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不条識な狼の理26

♗26


 結論から言おう。いや誰もが何となく想像ついていたから先送りにしておいて触れなかっただけでやっぱりその通りってだけの簡単な話なんだけど。

 ダンジョンゲーム【ミノタウルス】はやはり通過点にしか過ぎなかったって事。ここを出て、はい。元の世界に戻れますよ。ではなくて、はいじゃあ次行きますよ。のこの展開。でもね。ほら、期待しちゃうじゃん。もしかしたらこれで終わりかもって。




 扉を開けたその先に広がる世界は、外だった。太陽光だった。山だった。広大な緑が広がる山の中腹。あたし達が立っているここより先もずっと、山が連なっている。あたしが新生区から出ることがないから、こういった風景を教科書でしか見たことがなかったけど、今流行ってるアウトドアという趣味に興じてる人にしてみれば当たり前の風景なんだと思う。

 ついさっきまでは。二場が創った世界で迷路に閉じ込められている[っぽい]世界にいたのに、現実世界にも存在が保障されている気持ちの良い自然の空気と太陽光に当てられ、まるで狐にでも憑かまされていたのでは?と錯覚に陥るけど、あたし自身が、血まみれのタオルを首に下げたまんまで、獣毛に覆われた半身。


 後ろを振り返っても、そこにいる仲間たちが、泥と返り血に汚れて武器持ってるあたり。やはりこれは本当に起きたことなんだろう。と。

 厳密に言えば、キアラは汚れてないし、歩に至っては現実世界にいた時からこんな姿であってもおかしくないんだろうけど。

 まあ、あたしにこの一ヶ月が夢でなかった事の証明に、またあの嫌味ったらしあの掲示板が目の前にあるってのもあるんだけどさ。

 御丁寧に、山の景観を壊さないように、山の案内掲示板風に、ちゃんと木で作ってあるけど、内容は地図手だったりゴミを捨てるな等の啓発メッセージでもなく忌々しいあいつからのメッセージだ。



   ▲

 ダンジョンゲーム【ミノタウルス】の攻略おめでとう!犠牲にした仲間の命を大事に胸に刻んで次も頑張ってね♡

 ここから先はオープンワールドだから、一気にゴールへ向かっても良いし、街や自然を堪能してからゆっくりクリアでもどっちでも超オッケー!お好みで進んでね。

 ゴールは目の前にあるバベルの塔だよ。命がけで頑張ってね。

   ▲



 文末には、またしてもデフォルメキャラの二場がピースしている絵が描かれていた。いちいち煽ってくるな。あの人は。

 ゴールは目の間にあるバベルの塔と書いてあるが。確かに見える。一つ山の向こう側の頂上に。コレと言わんばかりの塔があるのだ。



「いちいちゲームっぽい煽りで書いてくるけど、全然ゲーム要素無しなんだよな。大体さ。バベルの塔って平地に立てなかったっけ?それを山から天を目指す塔を建てるって傲慢にもほどがねえぜ。趣味が悪い。」

「ヒカミさん。本当に詳しいですね。だいたいの人はバベルの塔が何を意味してるのかすら分からないですよ。」


 とまあヒカミとキアラの会話。


「ああ。ゲームでやったんだ。」


 前々から思ってたけど、あんた一体どんなゲームやってるんだ。


「ここから先はアタイも佐竹孫から何も聞いてないから、全然わからねえんだが、キアラ、参考までにバベルの塔って一体何なんだ?」

「簡単に言うと、人間の傲慢の象徴です。旧約聖書の中にでてくる神話みたいなものなのですが。

 人間は調子に乗って神にでもなれるだろうと驕り、天まで届く塔を建設しようと試みます。その傲慢さに神は怒り、塔の建設に携わっていた人々の言語を変えてしまったのです。

 言語が伝わらなくなり、コミュニケーションが取れなくなった人間たちは各地に散り、バベルの塔は完成することがなくなった。まあ世界各地の言語が違うことの由来も含めた、人間の傲慢さを考察する話ですよ。」

「おれだったら、言葉なんて通じなくても、絶対完成出来ると思うんだけどな。」


 神話だから、ある程度のこじ付けは納得するけど。現実論、言語でのコミュニケーションを封じられた中で、何かを建設できるのは多分ヒカミだけだと思う。


「そうね。私も多分できると思うの。」


 あー。ハクスイも確かに出来そうだよね。ってかこの二人本当に大胆に何でもやっちゃえ主義だからね。


「だって、前経験あるんだけど、言葉全く通じなくてもセッ……(下ネタ)」


ハクスイが、何かを発言し終わる前に、ヒカミの蹴りが飛んできたので、この話は強制終了となった。


「とりあえず。ここで決と意思を確認しておきたい。おれとハクスイは何か願い事があってこの世界に来たわけじゃなくて、サクを助ける為にここに来たから、三人で無事にゴール出来れば何でも良いんだ。

 でも、君たち二人はまだ探し人に会えていない。歩は彼氏とその仲間たち。キアラさんは親友を。だからこのまま塔を目指すのか、探し人を探しに行くのかという選択肢が生まれる。」


