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不条識な狼の理24

♗24


 残念ながら一ヶ月が経ってしまった。

 正確には、この休憩所の来てから二十八日。全く陽の当たらない、迷路の中で、この休憩所の置いてある時計の針が何周したかで、計測しているので、もしかしたら半日単位のズレはあるんだろうけど。


 さて、この一ヶ月で何があったか。まず全員めっちゃ強くなった。本当に。本当だって。

 あたしは余裕で二足歩行で走れるようになった。本気で突っ込んだり、蹴っ張る時は四足だけど、基本は二足で何も問題ない。歩に言われていた目の強化もだいぶ出来上がって、前は簡単に殴られてたけど、避ける軌道がわかるほどには目が良くなった。


 キアラは持久力が凄く上がった。足が速いのはやはり才能があったみたいで、多分本気出せばマラソンとかも出来るんだと思う。あとは歩に最低限のナイフの扱いかたとか教わっていたから、何かあった時の身を守る力はついたんだと思う。

 ヒカミはハクスイに稽古をつけてもらって、棒を使って模擬剣術とか習ってたけど、やはり筋は良いみたい。普通にハクスイと勝負として成立してたみたいだし。

 ハクスイは、えっと。この人相変わらず。平気で下着で寝るんだけど。とりあえず、腹筋が六つに割れましたよ。とだけ言えば、どれだけ強くなったのか想像つくと思う。

 しかし、この一ヶ月であたしは新たな悩みが出来てしまっていた。




「んでなんだ。悩みって。」


 ヒカミは相変わらず縫い物をしながら言う。この一ヶ月トレーニング、食事、睡眠以外のヒカミはずっと縫い物をしている。休憩所支給品の布と糸使ってずっと服を作っているのだ。もちろん、ぴったり身体にあったものではなく、和服のような形をしていたり、ズボンではなくサルエルのような形をしていたり。縫うところがなるべく少なく。そして全員の体格差でも着回しができるようにと、ちょっと変則的な服を作り続けていた。器用すぎるだろ。


「メシの悩みだったら、おれも同感だ。ここの支給品って防災セットとか軍が食うようの缶詰しかねえだろ。十年は食えるんじゃないかって、凄い量あったけど、全部味気ねえやつじゃんか。そろそろ、外でウロついてる、狼とか猿のモンスターも食えるんじゃねえかって。」

『いや、確かに食べ物の不満はないとは言い切れないけど。うーんなんていうか。あたし、半分狼じゃん。もう完全にこの狼の身体をコントロール出来るようになってさ。余裕が出てきてね。』

「おう。良かったじゃねえか。」

『うん。そのせいで、ちょっと全員の体臭を嗅ぎ分けられる余裕が出てきたってか。』

「はあ?なんだよ。それ。おれ、臭い?」


 いや、ヒカミが臭いじゃなくて。


『臭いんじゃなくて。とりあえず、個々の匂いが直ぐ分かるのね。』

「怖っ、え?おれが小便した後、君近づかないでくれよ。」


 ごめん。正直な所匂いだけで誰が何処に立っているのかも分かるレベルなんだけど、それは黙っておこう。


『いや、ごめんそうじゃなくて、なんか悩みっていうのも変なんだよね。なんつーかこう知らなくても良い与太話ってやつなんだけど。』

「待って待って。聞くのに心の準備必要?」


 察しが良い。どうやらあたしがヒカミの匂いに関して喋ろうとしていることをもう察している。というか、この人もしかして、後ろめたいことでもあるの?


『いや、そんな準備ってほどでもなくて。なんつーの。ヒカミ以外からは明らかに女子の匂いがするんだよ。でもヒカミからは男の匂いがするってわけでなくて、純粋に女の匂いがしない。ヒトの匂いしかしないのね。

 やっ、だから何ってあれでもなくて、ヒカミって同性からめちゃくちゃモテてたじゃん。いやあ今更ながら納得だなぁって。』

「おっ……おう。」


 一体なぜ、ヒカミはこんなにも動揺しているのか。あたしはヒカミの匂いに関して話しただけなのに、露骨に目が泳いでいるのだ。


「なあ、その耳。聴力は良いのか?」


 なぜそこを確認する?


『人間のものとは比べものにならないぐらいに聞こえるよ。』

「ってことは、昨日のあれももしかして聞こえてたのか?」


 普段隠し事とか、めちゃくちゃ上手いはずのヒカミがこうも動揺してボロが出るなんて、昨日一体何があったんだ?こんな面白い事初めてなので、あたしは、然もかも知ってる風を装って、頷いて邪悪に微笑んで見せた。


「本当に。未遂だし誤解だし。おれは今すぐにでもこの生活を終わらせたい。」

『その未遂について詳しく説明してもらおうか。』


 何も知らないのに知ってる風で優位に話を進めるというのは。何て愉快なのだろう。だって今ヒカミは、汗をかいている。


「いや、その。ほら。昨日。ハクスイがな。」


 ほう。面白い事になってきた。


「この閉鎖空間で、男もいなくてシンドイ。一番おれが手を出しても問題なさそうだし、現状一番唆られる匂いだから、ちょっと相手しろって。」


 ……は?


「えっとな。ほらヤッてない。さすがにおれだって嫌だよ、なぜこのタイミングであいつとそんな関係になるのかっておれは不本意だよ。ただ、少し抱き寄せられて、耳を触られた瞬間に、」


 いやちょっと、色々おかしい。全部おかしい。


「よろしくない声が出た。」


 すごい赤面で、目を伏せながら言うのだ。


『……で?』

「歩が寝返りを打ったから、起きたかもってなって、休戦になった。」


 ああ。うん。何をしているんだあのアバズレクソゴミエロ侍は。


「だからな。ほら。何もしてない。な。」


 必死にヒカミが弁明してるけど。ごめん普通に考えてみて。ヒカミは何も悪くない。どう考えても。悪いの一人しかいないって。


『なんていうか、ヒカミ悪くなくない?』

「おれだって、自分が悪いなんて、少しも思ってねーよ。ただ、ほら。あの。その」


 突然、ヒカミはあたしを抱きしめてきた。そして、優しく耳を触ってくる。人間の方の耳を。


「こういうことされて、普通は声漏らさないよな?な!」

『まあうん。普通に耳に何か触れてるなって思うだけだけど。』

「おれ一瞬。その気になりかけたんだよ。そんな事になって見ろよ。今後おれはハクスイの顔どうやって見れば良い?しかもキアラさんとか察してきそうじゃん。でおれも嵌ってしまって抜け出せなくなるんだよ。」


 アンタの心配はそこなのか。友人と性的関係になりたくないというそれじゃなくて、多分嵌ってしまうし、それを他の人にバレてしまうというのが心配なのか。

 えーっと。あたしの考えがズレてるのか。ヒカミがズレてるのか。一番ズレてるのがハクスイなのは確かなんだけど。




 こんなこと知ってしまった以上。あたしは、歩を説得した。明日にでもミノタウルスを討ちに行こうと。もう十分みんな強くなったって。必死に説得した。




 そんなこんなで明日。晴れて出撃です。おめでとうございます。出撃理由は、クソゴミ侍のシモ事情です。みんなには黙っておきます。




 トゥービーコンティニュー!!

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