不条識な狼の理44
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街に戻ったあたしとヒカミはもう、夕方だったので、あたしは仕事の見世物小屋のキャッチに向かった。
この町は、あまり宗教思想が強く根付いていないのと、【異形】に関してかなり寛容な街なので、ヒカミを一人にしといても問題なさそうだし。ってかありがたいことに、この街は【異形】に寛容だから、見世物小屋なんて商売も成り立つんだし。
とりあえず、あたしたちが素顔で歩ける数少ない街なので。ここである程度のお金を稼いでからキアラに会いに行かないと。この後、ノア教の自治区を通ることを考えると、やはりあたしとヒカミは全身が隠せる服が必要だし、何かあった時の賄賂ようのお金も必要だ。
勤務時間約四時間。もう最終公演が始まったので、あたしの仕事はここまでだ。
あたしは、受付スタッフに帰ることを伝えて。
ヒカミの待つゲストハウスへと向かった。今週分の給料は今週末になるが、別に現状無一文ってわけでもないので、ヒカミと一緒に夕食を食べるくらいの金銭的な余裕はある。久々に、ヒカミとのご飯。前は当たり前だったんだけどなぁ。こんなにも楽しみなんだと浮かれながら、大通りを歩く。
すると、大通りに人だかりが出来ているのだ。近づくと歓声が聞こえてくるので、大道芸人だとわかる。
へえ面白そうだな。とあたしも覗いてみることにした。
「さあさあ、皆の者。最後の大技の火遁の術は、ちょっくら粋すぎて、危ないからねえ。三歩ほど下がってくだせえ。」
えっと。なんでこうなってる?
「それでは、ご覧あれ。カラクリ流忍法火遁の術。」
ヒカミは、口から火を吹きながら、鉄串に刺した饅頭を焼いているのだ。
ギャラリーからは歓声が上がる。
ヒカミは火を吹き終わると、鉄串に刺さった焼き饅頭を子供に配り始めた。
「それでは、本日の忍法はこれにて仕舞いだ。」
あたしのバイトとは何だったのだろうと思う程度の金が投げ込まれいくのだ。ヒカミはそれを笑顔で手を振って応えている。そんなヒカミとあたしは目があった。
「よう。サク。仕事お疲れ!ちょうど、饅頭焼けたぜ。」
自信作と言わんばかりにあたしに饅頭を渡してくるのだ。
『えっと。ちょっと状況が。』
「状況っても見ての通りだ。忍法を披露して、お金を稼いでいた。最初は小さな忍術ってか実質手品なんだけどさ。それで小銭稼いで、それ元手に材料買って、火遁とか大技やっただけだよ。あっ、饅頭はさっき感じの良いオバチャンがね。お金は投げれないけど、饅頭くれるってもらったんだ。」
どうして、この人の生命力というか、適応力というか。
「美味いぜ。食わねえのか?」
『あ……うん。ありがとう。』
「やーおれ、親父に料理教わってて良かったよ。饅頭の焼き具合絶妙だぜ。」
この場合は、饅頭が美味く焼けた事より、火を吹くパフォーマンスに感謝すべきじゃないの?
「金も稼げたし。何か美味いもんでも食いに行こうぜ。」
それ、あたしが言いたかったのに。やっぱりあたしはヒカミには敵わない。
今週いっぱい。あたしのキャッチのバイトの給料が入るまで、この街には滞在したけど、その間に、服だけじゃなく、武器や薬を買ってもまだ湯水の如くお金は余っていた。
まあヒカミが毎日頑張ってくれたせいなんだけど。
約束通り、キアラに連絡すると、キアラはまた新しい情報をくれた。本来は川の行き来する定期イカダ線が一番最速なんだけど、ヒカミがいるなら、そのコースは避けて、ちょっとシンドイけど、砂漠経由で向かった方が良いと。
とりあえずは、砂漠手前の街、ここから二十キロほど離れた〔那坐-なざ-〕へ向かうことになった。ノア教の街だから、あたしはフード必須と、ムハ教信者のフリは何があってもNGと釘を刺された。