 そうだ。確かにヒカミの言う通りだ。あの迷路を出るまでは完全に共同戦線の作戦だったけど、ここを出てしまった以上、解散の選択肢もあるわけだ。


「それは、アタイが彼氏に再会できるまで、お前らに付き合ってくれって頼むの可能なん?」

「んなの決まってんだろ。おれは君に助けられてるし、この一ヶ月君の鬼指導のおかげで、身を守れるぐらいに強くなったんだぜ。誰が断るってんだよ。」


 そうだ。歩にはこんなにも大きな借りがあるんだ。もし歩がそう依頼してくるのなら協力して当然だ。ってもヒカミやハクスイの性格上。借りなんてなくても協力するだろうけどね。


「それなら。アタイにも考えがある。まず。探しに街には降りない。このまま全員で塔を目指す。」

「それはあれか、気を使ってんのか?」

「違う。まずは。狼の見た目だ。お前正直言って、アタイら以外にその姿見られるの、本当はえらい不安なんじゃねえか?街って表現している以上。絶対にそこで生活している人間はいるんだろうし。」


 確かに。あたしは、このメンツ以外と会うということを全く想像していなかった。


『うん。正直言って、あまり見られたくないし、トラブルの元になりそう。みんなはもう見慣れたと思うけど、この見た目。普通の人は普通の反応ってわけにはいかないからね。』

「なら答えは簡単だ。街にはいかない。人を探すだけなら、街で正解なんだろうが。

 狼の件もあるし。キッカケは探し人だけど、それはキッカケでしかなくて、最終的な着地ってゴールすることじゃないか。」

「わたしも、先にゴールを目指す事で賛成です。というか。わたし自身が強くないので、皆様のゴールへの同行をお願いしようかと考えていたんですよ。」


 ん?キアラも歩も探し人は放棄してゴールを目指す?どういう事?あたしはてっきり、これから歩の彼氏とキアラの親友を探しに行く思ってたのに。まああたしの見た目はなんとか工夫するとして。


「ヒカミ先生!赤点の樫山さんが何もわかってないみたいなので課外授業が必要です!」


 ハクスイがふざけて、あたしへの補足説明を促してくれたけど、一ヶ月も閉鎖空間にいたせいで、この人のショウモナイ下事情に磨きか掛かったせいか。なんだか課外授業って言い回しに違和感を感じる。


「君の課外授業は独りで済ませてもらうとして。

 まーサク以外は全員勘づいてるし、一ヶ月前のサクがああなっちまった時に、おれとハクスイが二手に分かれて、一人でもゴールを目指すって選択を取ったのも。この考えがあったからなんだ。

 ここをクリアした時の願い事特典で【この世界に巻き込まれた全ての人に救済措置を】って言うんだよ。そうしたら、みんなで現実世界に戻れるだろ。そもそも論。この世界の目的がデータ取りなんだから、データさえ取れていればシステムの運営に支障を来すもんでもねえし。ってことは理不尽な願い事でもねえはずだ。」


 あっ……なるほど。


『すげえ……』


 ってかあたしが鈍かっただけ…?


「まーそんなとこだ。っても今すぐ塔に向かうってのは流石に体力的にしんどいな。目測で結構距離ありそうだし。今からぶっ続けで歩いて、明日の日が昇る頃到着とかそんなんじゃねぇの?山道ってちょっと進むだけでかなり時間かかるし。」

「アタイも同じことを考えてた。それに、アタイとキアラは大したことねえが、お前ら三人に至っては服洗いたいだろ。」

「そうなんだよ。ほんとさ、戦いってゲームでしか知らなかったけど、実際の戦いって最大の敵が返り血なんだよな。髪の毛もベッタベタだ。」


 確かに、さっきの戦いで、最も返り血を浴びたのはヒカミだ。髪の毛のべとつき具合が、もの凄い不潔感を匂わせる。


「とりあえず。水と食料と今夜の寝床を探しに行くか。早く行かねえと日が暮れちまう。」


 歩を先頭に、あたしたちは、歩き出した。


「しかし。今までの敵は怪物だったけど、これからの敵は人間かもな。」


 妙なことを言う。

 歩が指差した向こうに。またしても、嫌な表現だが、もう見慣れた人骨が転がっていた。


『何か動物に食べられたんじゃなくて?』


 あたしはいつも通り頭の悪い質問をしてしまった思う。


「動物だったら、あんな錆びた刃物が突き刺さった状態で白骨化するか?」


 やはり。あたしとは観察眼がまるで違う。言われるまで気付かなかった。

 確かに、その白骨には胸のあたりに何か棒のようなものが刺さっていた。きっと動物には出来ない業だ。


「気をつけろよ。日陰で、血と硝煙に塗れて生きてきたからこそ言える。

 追い込まれた人間ってのは、倫理観なんて消え失せて、略奪も殺しもする。良識ある男だって平気で女を犯す。そいつが悪いんじゃなくて、状況が悪いんだ。そうなっちまうんだ。」


