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不条識な狼の理3

♗03


 見知らぬ場所で小柄な黒いローブを着た人とテーブルを挟んで対面に座っていた。

「招待状無しでここに入ってきたのか。」

 小柄はそう言った。はて、招待状とは?

 あたしがポカンとしていると、その小柄のその人はあたしに向かって手を伸ばした。


 テーブルの向こう。届くはずの距離ではないのは確かなのにあたしは何故かその人に頭を触られた。

 驚いて身を引くと、またその人は喋り出した。

「ああ。狼の子か。」

 狼?あたしが?


「まあ取り敢えず、お茶でも。」

 小柄がパチンと指を鳴らすとあたしの目の前には湯呑みに入ったホットコーヒーが現れた。

 え?待って急展開すぎる。どこかわからない場所、誰かわからない人。突然の手品。

 湯呑みなのにお茶でない事がツッコミなのか、コーヒーなのにカップでない事がツッコミなのか。それともこの手品のような出し方がツッコミなのか……

 見知らぬこの場所は簡素な会議室のような場所であった。あたしと小柄以外は誰も居ないし物も無い。テーブルを挟んで対面に座ってるだけ。その所為でこの手品のように出された湯飲みのコーヒーが凄く際立つ。

「ああ、樫山さくら。君はブラックコーヒーは苦手なんだろ。」

 そして、更に目の前にはあたしがいつも買うフードスタンプ配給の大和国印の牛乳パックが現れた。


 いや、突然コーヒーが現れたのも謎だし、牛乳が現れるのも謎だがそんな事より一番の謎は、

『何で、あたしの名前を。あんたは一体?』

「まーまー。説明するから。取り敢えず、茶にしようや。」

 またその小柄の手が気がついたら目の前にあり、あたしの湯呑みに入ったコーヒーに牛乳を注いだ。

 どう見ても、なみなみ入っていたはずのコーヒーだったのに、何故か牛乳を足しても溢れず、丁度良いミルクコーヒーの色になった。

 そして、また小柄の手は元の位置にある。

 今の一瞬だけ、手が伸びたのか、というかコーヒーと牛乳は魔法のように出せるのに、注ぐのは魔法が使えないのか、なんなんだこの状況。

「奇跡の状況に!乾杯!」

 小柄が、自らの湯呑みを掲げると、また気がついたら小柄の湯呑みを持った手が目の前にあり、あたしの湯呑みと勝手に乾杯した。


 やはり、目をこすっても、小柄はあたしより二メートルは向こうに座っている。

 かといって身体のバランスからして、腕が二メートルあるようには見えない。

 あたしと干渉する時だけ、距離の概念を無視しているようなイメージに近い。

「えーっとまあ。奇跡ってのはね。んー何から説明しよう。天狗隠しって聞いた事あるかな?神隠しともいう。」

 あたしがうんともすんとも言わないでいると、小柄のその人は一方的に解説を始めた。




「ある日突然。忽然と姿を消してしまう。それは人もそうだしモノもそうだし。なんなら、多人数の船ごとだったりも突然消えて。どうにも見つからない。令和時代にもコイツには誰も答えを出せなかった。

 しかしね。更栄時代に入ってからこの件は全て物理学で証明出来たのね。」

 なんだか語りだしたけど、あたしの反応なんて一切気にしないで小柄は喋り続けた。




「んー君はオツムが悪いから詳しい説明は省くけど、要は君がよく見るオバケの世界。理論上、同じ場所に存在している。世界や宇宙は常に七つの層で出来ている。

 私らが普段見えている人間の世界が壱。オバケの世界が参。

 私らはね。本来魂が本体なんだけど、その魂を壱の世界の肉体に突っ込んで普段生きてる。

 その肉体が機能しなくなった時に魂は一度参の世界を経由して再構成され、また壱の世界で新しい肉体と名前を割り当てられ、新たな人生を歩む。

 これを人間は輪廻転生と呼んでいる。

 しかしね。

 この宇宙というのは本来全ての星も生命体をもを概念に統一するという目的で動いている。

 だから私ら人間はとっとと概念と同調できる魂に進化しないといけないのにね。

 ここうん億年ほどこの星の知的生命体は、くだらぬ紙切れや石。通貨とやらに価値があると思い込み。それを取り合って戦争を起こしてどんどん地球の寿命を削っていく。いつまでこんなくだらねー事をしてるんだと。

