不条識な狼の理47
♗47
「って事は、食欲のサク。睡眠欲のヒカミ。性欲の私ってかなりバランス取れたチームだったのね。」
大方の説明はしたけど、このよくわからないボケをかましてくるあたり、やっぱりハクスイなんだなぁと。
「見猿、聞か猿、言わ猿。みたいな感じにグッズが作れそうね。」
なんのためのグッズだよ。それ。
「おいおい。おれとサクはいけても、君の性欲のデフォルメはコンプラ的にNGだろ。商品化できねえよ。」
ヒカミのボケも何?この二人記憶があろうと無かろうと空気感合い過ぎじゃない?
ハクスイの記憶喪失というのは、本当にドラマであるような、ショックで記憶を失ったみたいな表現が近かった。
この世界に関して、最初は理解を示さなかったけど、ハクスイには新生区という概念での知識があったのだ。だから最初に円という通貨を見たときに違和感があったりとか、ノア教という何か既視感の溢れる宗教団体に関しても、違和感があったのも、元々、今いるこの世界が別次元と定義すれば納得がいくとすぐに頭を切り替えてくれた。
ちなみに、お勉強の方の知識も完全に持ち合わせていた。三角関数や化学式といった一生使わなそうな学校の知識もある凄い。
しかも、三角関数と化学式が中学生で必修になったのは更栄に変わってからだというどうで良い事まで知っていた。そんなんならあたしは令和時代に生まれたかった。
「なあサク。やっぱりこのハクスイの感じを見ると。やっぱ死神二場への対価なのかな?」
『まあタイミング的にそう考えるのが妥当だと思う。』
あたしは人間としての機能を、ハクスイは記憶を、だとしたら、キアラと歩は何を支払ったのだろう。キアラには電話のタイミングで聞けば良かった。
「私には記憶がないから無責任なことしか言えないけどさ。まあ聞いた話だけでまとめると、私はさ。ヒカミを救うために記憶を払ったんでしょ。じゃあ記憶なんて無くても良かったわ。」
ハクスイは笑顔で言う。
「まー今までの分。何かのタイミングで戻ってきたら儲けもんだけど、これからはある訳だから、またこれからの記憶作ってけば良いんだし。
過去の私が、こんなにも良い人とつるんでて、その人の為の記憶の一つや二つ。安いもんよ。」
さらっと。凄く格好良いことを言ってる。器の広すぎるハクスイのこの発言は、多分ヒカミとハクスイの立場が逆でもヒカミは同じことを言ったと思う。
「それに。」
ハクスイがヒカミを見る。
「こんなに聞き分けの良い可愛子ちゃん。この子の為なら、死神になんだって支払うわ。」
聞き分けの良い……?
「シラミズ君。煙草が切れてるよ。」
すかさず、ヒカミはハクスイの口に煙草を突っ込んだ。
『なんか。あたしが来る迄の間に、二人仲良くなりすぎじゃない?』
「あら。私はサクともちゃんと二人っきりで仲良くなれるわよ。」
「シラミズ君。黙ろうか。」
ハクスイの発言に対し。ヒカミはどうやら怒ってるみたいだった。
尻尾がまっすぐ立ってる。服を着ていてもわかる程度に。どうして、三人で再会してからのヒカミはこんなにも機嫌が悪いのだろう。普段絶対そんなことないのに、生理でも来たんだろうか。
そんなヒカミを意味深に見て含み笑いを浮かべたまま、ハクスイは煙草に火をつけた。
煙草の煙と匂い。
最後の一本と言って煙草を泣きながら吸っていたあの日の歩の後ろ姿。
歩の対価ってなんだろう?
突然出会って、あたしたちを導いてくれたあの不良。というかヤクザ。厳密に言えば半グレとか言ってたけど、あたしには何が違うかわからない。
キアラとは電話で話したし、ヒカミとハクスイは今目の前にいる。一年前から全く消息が掴めないのは歩だけだ。
砂漠を越えた向こうの街で会えないかな。




