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不条識な狼の理46

♗46


「ほな、起きろっつーねん。いつまで寝とるんや。」


 グラグラと肩を揺すられる。

 どうやら、あたしは、さっきの酒場兼食堂のテーブルでそのまま突っ伏して寝てたみたいだ。目の前にはさっきの男がいた。


「キョウちゃんから伝言や。ここでて、三軒先のモーテルの部屋番号九番に来いだってよ。ちゃんと行かなあかんで。俺はちゃんと伝えたで。」


 男はあたしにそう言って、すぐカウンターに戻り、酒を飲み始めた。




 えっと。とりあえず。行こうかな。




 店を出て、空を見上げると、夜中であった。多分十二時ぐらいかな。

 月の満ち欠けを気にする習慣がついてからは月の高さで大体の時間がわかるようになった。

 上弦を過ぎて、満潮が近い。多分。明後日ぐらいには満月になる。このあたりの気候柄、雨は降らなそうだから、上手いタイミングで死体を確保しないとまずい。

 そして、一年ぶりの人食をあの二人はどう見るか。出来れば見られたくはない。




 指定された、部屋のドアノブに手をかけた時にふと思った。寝てたとはいえ、あたし待たされ過ぎじゃない?だってもう十二時ぐらいだよ。あれから三時間は経ってるよね。

 ドアを開けると。感動の再会。と言いたかったが、それよりも強烈なものが先に飛び込んできた。


『煙草くさっ。』


 人間とは比にならないほどの嗅覚を持ったあたしには、この密室空間で換気もせず煙草を焚かれるというのは苦行以外なかった。


「あら?煙草は苦手でした。消そうか?」

「ハクスイ消さなくていい。おれが窓開けるから。」


 いや、消せるなら消して欲しいんだけど、窓開けるなら。うんまあ。


「サク。煙草以外の匂いはしないか?」

『とりあえず、煙草の匂いしかしないよ。キツ過ぎる。』

「そうか。なら良かった。」


 良かったって?何が?


「ってか、待たせ過ぎじゃない?何してたの?」

「何って。」


 ハクスイが何か言おうとしてるのは、ヒカミは遮って、一方的に喋り出した。


「いいか。この空白の三時間はな!意味あっての三時間だ。決して我欲に溺れた無意味な三時間じゃない。この空白の三時間を二次創作に匙を投げたことにより、未だ嘗てない鬼才の発表作品と謳われるようになるんだ。二次に生きる者たちは今の三時間を永遠にしゃぶって解釈して生き続けることになる!」


 すごい勢いで言われたけど。本当に何言ってるのか全然意味がわからない。


「君には。永遠にわからなくて良いんだ。」


 ヒカミはどこか遠くを見つめて言った。

 なんか疲れてそうな気もしなくもない。






「フード外してくれない?」


 話をぶった切ってきたのはハクスイだった。あたしはドアが閉まってるのを確認して、フードを外した。


「おお。狼さんね。それはヒカミさんが煙草吸い続けてって言うわけね。」

「余計なこと言うな。怒るぞ。」


 どうして、こんなにもヒカミの機嫌が悪いのも謎だし。何より、


『ねえ。ハクスイ。ヒカミさんって何?』

「何っても。初めましてだからね。」

「初めまして、って何?」


 ヒカミは何となく様子がおかしいだけとしても、ハクスイはまるでおかしい。まるであたしにも初めて会ったみたいな。


「あっ。ごめん。私。記憶ないんだ。自分の名前以外。全部忘れちゃったみたい。」

『あっ、そう……っておい!』


 重大すぎるよ。


『それはさらっと言っちゃダメな話じゃない?』

「だって、無いものは無いから仕方ないでしょ。貴方、名前は?」

『……サク。』

「そう。サクちゃんで良い?」

『いや。サクで良いよ。あとヒカミさんってのも気持ち悪い。ヒカミって呼んでよ。あたしらもハクスイって呼ぶから。』


 なんか。ハクスイがハクスイじゃ無い。

 ハクスイはよろしくと言って、握手のように手を差し出してきた。

 あたしはそれに応えるべく。手袋のついたままの手で、ハクスイの手を握る。そしてわざとらしく指を絡め、あたしの手の形を確認する。


「あら。頭だけじゃなくて。手も異形なのね。そそられるわね。」



 えっと……

 ごめん。やっぱハクスイだ。

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