不条識な狼の理29
♗29
ヒカミとあたしで三人が戻って来るの待ったけど、戻って来る気配が無い。
ヒカミも全然話しかけてくれないし。とうとう空には満月が上がってしまった。
綺麗な夜空だ。こっちの世界の満月もまるで、新生区のように綺麗だ。黄色くて丸くて。イボイボしてて。なんとなく丸飲み出来そうなあのフォルムもどちらの世界の満月も同じ姿をしている。
『ねえヒカミ。今何時なんだろうね。』
痺れを切らしてあたしから話しかけてみた。
「さあ。八時ぐらいじゃねぇの。」
そうか、ヒカミは頭が良いから、月の位置で時間とか分かるのか。
『あーもうそんな時間か。そりゃお腹も空くよ。』
あたしが仕留めたわけじゃないけど、いい加減ずっと待てのままはしんどい。腹減った。苛々する。こんなに月が綺麗なのに。
『ハクスイが仕留めた、これ。あたし先に食べてて良いのかな。ってかもう待てないよ。お腹空きすぎてイライラしてきたよ。』
「ああ。大丈夫だよ。どうせハクスイは手つけないよ。サクが独り占めしても問題ねえよ。」
それって食べて良いって事だよね。
『いただきまーす。』
ハクスイは食べないにしろ、他のみんなの分残しとけば問題無いでしょ。
腿から齧りついたけど、血抜きしておけば良かった。顔にも服にも血が飛びまくるから食べ辛い。
やー、しかし、やっとだよ。やっとまともな食事だよ。一ヶ月もあんな軍の携帯食みたいなの食べてたんだよ。あんな栄養偏ってたら風邪ひくよ。よくあれでみんな問題なく生活するよね。
しかし、人の肉というのは食べ辛い。油分が多いからちゃんと刃物を使ったとしても、刃が滑っておろすのは難しいだろうし、あたしみたく爪と犬歯が無い人ってどうやって食べるんだろう。食用にしては随分不親切な設計だ。
骨にこびり付いた部分は何処まで攻めよう。やはり貧乏性のせいか、ギリギリまで歯を擦らせる。
ねえ。ヒカミも先に一緒に食べる?と思って、ヒカミの方を見たけど、ヒカミは何故か泣いていた。
なんか今日みんな泣きすぎじゃない?ヒカミといいハクスイといいキアラといい。
あまりにも血塗れなので食事が済んだら一度川まで行って顔を洗ってこようかと思ったけど。
当たり前だけど、満腹になると動きたくなくなるし、眠くなるんだよね。
食ってすぐ寝ると牛になるって昔から言うけど、気が付いたら寝てしまっていた。といってももう既に狼なので、今更牛になるくらいなんとも思わないんだけどさ。