 普段から、ヒカミとハクスイの言葉に考えさせられたりすることがあった。二人とはいつも同じ時を過ごして、同じ場所を生きてきたけど、いつだって二人はあたしとは違うものを見て発言して、あたしとは比にならないくらいの考えを持って発言するから、あたしはいつだって、二人に言われたことを考えることが多かった。

 じゃあ今の歩の言葉は?フザけた様子もない。大真面目に血と硝煙に塗れて生きている。事実だ。あたしたちとは違う。根本的に生きてる世界が違う。

 何せ、今この瞬間の歩は多分。今までで一番鋭い眼をしていた。人同士が殺しあった形跡のある白骨。歩の中の開けちゃいけない何かが開いてしまったのは確かだった。


「いや。テメエで言っておきながら、余計なことを考えてしまったんだが。追い込まれた人間は平気で人を殺す。それが仲間であっても例外ではない。

 あの迷路の中でアタイは二ヶ月近く滞在したが、結局アタイのダチには一人も会えなかった。ということは彼らはもう既にあの迷路を脱出している。

 ミノタウルスはアタイたちが倒した。だとしたら、アタイのダチはミノタウルスを倒さないで、あの迷路を脱出したと考えられる。」



 それはつまり、歩の仲間達は、誰か仲間の中の一人を生贄にして、脱出したって。


「まあ、追い込まれた人間の倫理観は消え失せるからな。」


 その時の歩は、まるで独り言であるかのように悲しげに空を見つめながら、あたしたちにではなく、空に向かって喋っているようだった。





 そんな状況下を、カンカン照りの太陽があたしたちを照らしていた。なんだか皮肉なもんだなぁ。歩はこんなに煮えたぎらない憂鬱を抱えているのに。どうして、こんなにも良い天気なんだ。





「なあキアラさん。二場はこの世界を、地球と同じ感じでつくってるのかなあ。こうやって太陽があるって事は月があって金星があって火星もある。って感じに。」

「うーん。わたしも、二場さんと話したわけではなくて、彼女の考察本と、肉声データを聞いただけでの推理ですが。

 この世界は確かに、彼女が創り出したものなんでしょうけど、一から塵や分子原子単位で構成した訳ではなく。元々あったものに、魂のデータ採取用設備をつけたってニュアンスの方が正しいかもしれません。

 わたしたちが暮らしていた現実世界も地球上。神隠しの次元の世界も地球上。オバケの世界も地球上。全ては同じ場所に存在しています。ただ、わたしたちがお互いに、現世の世界は現世の人々同士にしか見えてないし、オバケはオバケ同士でしか見えていない。

 つまり。同じ世界に存在しているはずなのにお互いの姿と世界が見えていないだけなんですよ。」



 引っかかった。思い出す。

   ▲

んー君はオツムが悪いから詳しい説明は省くけど、要は君がよく見るオバケの世界。理論上、同じ場所に存在している。

 私らが普段見えている人間の世界が壱。オバケの世界が参。

   ▲



 確かに。言われてみれば、あたしはかなり視える人ではあったけど、全てのオバケが視えていたわけではない。ハッキリ映る時もあればぼやっと映る時もあり、その姿は煙の時もあれば匂いと音と、または気配だけの時もある。

 それって、普段は参の世界で生きているオバケが、壱の世界にまで写り込んでいる。たまたまあたしはその視力が飛び抜けて良いだけであって。いやこれに至ってはたまたまじゃなくて、血が汚れてるせいだって散々言われたからそうなんだろうけど。

 そう考えると、この世界が弐。あたしは弐の世界であるはずの二場を纏う何かを煙として、壱の世界にいながら【認識】してしまったが為にこの弐の世界に巻き込まれた。

 今思えば、あたしがオバケや、妙な残留思念を視る時は、オバケ側もあたしを見ている感じがした。これはつまり、あたしの姿が参の世界でも映り込んでいる。って考えて良いんだろうか。

 ということはつまり、ゴールに辿りつかなくても、あたしたちは元の世界に戻れるのでは?と思ったが発言するのを辞めた。


 多分それって、神隠しと同じくらいの確率で戻れますよって話なんだ。だってあれだけ大量のオバケを見てきたあたしが、弐の世界つまり二場の黒煙を見たのはあの一回だけなんだ。その証拠に、あたしはこの世界に来た一ヶ月まだ一度もオバケを視ていない。多分同じ場所に存在していても視え辛い。そういう世界なんだ。

 そう定義付けないと、神隠しなんて伝説にならないでしょ。現に視えないし。




「ってことは月は存在するってことで良いんだよな?」

「そういう事で良いと思います。太陽が存在するなら月も存在しないと、条理にそぐわないし。」


 あたしは完全に、上の空で自分の思考に入っていたので、ヒカミとキアラが何を話しているのか全然理解出来なかった。


「ハクスイ。今日は新月か、満月だ。」


 なぜ、ヒカミがハクスイにそんな事を言うのか、あたしには分からなかった。青空には、相変わらず皮肉な太陽があるだけであった。

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