 そんな中。平成、令和時代を駆け抜けた、とある天才作家ととある学者が手を組んで、魂と輪廻転生を物理学的に証明し、人間の更なる進化の鍵を見つけた。」





 えっと。

『ぜんっぜん言ってる意味が分からない。』

 ってかこれが最初にあたしの事をオツムが弱いって枕詞を置いた人間の発言だろうか。マジで言ってる事分からない。




「君たちが魂を肉体という器に入れて生きる壱番の世界と、念などのエネルギーだけのオバケの世界参番。この二つの世界の中間に位置する弐番の世界。今私と君が座っているこの世界は弐番の世界に当たる。」


 それはつまり。


『あたしは神隠しにあったと言う事ですか?』

 多分合ってるよね?この質問で。だってあたしは今の今まで、介護センターに居たんだ。それが今こんな訳の分からない場所で訳の分からない壱番世界だの弐番世界だの言われている。

「本来壱番世界にいる筈の君が、この弐番世界にいる訳だから。君程度のオツムならその解釈でまあ良いだろう。厳密に言えば違うんだがな。」

 なんかあたし、ちょいちょい馬鹿にされてない?




「自己紹介が遅れたね。天才作家。二場三命(ふたばさんめい)だ。」

 この自分を天才と紹介するあたりヒカミ同様のぶっ飛び具合を感じる。

 小柄で、なんとなくヒカミにフォルムが似ているのもあるかもしれないけど。

「髪が赤いのは私が十三回目の赤い魂だから、ちゃんとイメージを大事にしている。しかしこの赤髪も五十歳までしか出来なくなった。七十歳前で髪が完全に消失した。君たちの時代と違って昭和生まれの私たちは、毛根が死ぬ。」

 フードで覆われた状態では髪が赤いなんて全く見えない。そんな事よりあたしが何よりも気になったのは昭和生まれという表現だ。

『昭和!?生まれ!?』

「なんだ、さっき介護センターで私の姿を見たからここに来たんだろ。私は八十歳だ。」

 という事はさっき黒い煙の中に見えた老人がこの人なの!?

「まーそう驚くなって。流石に八十歳の身体だと、自由がきかない過ぎるから、こっちの世界では二十歳の時の器に入ってるだけだ。」

 二十歳の時の器っていうけど、さっきの老人とこの目の前の小柄が同一人物をは到底想像つかない。確かに一瞬しか見てないけど、髪の毛がほぼ無いから男性か女性かも分からなかった程だ。そんな人と同一人物で二十歳の時に器に入ってるとか、この人は未来人とかそんなオチなんだろうか。いやでも昭和生まれって……


「とりあえず、説明を続けると。天才作家の二場と天才学者佐竹羨望は、魂の構造式を証明し、更なる進化の為の研究施設。通称W・Iシステム。いま私たちが話しているこの弐の世界にシステムを開発した。

