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不条識な狼の理28

♗28


 悲鳴の方角からは血の匂いが流れて来た。

 しっかり血の匂い。それも雑食の血の匂い。うん。ヒトだ。人間の血の匂い。そして一歩一歩近づく度に匂いは濃くなって分かってくる。


 他人。しかも男性の匂い。そして血だけじゃなくて、肉というか、内臓が若干出てる。人間の中身独特の匂いがする。食欲をそそられる程度には。

 そこには、返り血を浴びたハクスイが座り込んで、キアラは泣いていた。

 えっと多分状況は、ハクスイが今晩の食料を仕留めてくれたという事だろう。

 近付いてみるとやっぱり男だった。それなりに可食部は多そうなので、全員分足りそう。


 これだけの偉業を成したというのに当のハクスイは初めての事で疲れ切ったのが放心状態で座り込んでいる。なんて声かけよう。凄い?良くやった?

 なんて話しかけるか悩んでいると、ヒカミも戻ってきた、ヒカミは真っ先にハクスイの元に行く。



「おい。ハクスイ。とりあえず、傷はどこだ?早く止血しねえと。」


 いや、違うって、それはハクスイの血じゃないって匂いが全然しないって、そこの食料と同じ匂いの血だって。


「おい。黙ってんなよ。どっから血出てんだよ。」


 なんでこんな簡単な事もヒカミにはわからないんだろう。あたしが教えてあげようとしたら先にハクスイが喋り出した。


「……私の……血じゃない……私は怪我してない。」


 ハクスイはヒカミに抱きついて泣き出す。






「……こ……ろ……した。」




 だから何?




 普通の事じゃない?泣き出す程の事かな?何でハクスイがそんなにグズグズしてるのかが全然分からない。というか、ハクスイってそんなキャラじゃなかったじゃん。なんつーかこう大胆不敵ってか、肝が据わっているというか。刀持ってるんだから人間の一人や二人ぐらい斬るのって普通じゃないの?



 ハクスイが泣き止まないまま、日はだいぶ落ちてきた。

 キアラに火の準備を頼まれた。

 この木の棒をクルクルすれば良いらしい。

 あたしがキアラに頼まれたように、板に木の枝を手で回しながら暫く擦っていると、煙が上がってきたので、キアラがなんだか木くずみたいのを放り入れて横から吹いてくれる火が上がった。火起こしって意外と簡単だ。

 あたしは生で食べるつもりだったけど、やっぱりみんなは火を入れてから食べたいものなのか。





「どうしてそうなってしまったかは朧げなのね。でもね。手にさ。感覚が残ってるのよ。斬った時に、これは死ぬ深さだ。殺したって瞬間が、刃先から柄に、柄から指に。私に。

 私ってさ。人に見せる顔選んでてさ。私の中で何でも見せれるのってヒカミとサクだけなのよね。なんだろうね。みんな私の内面を見ようとしないからさ。そんな人たちに私の内面見せたくなくて。

 見せたくないし。見られるのが怖いのかもしれない。私を完璧だと思いこんでる人たちに私の不完全な姿を見せたくないだけなのかもしれない。

 私はついさっき、見せたくない人に見せたくない姿を見せてしまったわ。

 本当にいざという時に、暴力でしか解決出来ない自分。取り返しのつかない結果。その結果に泣くことしか出来ない自分の姿も。誰にも見せたくない姿なのに。」



 ハクスイぶつぶつ喋りながら自分の手を見つめてる。おもむろに自身の手を眺める。あたしと違って、綺麗な手だなあ。これで仕留めたのか。やっぱやるじゃんハクスイ。


「汚い手ね。この手で殺したのよね。人を守る為の行為じゃなくて人を取り合って暴力で解決しようとした結果が勢い余って殺したって、汚い人間にも程があるわ。」




 ふと、後ろから歩の匂いがした。ついでに魚の匂いもするけど、そんなに多くは無い。


「おい。シラミズ。どうなってんだ。これ。」

「見ての通りよ。私が殺したのよ。」


 やっぱりハクスイは元気が無い。歩より全然大物仕留めたからもっと自信持って良いのに。


「ヒカミ退け。」


 どうやら、歩はハクスイの方が大物仕留めたのが気に食わなかったのか怒ってるようで、そのままハクスイの胸倉を掴んで立たせると殴り飛ばしてしまった。


「お前の被害者ぶった態度がすげー腹立つわ。加害者だろ。くそが。受け止めろや。現実逃避してんなよ。くそが。マジでぶっ殺すぞ。」


 えーっといくらなんでもそりゃ八つ当たりしすぎじゃない。


「歩さん。お願いします。京香さんを責めないであげてください。京香さんはわたしの為に。」


 本気で怒る歩と、止めるキアラさん。あれ、なんでこんな険悪なの?


「責めてねえよ。八つ当たりだ。ムカつくんだよ。アタイが当たり前にやってきた事をアタイは苦しんで向き合って生きてきたのに、こいつは逃げて終わらそうとしてんだぜ。腹立つわ。ぶっ殺してぇ。」


 歩も歩で自分の八つ当たりってちゃんと宣言してるくらいだし、え?何で?なんなのこの空気の悪さ。


「ヒカミ。ちょっとこいつ借りるわ。キアラ。お前は火種持って、アタイについてこい。」

「悪いな。任した。」

「その代わり。お前はあっちだな。」


 何故かあたしは歩に睨まれた。何でだろう。

 空気悪い所為か、歩はハクスイもキアラも連れてどっか行ってしまった。え、夕飯どうするのって。



 あたし一人で食料目の前に待てのまんまなの?

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