昼前。暑くなって、疲れも見え始めて、あまり話しかけるなの空気の中、あたしはその話を持ち込んだ。
「エス。オー。エー。の略?そんな。お前を。愛したい。」
「どういう状況でそんな言葉出てくるんだよそれ。」
「サディスティック・オメガバース・アナル」
「知ってるエロい言葉並べただけだろ。しかも、オナニーじゃなくてオメガバースって無駄に玄人感出してくるし。」
「じゃあ、サディステック・オブ・アメ●カ」
「諸々不謹慎な発言があるから、わざわざ、大和国って新語作ってるのに、ここで版権に触れる発言は伏字入れるからな。」
「えーじゃあ何?」
「セーフティ・オペレーティング・エリアじゃねえの?」
「そんなの、私だって解かってるよ。せっかく暑いから面白くしようとしてるのに。」
ちなみに、あたしはそんな言葉一切知らなかった。二人は正解を分かった上でボケてるから、やっぱ二人の頭脳にあたしは置いてかれる一方だ。というか。本当に記憶がないのを疑うレベルで息ぴったりだ。
お昼ぐらい。日陰が出来るほどの木が現れたので、そこで休憩を取ることになった。
「ここで中間地点を過ぎたぐらいね。後六時間ぐらい歩けば、抜けれると思うわ。」
「ハクスイはこの砂漠越えたことあるのか?」
「ないわよ。ただね。あの街で商売やってると、砂漠越え慣れてる人が客になることも多々よ。世間話の一つでこの砂漠の話も聞いたりするわ。」
確かに。昨日の買い物の、顔に巻くスカーフや、防寒具を買わないという指示はハクスイのものだった。
「あと、ここから先は蠅が多いらしいわよ。顔の汗を狙って飛びついてくるから厄介みたい。」
顔に蠅が飛び付いてくる??
『なにそれ!聞いてない。超怖いんだけど。』
「仕方無えんじゃね?こんなに雨も降らない乾燥地帯じゃあ、そりゃ虫だって、汗でもいいから飲みたくなるよ。」
『そういう冷静な分析じゃなくて!』
あたしは虫が顔に飛んでくるってことが嫌なんだって。
「まー蠅は気持ち悪いだけで無害だから大丈夫よ。問題は毒のある虫よね。サソリとか。死にはしないけど、相当痛いらしいから気をつけてね。」
なんで、二人ともこんなにワイルドなの?というかキャラ設定的にあたしがそういうの一番強くないけないはずなのに、ヒカミはまだしもどうして普通の人間であるはずのハクスイがここまで肝据わってるの。おかしいでしょ。
そこからさらに二時間ほど歩いた。
良いペース。夕方には抜けれそう。砂漠も砂じゃなくて、ほぼ荒野のような、地割れの酷いエリアに入って、少しずつ草木が見え始めた。ハクスイが言うには、ここまでくれば後四時間はほどで、サボテンが見えたら、もうそこはSOA自治区に入るみたい。
ふとそこで、一番先頭を歩いていたハクスイから、シャキっと何か金属音が聞こえた。
あたしはこの暑さにやられて、足元を見ながら歩き続けてたんだけど、さすがに今の音が気になってハクスイの方を見ると、抜刀して振るっていた。
何が起きたか分からず刀身の先を見ると棒のような縄のようなものが分断され、地面に落ちた。
そしてハクスイも、刀身を鞘に戻すことなくそのまま倒れた。
「ハクスイ!」
すぐさまヒカミが駆け寄る。あたしもそれに続く。
「どこだ?どこ噛まれた?」
噛まれた?あたしは、ハクスイが切った何かを見て初めて状況を把握する。
茶色く地面の色と同化した一見縄にしか見えないそれは。牙を剥き、絶命の間際まだ身をうねらせていた。蛇だ。
「あ……あ、ひ……くび」
呂律が完全に回っていない。ヒカミはすぐにハクスイの足首の傷口を見つけ、口で覆い、吸い出してその辺に吐き出す。そして、傷口に水をかける。
「ハクスイ。ゆっくりでいい。この蛇の情報知ってるか?」
ヒカミの質問に対し、ハクスイはゆっくりと首を横に振った。
首を振る動作だけでも、苦しそうで、半開きの口からは涎が止まらず漏れ出していた。目も虚ろでどこを見ているのかわからないし、指先も震えている。
ヒカミは立ち上がり、ハクスイの腰から鞘を抜き取り、刀身を戻した。
「おれが全部荷物持つ。サクはハクスイを背負って先に行って欲しい。向こうの街で一番でかい酒場で合流だ。」
もう動かなくなった蛇の頭を拾い上げて、あたしに渡してきた。
「この蛇の血清を探してるって言えば良い。こんな場所だ。絶対血清は存在する。ただ恐ろしく高い金額提示されるだろうけど、金は後からいくらでもなんとかなるから、とにかくどれだけ早く血清打てるかで、生死だけじゃなくて、後遺症も関わってくる。」
あたしは言われた通りに、ハクスイをおぶって、蛇の頭を受け取った。辛うじて意識はあるけど、ぐったりと力なく、あたしに身体を預けてくる。こんな時に思うのもあれだけど、本当に重い。ぱっと見分からないだけで、相当筋肉質だし、なんならこの一年で背も伸びた感じもする。ヒカミなら楽勝で運べるのに。なんで無駄にデカいの。
『ごめん。こんな時にこんなこと言うのかなり空気読めてないだろうけど、マジで重いから走れないよ。』
「いや。走らなくていい。出来るだけ早歩きだ。なるべく揺らさないように運んでもらいたい。」
そうか。毒だから回らないようになるべく……ってだいぶ難しいじゃんそれ。
「悪いな。おれの体格差だとまず安定して背負えないし、全般的な筋力体力はサクの方が全然上だ。後で大金払う羽目になったらおれがいくらでもなんとかするから、今の大役は君に任せたい。」
大金いくらでもなんとかするって言わなきゃいけない状況なのは重々承知だけど、お金だけは悩んで生き続けたあたしなので言うには躊躇う言葉だ。でも実際ヒカミならなんとかしてしまうから何も心配は無いけど。
『分かった。必ず合流しよう。今のあたしは体力だけは自信あるから任せて。』
「ハクスイ。少しの辛抱だ。気張れよ。」
ヒカミの手が、そっとハクスイの頭に触れた。
あたしは、ヒカミに向かって一度うなづくと全力の競歩で進み始めた。
あと数時間で抜けるとはいえ、砂漠での別行動と云う判断は、やはりヒカミならではなんだろう。あたしには想像付かない判断だった。確かに、あたしは今までの砂漠横断をハクスイとヒカミのペースに合わせてきた部分もあった。それも全部見抜かれた上での、判断。やっぱ凄いや。
しかし、ヒカミにも見抜けてない不安要素は一つだけあった。こればっかりはさすがにブランク一年でヒカミも気づいていない。
今夜は満月だ。
とにかく、早く街に着いて血清を探して、あたしも食料を探さないと、余計に話がややこしくなる。




