不条識な狼の理17
♗17
「というわけで。この場においては全員と接点があるのは、私だけなので、ハクスイこと。私、白水京香が仕切らせていただきます。」
全員でテーブルに着席し、ハクスイから話は始まった。
取り敢えず。五人でこんな世界に飛ばされてよく分からない状況なのに、ハクスイだけは全員顔見知りだという、更に意味分からない状況なのだ。
「えっと。復習になりますが、私、白水京香は。数年前のテレビ出演を機に、ネット女侍と色々書かれ、一部では微妙に人気を博し。昨年の居合抜き全世界大会においては三位を記録しました。どうぞよろしく。」
居合抜き全世界大会に出場してたという情報が新情報だったりするので、掘り下げたいけど、ここは我慢。
「それで先ほど、目覚めたばかりの怪我人のこの小さい生き物が、田中ヒカミです。ヒカミは片仮名表記です。出生時の母親のマタニティハイで後もう少しでファイヤーゴッドでヒカミにされるところでしたが、間一髪に片仮名表記で出生届けを出すことに成功しました。それは全て父の功績です。」
『いや待って。どうでもいい別に今言うことじゃない。初対面なんだよ。もっと役に立つ特技とかさ。』
あたしは思わず突っ込みを入れた。いやだってどうでも良いでしょ。長い文言の割には名前以外何も伝わってない。
「今、私にキレのある突っ込みを入れたのが、樫山さくら。さくらって呼ぶと怒るのでサクって呼んであげてください。特技はサクランボのヘタを口の中で結ぶことです。私より早いので多分私より、ベロチュー上手いと思うので、気になる人は後でしてもらってください。」
いや、特技とは言ったけど、マジでどうでも良い。本当に要らん情報だわ。
「それで、こちらにいる、腕に気合いの入った柄が彫ってある、目つきの悪い、」
「余村歩だ。」
遮った!歩よくやった。
「シラミズとは、その例のテレビ出演で知り合った。元ボクサーでジュニアのピン級王者。医者志望で、医学の知識は一通りある。しかし、現職はボクサーでも医者でもなく、都内の方で、素行の悪い連中と薬物売って生計立てている。よろしく。」
いやこれも、言いたい事盛り沢山だし、これが初対面の人の前で言う事かよ。もっとオブラードないの?
「うお。すげえ。現役のガチもんのヤクザやってんのか!やっぱ強そうなだけあるな。」
「まあ。平たく言うとね。」
ヒカミはいいよ。全然馴染めるよってか、なんだかお互い好感度高めぐらいな表情で見てるし。
『いやそこじゃ無くない?そっちより医者志望とか、どうやって助けてくれたとか。そっち質問すべきじゃない?』
あたしがそう言うとヒカミは顔に「だって格好良いし。」と書いている。どうしてこういう時に無駄に男子を発揮するんだこの人は。
「どうやって。助けたってもなあ。まあ取り敢えず、シラミズに頼まれてから狼とヒカミの所に駆けつけて、睡眠煙を焚いて。それで二人仲良く昼寝している所を、二場に最初に貰った狼を躾ける首輪っていう変な首輪を狼に嵌めてここまで運んできただけだ。あとは縫って輸血しただけだ。」
なんなの、あたしのこの変な首輪って二場からの物だったの?ヒカミは短剣でハクスイは日本刀であたしは呪いのネックレスでそして、さらにこの呪いの首輪までダブル装備ってなんなの。でもこれ着けてから、まともに戻ったって可能性が大きい。躾ける首輪って言われてるぐらいだし。なんかもう全般的に不本意だけど。というか、元医者志望のボクサーで現ヤクザってリアリストの上級職な感じするのに、なんであたしばっか胡散臭い物着けられて胡散臭い見た目なの。
そして一番の謎スペック。問題はもう一人のこの子だよ。
「えっと。あの。すみません。わたし、普段自分の好きなもの時じゃないとどうも口下手でして。あの。わたし。キアラっていいます。本名は木皿亜美なんですけど、そこから文字ってずっとキアラって呼ばれています。白水京香様と二場三命さんの大ファンなんです。」
「二場三命の?」
意外にもすぐに返答し、一番驚いてみせたのはハクスイであった。キャラ的に自分のファンってとこで色々弄りがありそうだったが、あたしたちの本星の情報が来たと言わんばかりに一気に真面目モードで食いついた。
しかし、木皿ことキアラの返答は予想の斜め上を言った。
「もしかして!皆様も二場さんのファンなんですか?」
違う!断じて違う!