 本来、壱の世界にある、私たちの魂を引き剥がし。

 天狗隠しでも無いと行けなかった弐の世界に連れ込み、弐の世界で、壱の世界と限りなく同一にコピーされた肉体に魂を突っ込む。

 そして、この弐の世界W・Iシステムをクリアしてもらえれば元の世界に帰れる。」

 突拍子のない話だ。魂を引き剥がして、他の肉体に入れる。しかもその肉体は同一にコピーされたものだなんて。




 確かに、クローン人間とかそういう映画は見た事あったけど、あまりにも御伽話だし、そもそも魂を引き剥がすってのが一番ありえない。

『クリアって何よゲームなの?これ?』

「いや。ゲームだと生温過ぎるね。魂を使った壮大な実験。データ収集ってのが一番近い。何せ君の魂は今もう、この新しい弐の世界の肉体に縛られている。

 病気もするし、痛覚もある。悲しければ泣ける。そして苦しむし、死ぬ。」

『死ぬ。って?』

 そもそも、今までの説明でいくとまるでもう既に死んでるかのような表現だったんだけど。だって一度魂抜かれてるわけだし。



「魂は永遠に壱の世界に戻らない。多分壱の世界の君は魂の抜け殻の肉体となって、植物人間になるだけさ。」

 さらっと恐ろしい事を、何事も無いかのように、二場は言い放った。

『ちょっと待って。何それおかしすぎない?』

 大体、あたしは介護センターでその八十歳の二場を見たら気付いたらここにいたんだ。そこで魂は戻らないとか、そもそもこんな事になってる事がおかしい。

「おかしいも何も、私たちは進化の研究と魂と宇宙の定義式を証明しようとしているんだよ。半端なデータじゃ駄目なんだ。本当の苦しみ本当の絶望。そして本当の希望といった高次元の負荷がかからないと魂のデータには意味がない。」

 それはそっちの都合であって、あたしは関係無いじゃん。

『そんなのあんたたちの研究に巻き込まれただけじゃ無い?なにそれ意味わかんない。』

「あーもうだから、魂を扱う訳だから、こちらだって慎重だよ。私ですら管理者権限とかでプログラム書き換えられないんだから、私も戻れなくて困ってるぐらいだよ。本来ならちゃんと招待状があって契約同意があって、この世界に入れるはずなのに、君だけは何故か招待状無しで、たまたま次元の歪みとかいろんな条件が重なって入ってきてしまったんだよ。」

 え?何そのとばっちり。だから最初に天狗隠しとか説明してきたの?あたしは神隠しで魂抜かれたの?


『ぜんぜん意味分かんない。ってかアンタも戻れないって何よ?五十歳以上サバ読んだ姿とか手品でコーヒー出す権限はあるのに戻れないの?』

「それだけ、魂を抜き出して、他の器に入れるってのは高次元の作業なんだ。被験者たちも命懸けなら、私と佐竹も命懸けのルールが適応される。

 いいかい?こんだけ大掛かりの実験やってるのに君は知らなかったろ?

 それだけ閉鎖的にこの実験は行なってきたんだ。壱の世界線現実軸の時間で一年ほど前からね。」

 壱の世界線現実軸……?完全に言ってる事がSFだ。ヒカミだったら理解出来る話なんだろうか。



「招待状を送れるのは一人一通。これは絶対。爆発的にこの世界の人口が増えると世界の均衡が崩れるし壱の現世から、こちらの世界に魂を転送して、こちらの肉体に入れ直すシステムだって、まず現実世界の肉体のコピーで相当システムに負荷がかかるから、一度に大人数処理出来ない。

 そして、危険な世界である事は変わりないから、この世界をクリアする時に、願い事をなんでも一つだけ叶えてあげるというオマケつきだ。途方の無い願いも叶えてあげれる。だから、君たちも命懸けに同意出来るだろ?っていう契約をね。」

 この話が無ければまだ、信憑性が少しはあったけど。言うてあたしだって視える側の人間だから、魂や思念が浮くのは分かる肉体と別離するのも分かる。視た事

あるし。だからあたしたちが生きる壱の世界から弐の世界に作られた肉体のコピーに魂を移し替えるのもまあ分かる。百歩どころか千歩譲って理解してやる。

 ただ、クリアしたら願い事を叶えてくれるという話で全部胡散臭くなった。

『ああーもう。漫画の世界?それ。よく聞くやつねそれ。』

「信じられなくても残念ながら、君の魂は完全に強制参加だから、せいぜい頑張ってくれ。」




 ああもう。夢だこれ。

 死ぬかもしれない?でもクリアしたら何でも願い事を叶える。なにそれ?ばっかじゃない?