どうやら全員顔に書いてあったらしい。キアラの嬉しそうな表情は一瞬で曇った。
「違う……んですね。残念。二場さんの名前ってファンでもないと知らないことが殆どですので、てっきり皆様二場さんのファンかと。」
あれ?二場さんのファンじゃないと二場さんを知らない。話が噛み合わない。
あたしがこの噛み合わない部分を解消する為に何か質問を考えていると。先に口を開いたのはヒカミであった。
「キアラさん。その感じから察するに、貴方はこの世界に来る際に、違う人に説明を受けているね。おれたちは、ここに来る時に二場三命と名乗る人から説明を受けているんだ。」
おれたちと歩のことも一括しているようだが、多分歩も二場と会っていると表情から察しての発言だろう。
「ちょっと待ってください。こんなに二場さんに会いたいわたしが会えなくて、別に合わなくても良さそうなあなた方が会えるってどういう事ですか?」
まあそれは街で推しでもない芸能人を見かけてしまった時と同じ論理。同じ気持ちなだろうか。
「そりゃ残念だ。おれらにもどうにもならんが、埋め合わせで、後で[十分間白水京香を好きにして良い券]をあげるからそれで手を打ってくれ。それで君は誰にこの世界の説明を受けたんだい?」
さっきのハクスイもそうだけど、この人たち。平然ぶってちょいちょいキレ味に溢れた言葉入れてくるから、これは突っ込むべきかどうか毎回悩む。
「それは、ぜひとも私からもお願いしたいわね。私も十分間好きにされたいわ。」
あたし『アンタが好きにされたいんかい!』
ヒカミ「センスなし。四点。」
歩「えっと。進めようぜ。」
仕切り直し。
「佐竹と名乗る白衣の男です。」
キアラの言葉で、どっと空気が重くなった。少なくとも、今回あの男に盛大に掻き回された、あたしたち三人は。
「もしかして。その佐竹さんもご存知なんですか?」
こう返されてしまうのも仕方ない。少なくともあたしら三人は露骨に嫌な顔をしたと思う。
「知ってるってか。なんていうか。佐竹が加害者でおれらが被害者のような関係だ。」
「それはつまりどういう、」
「いや。ごめん。百聞は一見にしかずだよな。サク。もう見せてやれ。」
見せてっても。早くない?普通の人は逃げると思うけど。
「大丈夫だ。遅かれ早かれバレるんだ。キアラさんが君のことを無理だというなら、それは仕方ない。それまでの関係だ。どんな態度とられようと、おれはサク側につく。」
わかったよ。あたしはフードを取った。そして、袖で隠していた右手も見えるようにワザとらしく、肘までまくって包帯も外した。
全員の視線。特にキアラからの視線があたしの右半身に注がれてるのがわかる。
『突然意味わからないし、怖いよね。あたしもまだ意味が分かってないし。怖いんだけど。とにかく、その佐竹って男に呪いと科学の合成ってのでこんな姿にされてしまった。ってのがあたしたちと佐竹の関係であって。』
キアラはあたしの、色素の抜けた目を見ながら、「怖いです。」と小さく呟いた。
「樫山さんの存在ではなく。二場さんの存在が。」
予想外の回答に意味がわからず。あたしたちは、目で動揺を確認し合った。
「樫山さん。違かったら大変失礼なのですが、あなたの父方、または母方の直系の血縁者に、何か呪術に手を出した方はいませんか?呪術というかおまじない程度のものかもしれませんが。」
思い当たる節が多すぎた。あたし自身が気付いていた爺さんの家の違和感。子供の頃からの霊感体質。そして二場と佐竹の言う狼に愛される汚れた血。
あまりの動揺と、まだキアラの思惑が見えない事から『と、言いますと。』と短く。イエスともノーとも取れない相槌を打った。
「人狼の少女の話は。二場さんの代表作です。」