 願いがあれば命を懸けれるもんなの人間って。そもそも命をかける程の願いって何?絶対叶わないような途方もない願いって。

 きっとヒカミなら、兄を生き返らせて欲しいって望むだろうし、ハクスイならきっと母を生き返らせて欲しいって望むんだよ。

 よりによって何であたしなのか、夢だとしても全般的に胸糞悪い。

 あたしなら、何を望むの?



 --オバケが視えなくなりますように--



「君は初めての呪詛巻きの参加者だね。」

 突然二場の声のトーンが変わった。

 低いというか落ち着いたというか、犯罪者のような怖さ。

 この声の人はだいたい、黒い影を動かし始める。だから、こいつは悪者だってすぐ理解できる。なのに黒い影は見当たらない

「ね。君は視えるんでしょ。小さい頃から。私もずっと悩んでたよ。私の場合は十三回目の使命で視えてたけど、君の場合は呪詛巻の汚れた血で視えてるからね。」

 何故、二場はあたしが視える体質なのを知っているの?この話はヒカミとハクスイしか知らないはず。


「君の実家。本家。遠方に住んでいるね。本家はもともとはお金持ちだね。

 でもこのお金が守られてるのは。爺さんが呪詛に手を出したからだね。呪詛の対価に自分の命は渡せないし、娘や息子も可愛いからね。だから、まだ生まれる前の孫である君を対価にした。そこまで君にも視えてるんでしょ。」

 そこまで君に視えてると宣言されたが、正直言ってそんなにはっきり見えてない。あたしが、視える体質はのは本家の爺さんが一枚噛んでるのは、もしかしたらって以前本家の墓参りの時に思ったりはしたけど。本当にそれはもしかしたらの話。二場の言うことが事実ならあたしを対価にした呪詛って一体……そして二場は何故そんな事まで知ってるのか。

『だから……なんなんですか?』

 急に敬語になる程度には動揺していた。


「あはははっ!嫌な事言われたって顔してる。大丈夫大丈夫。呪詛も飼いならせば武器だよ。

 君は【狼に愛されるし、狼に嫌われる】大抵の人には武器をあげるんだけど、君は物理的な武器より強いものを手に入れるからねぇ。君へのプレゼントはこれだよ。」

 また先程まで当たり前に使われてた腕が伸びる錯覚、二場の両腕は何故かあたしの目の前にあり、あたしの頭から、何かをかけてきた。

 黒いネックレスだ。チェーンまで黒くて、ペンダントトップは何かが入ってそうな小さな壺の形をしていた。

「死神に会ったらそれ割ると良いよ。多分その時のタイミングが最善だ。」

 不気味な笑顔で二場が言った。意味深で嫌な予言だ。そして今になって気付いた。二場が着ているこの黒いローブはまるで死神ではないか。その死神が死神に会ったらこれを壊せと変な物を渡してくる。



 ざらりと気持ち悪さが胸を撫でた。あたしの視える体質の事だけじゃなく本家の爺さんの事も言い当ててそして、【狼に愛されるし、狼に嫌われる】夢だとしても気持ち悪過ぎる。

「説明は以上。死にたくなるような事沢山あるけど、頑張ってゴールを目指してね。願い事を叶えてあげるから。

 そうそう。当然の権利。招待状を送れるんだけど、誰に送る?」

 あたしは、送られた相手は本当に強制参加じゃなくて、ちゃんと説明と同意があるのか聞こうとしたら先に二場が答えた。

「田中ヒカミ宛だね。大丈夫。説明するよ。でも、田中ヒカミなら自分の事還り見ずに君のこと助けに行くと思うけどね。」

『助けって?』

「ははは。君の魂は七回目の黄色い魂だ。クリア率が三パーセントにも満たない。せいぜい頑張りなよ。狼に愛されし呪詛巻きさん。」


 視界が突如としてブラックアウトした。




【この世界において常識は通用しない

             通用するのは条理のみ】



 その意味深で不吉な言葉が最後に聞こえた気がした。

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